第5話 0の悪魔
それはこの世界が闇に覆われたと勘違いするほどに大きく濃い黒の生き物だった。
「やっと辿り着いたか、人間よ」
〈称号【数学開拓者】が与えられました〉
心地よい女性の声が深淵から呼びかけてくるような声と重なった。
「おい、人間」
「お前は、なんだ? 」
「俺か?人間の言葉で表すのなら0の悪魔といったところだ」
「0の悪魔!お前は人間の敵か? 」
「やっとまともに計算のできる輩がやってきたと思ったらこんなにも敵対心をむき出しにした獣だったとは残念だ」
話している感じ敵意は感じない。だがこの調子で話して怒らせてしまったら俺は愚かこの世界の誰も止められない化け物が世に放たれてしまう。ここは気になることを質問してみよう
「態度が悪かったのはすまない。俺はこの世界に今日やってきたばかりでさっき聞いた悪魔の話をうのみにしてしまっていた」
「そうか、人間!それなら仕方ない。してその悪魔は何の悪魔だ? 」
「名前まではわからないけどこの世界で暴れまわったって聞いたんだが」
「そうか、それだけではわからんな。して人間!お前の名はなんだ」
「三浜だ。0の悪魔、悪魔って何なんだ? 」
「ミハマ、悪魔はな。天国と下界をつなぐ架け橋みたいなものだった存在だ。あまりこの話に首を突っ込まないほうがいい」
「そうか」
どういうことなんだろうか、天国と下界をつなぐ架け橋みたいなもの?全く訳がわからない。
「0の悪魔、お前は俺の仲間なのか? 」
「ミハマが数学開拓を続ける限り、それは間違いない。お前の【0の悪魔】を使えばいつでも我が参ぜよう。いつでも呼べよ」
そういって何事もなかったかのように消えてしまった。
「ミハマ、大丈夫か?さっきのが0の悪魔? 」
「さすが勇者様ね!あんなのを呼び出せるなんて」
「私は召喚術は専門ではないがあんなのを呼び出せる術なんて見たことないぞ!!」
「……なるほど、『関わるな』というのは気になりますね。それにどうやら昔暴れていた悪魔も一人じゃないようですし」
「とりあえずあいつは仲間なんでしょう?戦わなくて済んでよかった」
「当然だ!イグザおまえはあれが見えなかったのか? 」
「そうだな、アレの強さは俺たちが束になってもかなわないレベルだろう」
0の悪魔がいる間は出てこれなかった4人が出てきて色々聞いてきたからすべて話したらこんな反応だ。ウスカンさんが言っていたことはたしかに気になるところばかりだ。だが親衛隊3人の言い方からして俺のスキルは案外悪くないかもしれない。
《おい、ミハマ!案外じゃない当然だ》
「えっ? 」
「ミハマ!?大丈夫か? 」
「……ああ、大丈夫ですよ」
頭に聞こえた声は空耳か?
《われの声を空耳というのか……フハハハハ!おもしろい》
ということは0の悪魔は俺といつでも一緒ってことか。
《そういうことだ、嬉しくてたまらないだろう? 》
その後俺たち5人は日も落ちてきたので屋敷に帰ることになった。ウスカン王子は父親や国民まで至るところで嫌われていたので心配していたが親衛隊の3人とすごく中が良くて安心した。俺の地球の父と母はいつも研究と仕事で忙しく、俺のことを大切にしていなかったわけではないが他の人の親と比べて少し哀しい気持ちになったこともあった。親どころか周りの人ほとんどに罵声を浴びせられたりするのは大変だろう。俺も少しでも手助けができればいいなと思った。
昨日は異世界に召喚され何時間も馬車に乗り、あげく悪魔を呼び出したりと大変な一日でぐっすりと眠ることができた。そして今日俺は街へ出かけようと思っているのだ。ちっぽけな街だがファンタジーでは王道のギルドみたいなところやいろんなお店の立ち並ぶ市場があってどうしても行ってみたいのだ。
「……なるほど、わかりました。ですが少しだけいいですか。ミハマという名前はこの世界では少し特異なので、イザクと名乗ってはいかがでしょう。そしてどこ出身かはここセイウス近くのアメンジ出身にいたしましょう。それでよければセイウスの街を楽しんできてください。最後に私との関連性はできるだけ振り払ってください。もし私の知り合いだとわかった途端に面倒なことになってしまいますから」
「わかりました!それでは楽しんできます」
《数百年ぶりの人間界、存分に楽しめそうだ。行くぞ、ミハマ》
俺の相方もこの喜びよう。さあ、ファンタジー味わっていこう!