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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
せいれんのむら
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お代×依頼


「あの婆さん、優しすぎるよなあ。何かあるんじゃないか?」


「そう言いながら全部荷物置いてきたわね」


「大丈夫、サラマンダーのお墨付きですから。それより、何方になさいますっ?」


「泉にいた時より生き生きしてません? っていうか、武器出せばいいからね、呪術発動しないでね!」


 練り歩く村の様子は昨日と変わらない。市場はそれなりに賑わって、人出も多かった。全体が織りなす和の雰囲気の中では、一行も目立つだろうが、他の来訪者も目立ちやすい。

 そしてそのように目立つ風貌の男二人が、明確に一行へ歩み寄ってきた。


「フン、森で野垂れ死んだかと思ったが、生きてたのか。精霊に助けてもらったのか?

 っていうかいつの間に女の子たちを侍らせて……!」


「? ……あ! トラベラヴァにいた嫌味なヤツ!」


「お知り合いですの?」


 高圧的な態度でユウシャへ話しかけるのは、オランジュの艶やかな短髪の青年だ。こちらもユウシャに負けず劣らずの冒険者風の装いで、隣に佇む大男はただ口を結んでいる。二人に対し、ユウシャも決して友好的ではない反応を見せた。


「泉の精霊、ウンディーネの姉君ですね。存じ上げていますとも!

 僕はセヴェーノ。様々な地で人助けや、モンスター討伐を生業としております。あ、こっちはデットヘルム」


 セヴェーノと名乗るオランジュの髪の青年は、問いかけたリノの手を取り甘い声で語り掛ける。

 ついでにと紹介された短く切り揃えられたビスケットカラーの髪の大男は、セヴェーノの態度に怒りもせず、礼儀正しく頭を下げた。ルカはセヴェーノの言動を静観している。


「そちらの可愛らしい桃色髪のお嬢さんも、なんでこんな奴と行動しているんです?

 ああ……お前、武器はどうした? 遂に武器を売らなきゃ宿にも泊まれなくなったか? 大所帯になれば尚更辛かろう。君たちも行く先不安なこの男に着いていく必要はない。

 僕は先程300ラヴで剣を仕入れたところでね。次は防具を、と思っていたところなんだ」


 絵に描いたような嫌味男に、ルカの手元が光り出す。ユウシャにしては予想だにしない武器の顕現であった。


「清々しいくらいド受けだわ……」


「え、なんて?」


「ハイ終わり! 行くぞルカ! リノ様も!!」


「ああん! これからですのに! またお会いしましょうね~!」


 風のように去っていく一行と、疑問符を浮かべ立ち尽くす男達。しかしセヴェーノは確かな手応えを感じていた。


「見たかデット! あの子たち、脈ありだぞ!」




 鍛冶屋の老婆の元へ急いで戻ると、まだ消えていないスケッチブックと羽ペンを彼女へ見せる。老婆は暫く眺めた後、険しい顔で三人を見上げた。


「……無いね」


「えっ?」


「見る価値が無い」


「そんな! でも、凄い呪術を放つんですよ彼女は! 彼女自身に力があると!?」


「思っちゃないよ。でもね、これはアタシが見てやるもんじゃない。

 ……まあ、嘘をついているようにも見えないし、多めに見てやるかね」


 実際老婆に食って掛かり反論したのはユウシャであったが、ルカも放たれた言葉には流石にショックを受けたよう伺える。彼女の心を映すかのように、スケッチブックと羽ペンは光の粉となり消えていった。


「ありがとう、おばあちゃん。そもそも武器として扱われるのが謎なくらいよ、……大丈夫。行きましょう」


「……そうだな。お婆さん、お世話になりました。本当にありがとう」


「サラマンダーを宜しくお願い致しますわ」


「待ちな」


 家屋を去ろうとする一行を、老婆の力強い一言が止める。


「千とんで40ラヴ」


「……は?」


「一泊一人10ラヴ。鑑定はほぼサービスだ一人5ラヴ。研磨が1000ラヴ」


「は!?」


 勿論料金の請求を考えないわけでは無かった。しかし、ユウシャにはこの破格を到底納得など出来そうにない。


「研磨高すぎない?」


「妥当さね」


「あんたも阿漕な商売やってんじゃないか!」


「相応しい技術力を売ってんだよアタシは!」


「そんなお金ありません!」


「内臓でも目ん玉でも売って金にしてきなァ!

 ……或いは、アタシの依頼を受けるんだね」


 背後の囲炉裏で揺れる炎は、老婆を地獄の鬼に見せる。交渉に完全敗北したユウシャが青ざめた顔でリノとルカを振り返れば、彼女らもまた手持ちがない為、苦笑と無表情で囲炉裏の前へと戻った。



「依頼って何です? 悪い事は出来ないですよ俺たち……」


「この村、人が多すぎると思わんかい。

 …難民だよ。隣村から一人残して全員逃げてきた」


 感情の起伏が少ないルカも、怖い話かと察知してしまえば膝の上の拳の力を強めてしまう。幸い日は高く、家の中まで明るいのが救いだった。


「そ、その一人って……」


「ずっと隣村にいるだろうね。生死は……わからんが」


「ひぇーっ」


「でも、その男が発端だ。狐狗狸(こっくり)様を呼びよった。そのまま操られて、ずーっと妖どもの器を作ってる」


ユウシャも悲鳴を上げ、怯えている。ルカは一つの疑問が浮かび、隣で身体を硬直させている彼を小突いた。


「ねえ、妖って、モンスターのこと?」


「……そう。この地方ではアヤカシって呼ぶらしい。ルカに以前話したけど、モンスターってのは思念や想像から生まれるものだ。形を用意してもらえば、そりゃ溢れかえるだろうな。

 ……待てよ、コックリってまさか……」


「御狐様じゃ。当然上級の妖さね。追い出すか、大人しくさせるか……そこは好きにしていい。

 どうだね! 1040ラヴが懸かった依頼に相応しいだろ!」


「命が懸かってるよ!!」




 結局、「逃げれば地獄の淵まで追いかける」と脅され、一行は隣村まで向かう事となった。


「カモられたんだ、俺たち!もしかして店主ともグルで……!」


「いえ、結局私達、何も取られていませんわ。言葉ではああ仰っていましたけれど、やっぱり良い方ですの。『人形村』にお住まいだった皆さまの事も案じておられました。助けてこそ、勇者ではなくって?」


「そうだけどっ、この辺の狐モンスターって神格もあり得なくないですよ……!?」


「人形いっぱいの人形村、か……」


 リノとユウシャの会話に、ルカの呟きが溶け込み、急に静けさが辺りを包んだ。

 村を出て更に西へ進むと、霧が出始める。三人の背筋に嫌な感覚が伝うのを、各々が感じた。


「そういえば『人形村』って、『冥界の森』に面していましたかしら~……」


「や、やめよ! これ以上不安要素を増やすの止めましょ!」


 ルカも今は、冥界の森って何?とは聞けない状況である。霧は森から流れるものか、或いは人形村から滲むものか。重苦しくも感じる空気に物怖じしつつ、一行は更に西にある村への歩みを進めたのだった。




 2章『せいれんのむら』 完

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