ツナガル×ミライ
「思い出探しはどうだったね」
二人がトバリの住まう家屋へ顔を出すと、老婆は顔も向けずに囲炉裏の前で背中を丸めていた。
「結局、彼女には辿り着けなかったけど……とても、良い旅でした。
それで、俺たちは何を? この際豆の収穫でも何でも頼んでくださいよ、あはは」
「そうかい。じゃ今から急いで、【ルカの残していったもの】を集めておいで」
「……は? え、なん、何のために」
「良いからとっととおしィーっ!」
「ヒィーッ!!」
理由を問おうとするユウシャに、遂に腰を上げて振り向いた老婆がカッと目を見開く。それについ怖じ気づいて後退ろうとした二人であったが、奥の襖を白い布がぐっと押し開くのを見て、そちらに目を奪われ動きを止めてしまった。
「トバリ殿。私が言うのも何だが……言葉が足りない」
「なんだい、若いのはさぷらいずが好きだろうが」
「えっ……え? 我楽多屋様、ですの?」
神々しいまでの光沢を見せる白いローブを被った男は、かつてのみすぼらしい姿と重ねるには暫しの時間を要した。結局深くかぶったフードで顔は伺えないものの、垣間見える細い腕は以前より僅かに血色が良いようにも見える。
「如何にも。精霊殿、ユウシャ殿。ルカ殿に会いに行こう」
彼の希望に満ち溢れた提案を聞けば、その日のうちに二人はメロを呼び寄せ、ルカのコーラルピンクのマントと投棄してあった布団を、我楽多屋の元へ持ち寄った。
「先に君たちを安心させるため、説明しておこう。
全てではないが、大切な記憶を取り戻した。それにより、並行世界の繋がる次元への渡航が可能となったのだ」
「ガラちぃってめっちゃスゴい人なんだぁ! それってスキル!?」
「が、がらち?」
「あ、メロはメロです☆」
「アイテム、異次元を渡る船。そしてこの男のスキル、特殊船舶の操縦権。どちらもSランクと見て相違ない」
「まあ、手に余った結果記憶が削れてしまったのだ。そうして浮浪者になりかけたのだから、世話が無い」
その記憶を引き出した、あるいはきっかけを作ったのは、トバリの鑑定眼だろう。我楽多屋は異次元への扉を呼び出し、浮かんだ船へルカのマントや布団、そしてユウシャやリノ、メロを乗せていく。
「さあ、出発だ」
ユウシャの手には、紙の束が握られていた。
君と離れていた長い日々。書き綴った手紙を持って、新しい旅が始まる。
今、君に、会いに行くから!
『パラダイムシフトスケッチ』 完




