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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
やくそくのとう
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婚姻の儀×神降の儀

 明朝早く、リノとメロ、ラウレンスとアマテオは館を後にし、儀式を行う『ソルス・スピロ』へ向かった。アニエス達兄妹は一頭の馬に乗って行ったようで、『魔王城』から連れ立った2頭にそれぞれが跨って道を急ぐ。

 仰々しくも高い壁に囲まれた都市が見えてくれば、速度を緩め門へ進んだ。しかしその足を止められることは無く、4人の姿が兵士たちの目に留まればすぐにその重厚な門は開かれる。市民も普段のような賑やかな様子ではなく、どちらかと言えば不安を滲ませざわついているようであれば、行われる儀式を知ってか知らずか、今が危機的な状況であるとは理解しているのであろう。


「兄上たちが話を通してくれていたようです。急ぎましょう」


「王子様とその誘拐犯を共に招き入れるなんて、そうそう出来る事ではありませんものね」


 一度は誰の迷惑も考えず突入したラウレンスも、リノの何気ない発言に現状を自覚し頭を項垂れる。城に近付けば兵士の誘導があり、促されるままに馬を降り、4人は城内へと足を踏み入れた。



「ああ……! アマテオ、アマテオ……!」


 まず4人を待ち構えていたのは、アニエスではなく王と王妃その方であった。アマテオを見るなり王妃は隣に凶悪であった魔王がいる事も気にせず駆け寄り、自身よりすでに身体の大きい息子をしっかりと抱きしめる。

 アマテオが母である王妃の背を優しく撫でる間、王の赤い瞳と魔王の金の瞳が交わった。互いに皮膚がヒリつくような感覚を覚えていれば、先にラウレンスが頭を垂れる。


「アニエスから話は聞いている。竜の一族とは言え、お前を到底許す事は出来ん。しかし、息子の友人の……そして、世界の危機だ。()ってくれるな」


 王がラウレンスの頭上から問いかければ、その顔はゆっくりと上げられ、やがて力強く頷いた。その時、固い材質の階段をカツカツと音を立てながら降りてくる一つの影がアマテオの目に入る。

 黒い生地よりも、広がる金の刺繍が基調と呼んでも良い、煌びやかな正装。ココナッツカラーの前髪をいつもと違って掻き上げ、その姿は随分大人びて見えるが、それは兄であるアルカイニの姿であった。


「よく決意し、ここに来てくれたな……アマテオ。二人も着替えてくれ。庭園に準備が整っている」


 衣装の胸元に埋め込まれた宝石が厳かに煌めく。それが何よりも赤い赤であれば、まるで第三の瞳のようであった。



 アマテオにもラウレンスにも、新郎としての白に赤や金の刺繍が施された正装が宛がわれ、その間儀式の流れが説明される。本来この国では長く派手に行われる祭事であったが、事情が事情であるため祈りや誓いの部分を抽出せざるを得ない。

 庭園に作られた式場は、通常と異なる点が目に見えて二つあった。それは、祝いごとというのに参列者が神妙な面持ちであること。そして、この国の式では男神の絵画が飾られる場所に、参列者に向き合う形でアルカイニが鎮座していることである。

 いよいよ新郎の父としての国王と共に、アマテオとラウレンスが式場となる庭園へと現れた。参列者の間を進み、アルカイニの前へ立つ。その席には落ち着いたウィスタリアカラーの衣装に着替えたアニエスの姿もあった。王によって真言が唱えられ、新郎である2人が覚えたばかりの誓いの言葉を口にする。アルカイニに変化は無く、アマテオは終始荘重な雰囲気をまるで葬式のように感じていた。

 式において重要であった過程が終了してしまう。ラウレンスが心配そうにアマテオに視線を向けようとしたその時、アマテオが先に彼へと向き直った。


「ゴンちゃん! 君はほんとに僕を愛している!?」


「ゴンちゃん!?」


 ラウレンスに呼びかけられた愛称に、思わず王が声を上げる。


「今でも僕と一緒にいたいと思っているか? 男神様じゃない、僕に誓ってくれ!」


 今までになく声を荒げたアマテオに、ラウレンスも暫し目を見開いたまま硬直した。しかし、問われた言葉を呑み込んで答えを算出してみるならば、それは希望に満ちてとめどなく口から溢れ出す。


「……勿論だ。あの時も、今も、アマテオが大好きだ。お前が私の背にしがみついて、髪に頬を(うず)めて……愛を誓って。あれ程の幸せを未だ超えたものはない。愛している……愛している、アマテオ!」


「っ僕も大好きだよ、ゴンちゃん」


 アマテオが半ば飛びつくようにラウレンスに迫ると、唇を重ねた。参列者はざわつき始め、リノとメロは顔を合わせ少女のようにはしゃいでいる。初めて感じる他人の唇の感触に、アマテオは恥じらいからすぐに身体を離そうとするものの、腰に回されたラウレンスの腕がそれを叶えてはくれない。


「キャー! 素敵じゃなァ~い!」


 しかし、アルカイニの身体を借りて叫ばれたその言葉に、一同は静まり返った。


「……男、神……様?」


 静寂の式場で、嬉々としてはしゃぐ兄にアニエスが恐る恐るといった様子で呼びかけてみる。するとそっと兄の唇は弧を描き、見た者の背筋を凍らせた。次の瞬間には兄の目が虚ろになり、鼻からつう、と血が伝って、背後に飾られた花の山に倒れこんでしまう。


「にっ兄さんッ!!」


 それを見てまず声を上げたのはアマテオであったが、王も彼と同時にアルカイニの元へ駆け寄った。一瞬気を失った様子の青年も、彼らの呼びかけや参列者の騒ぎにゆっくりと瞼を開く。その姿は酷く気だるげであったが、瞳の奥に強いものが感じられた。


「男神様が、降りられた……。わかる、わかるよ、ルカの居場所が。行こう……『約束の塔』へ」




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