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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
やくそくのとう
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塔の行方×情報共有

 玉座の間に残された者全員で城の外へと飛び出す。揺れは収まって暫く経っていたが、辺りのモンスターたちは未だ狼狽えている様子であった。


「ちょっと、塔なんてどこにもないけど!?」


 メロの話していた塔を探すべく空を見渡したカンビオンは、全く真新しい情報を得られず焦燥を含む声を上げる。


「木々に遮られているのかもしれませんわっ」


「ビオち、空から見てみよ!」


「分かった。おいラウレンス、お前も飛べるんだから手伝えよな!」


 ツンとした目つきでそう言い放って飛び立つ、見たことのないカンビオンの態度に、魔王は驚いた様子で目を見開いた。しかし次の瞬間には穏やかに微笑んで、硬い地面を蹴り上げて彼に続く。


「……っ何も変化は無いぞ!」


「木に隠れちゃってるんじゃないの?」


「そんなわけないよっ☆ だってきっと、すっごく大きいんだもん!」


 空から改めて塔を探した魔王、カンビオン、メロの三人であったが、木々から飛び出す高さのものは発見出来ない。館さえ生い茂った葉に隠されているのだ、その塔も見えないほど大した高さでは無いのではと勘繰るカンビオンを、根拠も持ち合わせていないというのにメロが強く否定する。

 暫くの探索を終え戻ってきた三人から話を聞き、ユウシャも頭を抱えた。


「そんな……でも、さっきの地鳴り。確かに何かが動いたはずなんだ……っ」


 言葉にはありありと焦燥が滲む。寒くはないのに身震いしてしまうような不気味な風が吹き抜けて、リノはなびく髪を手のひらで押さえながら考えを口にした。


「我々より先に、アニエス様が何かお気づきかもしれませんわ」


「! そーだよっ☆ アニアニとりちち、それにジャックさまがいれば、塔を見つけてくれてる! 見つけられなくても、何か思いついてるよ!」


「ああ……ああ! そうだな、『パンプキン館』に急ごう!」


「足を貸そう。その代わり、我々も同行させてくれ」


『パンプキン館』へいざ向かわんとするリノ、メロ、ユウシャに、魔王ラウレンスがそう提案を述べる。隣に寄り添っていただけの王子アマテオも、彼の提案によって同行を許されただろう。しかし、自ら言葉を発さなければならない、そう使命かけじめのように感じては、前へ一歩乗り出した。


「兄さん! 私は、何者にもなれなかった。何者かになりたいと、自ら願わなかった。

 アニエスも兄さんも、やりたい事……やらなければいけない事を、見つけたのでしょう? それなら私は、……っ私は、愛しい妹と兄の力になりたいのです……っ」


 アマテオが俯き、拳を握る。それを心配するように眉尻を下げることも、安堵させるように微笑むこともせず、ユウシャもといアルカイニはまっすぐと見つめていた。


「……そうだな。三兄弟、力を合わせる時かもしれない。

 行こう、アマテオ。そして革命を望んだ、魔王ラウレンス……貴方も」


「ビオちとガンちゃんはどーする?」


 異議を唱えないことで同意を表したリノとメロであったが、時は一刻を争い、意思表示のない二人へはメロが問いを投げかける。問われたガンコナーは悩む素振りもなく首を振り、カンビオンもまた背を向けていた。


「城主のいない城なんて恰好の的だぜ。ここは任せて行ってくれ」


「かっこつけちゃって、だっさぁ♡ 事情を知らないボクらが行ったところで足手まといだからだろ。

 メロ、お前全部終わったら戻って来てよね! 二人で……()()()()やるんだから」


 メロへの心情を表すように、彼の後頭部でハート型にねじれた髪が揺れる。メロは嬉しそうに微笑んで、仲間たちと共にアニエスの待つ館へ向かうのであった。



 ラウレンスとアマテオ、ユウシャとリノそれぞれ一頭の馬に乗り、メロのナビゲートを元に『パンプキン館』を目指す。

 景色の変わらない深い森の中、全員が視界に洋館を捉えたその途端、メロは一直線に玄関扉まですっ飛んでいった。


「シルち~~~!!」


「お帰りなさいませ、メロ様。良いお召し物で……。皆様も、お待ちしておりました」


 美しい角度でお辞儀するシルキーに、初めて会うラウレンスやアマテオも改まって馬から降り、深々とお辞儀を返す。シルキーに呼び付けられたポルターガイストによって二頭の馬は預かられ、5人は茶会を行った大きな部屋まで誘導された。



「だからこうしていても……、アル兄さま! ッ、テオ!! あはっ兄さまなら出来るって私信じて……は」


 広いパーティー会場ともなったダイニングを覗くと、その端でアニエスとリッチ、ジャックが何やら話し込んでいる。すっかり集中した様子ではあったが、彼女は視界に兄弟を捉えた途端、跳ね上がるように立ち上がって駆け出し、兄に飛びついた。

 しかし、その視界にどう見ても魔王という風貌の青年が映り、口をぽかんと開ける。


「アマテオの、……妹君(いもうとぎみ)。すまないが、事情が事情だ。今は和解して……いてっ」


「ごめんで済むわけないでしょっ!」


 そしてなんと、皆が恐れたその魔王の頭を何の物怖じもせずぺしっと(はた)いたのであった。その姿にリノやユウシャも唖然とするが、彼が憤りもせずただ項垂れているのであれば、現状に協力的であると言えるだろう。


「まあ良いわ、あとでお説教してあげる。

 兄さまたち、先程の揺れについて何か知ってる? 塔が現れた。誰かが約束の改定を強く望んだんだわ」


「ええと……アニエス様、革命を望まれたのが彼……魔王ラウレンス様なのです」


「え!?」


「それから塔が現れたことで、ルカが女神様に攫われた」


「はあ!? ちょっ、ちょっと!

 いちから説明して~~!!」



 ユウシャらはアニエス、そしてその場で静かに着席していたリッチやジャックにも、事の始終を語った。リッチは対峙する問題の大きさに表情を曇らせ、アニエスは旧友の裏切りとも呼べる事態を受け入れられず、部屋を忙しなく歩き回る。


「……違う、違うわ。リュシェには考えがあるのよ……大丈夫、大丈夫……」


「確かに塔は現れたんだな。女神の、前に」


「そう! でもメロたちには見えないって、それじゃ塔が透明ってことになっちゃう! そしたら、るかるかセンセーも透明になっちゃうの!?」


「メロたん落ち着いて。塔はあの揺れで確実にこの世界からの入口を作ったはず。俺たちにはまだ見つけられていないだけだよ。

 なら俺たちは、早急にその塔を見つけ出せる存在に協力を仰がなくてはいけない」


 リッチの語るキーパーソンに気付いたユウシャの瞳が、この世の何より赤く煌めいた。


「男神様、に? っでも、どうやって……っ。俺たちにリュシェのような力は備わっていない」


「アル兄さま、男神様を呼ぶ方法はあるわ。でも、だからこそ今、その為に聞いてほしいの。

 この世界の成り立ち、その根底にある男神様と女神様の関係について……」




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