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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
せいれんのむら
8/88

鑑定×鍛冶


「流石に同行は断られてしまいましたわね。すっかり暗くなってきましたけれど……、これからどうされます?」


「残念だけど、彼の現状を考えれば仕方ないよな。……そうだな、ここ『製錬の村』でしょう? 良い武器が仕入れられそうだ。武器屋を覗いたら宿泊施設を探そうと思います」


 路地裏から出てくれば、この村へやって来た時より随分薄暗い。逢魔が時に人々は急ぎ足になる。一行も急いで武器屋へと向かった。




「さ、300ラヴ!?」


 漸く見つけた店外陳列の武器屋にて、ユウシャは声を上げる。聞きなれない通貨に、ルカは驚くべきか分からずに二人の交渉を眺めていた。


「ちょっと高くないか……?」


「うちは良い商品取り扱ってるんだ、10テアもまける気はないよ! 寧ろこんな時間まで開いてるんだ、感謝のちっぷが欲しいくらいだね」


 また聞きなれない通貨が現れた。これで買える外套ありますか?と安易に買い物した時とはわけが違う。ルカもこの世界の通貨に対して興味が湧いてくる頃であった。


「リノ、武器の価値わかる?」


「んー……、詳しい事は分かりませんけれど、良し悪しはありますから。10ラヴくらいで買えてしまうものもあれば、何千ラヴのものまでありますでしょうね」


「ラヴとテアって、ドルとセントみたいなものかしら。1ラヴって何テア?」


「1000テアですわ。ルカの世界の通貨はその……どる? せんと? ですの?」


「うーん、ちょっと違うのね……。いいえ、エンのみよ」


 女性らが他愛のない会話をしている間も、店主とユウシャの押し問答は続いていた。そこにザク、ザク、と足音が混ざり始める。


「あんたまた阿漕な商売してんのかい。坊やも、良い剣持ってんだからここで買い替える必要は無いだろうさ」


「げっ、トバリのばあちゃん! なんでまた……っ、ああ、そうかあ……」


 足音を立てていた者の正体は、白髪で腰の曲がった老婆であった。老婆の登場に店主は大層怪訝そうな顔をしたが、何か気付いた様子を見せた後は、諦めたように肩を落として店じまいを始める。


「え、ちょっと! 何勝手に片付け始めてー」


「おいで坊や! その剣見てやる」


 不敵な笑みを残し、老婆は一足先に店を出て行った。ルカとリノはユウシャに視線を向け、意向が一致したようにこくりと頷く。

 老婆を追ってみれば、かやぶき屋根と思わしき古風な一戸建てに辿り着いた。森を出てから外気の温かさを感じていたが、この辺りは更に暑い。


「お、おじゃましまーす……」


「おばあちゃんのお家もこれ程では無かったわ。あ、こんばんは」


「お邪魔致します……あら」


「その剣見せてみな」


 少々がたついた木の引き戸を開ければ、各々が挨拶を述べ、足を踏み入れた。目の前の畳に正座する老婆に、ユウシャも悪い事はされないだろうと素直に鞘ごと剣を差し出す。老婆は鞘から抜きもしないまま、まずは剣を眺めた。


「……ん。今はB-ってとこかね。でも使い方が悪い。これじゃよう切れん。

 ……ああ。アタシが研げばB+、いやA-にゃあなるね」


 何やらブツブツと呟いて、漸く抜刀すれば納得というようにその刃を見つめ、唇に弧を描く。


「その鑑定眼は先天性ですの? それとも、どなたからか頂きました?」


 リノの淑やかでありながら鋭い問いかけに、鑑定中だった老婆は思わず、ゆっくりと顔を上げた。しかしその笑みは未だ崩されてはいない。


「先天性、と言えば先天性さ。せんすが良かったんだろうね。あの子が見初めて手伝いを申し出ているだけだよ、精霊のお嬢ちゃん」


「確かにこのお婆さん……凄いスキル持ちだ。Aランクの鑑定眼、ってところか。でもリノ様、何か問題でも?」


「いいえ、何も問題はありませんの! どうも精霊の気配がしたものですから。失礼致しました」


「意外とご近所さんね」


 やけに暑い理由に合点がいけば、久しぶりの畳にすっかり気の抜けたルカは腰を掛け、頬杖をついてのんびりと言葉を零した。


「ルカ、寛ぎすぎじゃないか?」


「いいよ、あんたたちもゆっくりしていきな! 久しぶりに良い仕事が降ってきたもんだ。

 風呂は左奥の扉。今夜は泊っていくと良い」


「そうですか? いやあ、ラッキーだな!」


「私お仕事を見てまいります。邪魔は致しませんの。皆さま、おやすみなさい」


 リノは旅仲間に一礼して、老婆の後に付いて行く。温かなお風呂、武器の強化、旧友との挨拶。それぞれ良い収穫を得て、思い思いの夜を過ごす事にした。




 空がぼんやりと東雲色に染まる頃、懐かしい匂いにルカが一番に目を覚ました。


「……ご飯だわ!」


「そう、ご飯だよ。作業場の精霊さんも呼んできな」


 一行が囲炉裏を囲む頃、それぞれにお粥に似た食事が並べられる。

 温かなそれを口に運べば、ルカは鼻がツンとするのを感じた。寂しいだとか不安だとか、そういう気持ちは予想もしないところで現れるものだ。


「……美味しい。お米?」


「オコメ?こりゃ豆の一種だよ」


「あんまり例が無いので信じてもらえないかもしれませんけど、彼女は異世界転移者なんです。

ルカ、この豆煮るとどろどろになるんだ、栄養あるし買っていこうか?」


「へえ、北の出かと思うたわ。この豆は村の主食だ、市場で買えるが品薄だろうよ。

 ……そら、食い終わったかい?剣を返すよ。切れ味が違う、指落とさんようにな」


 空のお椀と引き換えに、ユウシャへ剣が投げ渡される。体勢を崩しつつも受け取れば、早速鞘から引き抜いた。


「すっごい……貰ったばかりの頃を思い出すよ。お婆さん、ありがとうございます!

 ……そうだ、ルカ。君の武器も鑑定してもらわないか?」


「魔法武器の鑑定は難しいのでは……」


「修繕は出来ないが、鑑定ならまあ……やれん事もないかね。但し! アタシはBランク以下の武器を見る気は無いよ」


 キッパリと言い放たれた言葉に、昨日の店主が彼女の登場で販売を諦めた理由を悟る。しかし、対するユウシャも自信ありげに胸を張った。


「あんなに強い攻撃を放てるんだ、B以下な訳が無い!ルカ、ペンと魔導書、顕現してみせてよ」


「うーん、スケブはアイデアが無いとどうにも」


「それでは、丁度良い殿方を探しに参りましょうかっ」


 魔導書と呼ぶには薄すぎる、それこそ魔導書の同人誌とでも呼ぶべき武器の顕現は、自身の感情に左右される為ルカは唸り声を上げる。しかしリノまで乗り気になれば、鑑定をお願いするほか無いようだ。腰を曲げお椀を洗う老婆は振り向きもせず、ただ優しい声で語り掛ける。


「外に準備が必要なのかい。……まぁ、遠くにゃ行かんだろ。荷物を置いてお行き。

 さっさと見せないと鑑定してやらんよ!」


「は、はいっ! 行ってきますっ」




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