覚悟の扉×金色の魔王
ついに一行は玉座の間の前に立った。見上げるほど大きな漆黒の扉は巨悪な佇まいで、思わず尻込みしてしまう。しかしここに来るまでなんの妨害もトラブルも無く歩んでこられたのならば幸いで、カンビオンの言葉通りであると感謝せざるを得なかった。
「こ、この先に、魔王が……っ」
「ユウシャ、……大丈夫。もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、話が出来るかもしれない。それに、みんな一緒」
四人で手を繋ぐ。その生きているどれもが冷え、僅かに汗ばんでいた。そんな一行の緊張感に影響を受けながら、後方に立つカンビオンはゆっくりと距離を取る。
「ここからはボク、何も出来ないから。さっさと王子連れて帰ってよね」
「はは、りょーかい。でも、ありがとう。じゃ、行くぞ……」
四人で重厚な扉をぐっと押し込む。開いた先には外から差し込む光で漸く見えるばかりの玉座と、そこに深く腰掛ける褐色の青年が伺えた。
そのヘリオドールのような金の瞳を見つめると、一瞬で身体が総毛立つのをそれぞれが感じる。勝手に城へ足を踏み入れたことへの怒りは感じられない。ただ穏やかに腰掛けるその姿は、一行の要求を待っているようにも伺えた。
「魔王! 単刀直入に言う……。俺の大事な弟を返せ!」
ユウシャの第一声は至極真っ当で、その正当性を表すように透き通って部屋に響いた。対して魔王はその一言に、表情一つ変えはしない。
「断る。アマテオの事は忘れろ」
そしてその一言で一蹴した。ゆるぎない正義を翻した。それ程の重みが、その一言にはあったのだ。
「はい分かりました……なんて、引き返すとはそっちも考えてないだろ。
アマテオは無事なのか? 何故、弟じゃなきゃいけなかった?」
しかしユウシャも引き下がりはしなかった。畳み掛ける質問に、未だ罪悪感も怯む様子も見て取れない。ただ短く、面倒そうな溜め息を吐くのみである。
「死なせはせん。ここで私と一生を共にする。貴様の国は貴様が支えると良い。アマテオもそう望んでいる」
突き放されたような感覚に、ほんの一瞬沈黙の支配を許してしまう。しかしぐっと歯を食いしばり、ユウシャはグリップを握った。
「……良いよ。テオが望むなら、俺はまた城に戻る。でも、アイツも一緒だ。父さんも母さんも、アニエスも待ってる! だから、返せ!!」
リノも杖を構え、ルカは羽ペンを握って後方へ下がる。メロはパソコンを開き、魔王の情報を引き出そうと既にキーボードを叩いていた。
「……ならぬ。もう二度と、奪われはしない」
玉座から魔王が立ち上がる。ずしりと重みのある竜の尾が床を叩き、小ぶりな黄金の羽が風を混ぜる。彼の纏う膨大な魔力が溢れるように広がり、一行を圧倒した。
「我が名はアマテオの兄、アルカイニ! 悪しき魔王を討伐せんとする真のユウシャ! そして彼女たちは、一緒に支え合って旅をしてきたっ、大切な仲間! ルカ、リノ、メロだ!」
「……良かろう、4人の勇者たちよ。
我が名はラウレンス・ドラゴニアン。太陽の子を求め、この玉座へ上り詰めた魔王なり。かかって来るが良い」




