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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
まおうじょう
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作戦の結末×地竜のお祈り

 メロの掛け声で、3人は一斉に森へと飛び込んだ。幸いモンスターは追ってこず、走る速度も森に入ってすぐに失速していく。


「だいぶ、騒げただろ……っ」


「ええ……、っしかしメロ……、大丈夫でしょうか……」


「っ、信じよう……仲間だもん。これ、メロに持たされた。一帯のマップくらいならルーター(メロ)がいなくても見れそうだから、これで裏口までの迂回ルートを確認して行こう」


 ルカが見せたのは、見慣れたハート型のショルダーバッグと、その中に入っていたノートパソコン。今はいない彼女と目的地での再会を願い、一行はその電子機器を起動させるのだった。



「早めに正門近くから離れて正解だったな、まだ騒がしい」


「私たちを探し回っているのでしょうか。それともメロを……」


「お、スタッフオンリー的なドア発見。二人とも、取り敢えずあの中に入ろ」


 3人が大きく迂回して漸く魔王城の裏手へ回ると、喧騒が城越しに僅かに響いてくる。焦りや不安は募るものの、見るからに従業員専用といった様子の扉を見つければひと先ずの安堵に胸を撫でおろし、速やかに侵入を試みた。


「ざぁこ♡ 遅いんだよ」


「だよ☆」


「ッメロ!」


 開くと中は灯りも窓も何一つ無いようで薄暗く、奥まで続く石の壁は冷ややかで物悲しい。そんな中聞こえた協力者と仲間の声に、3人はこれ以上ない安心感を覚えた。ルカは真っ先に駆け寄って、彼女の首に鞄のストラップ部分を掛ける。


「これ、ありがと。どうやってここに?」


「すり抜けチートを使っちゃいました~☆ それどころかバグか? えへへ、反って持っててもらって良かったよぉ!」


 城の護衛モンスターたちも、突然消えた侵略者にさぞかし恐れおののいていることであろう。混乱によって冷静な判断力を欠いているのであれば、裏から侵入という大胆な策略にも気付かれず済んだようで幸いだった。


「ちょっと、これ以上ボクを待たせる気?こっちはヒマすぎてヒマすぎて、一冊読み終わっちゃってるんだけどぉ?」


「おお、絵に描いたようなオスガキ」


「ははっ。本って絵本かよ、かわいいな」


「はーー望んでない返答どーも!」


あまりに呑気に合流を喜んでいる一行の姿に苛立ちを覚え、カンビオンがゆらゆらと一冊の本を見せびらかすように揺らす。見た目相応の言動と絵本に一層和やかな雰囲気に包まれた一行に、煽ったはずの少年は不機嫌そうに口を尖らせた。


「《ちりゅうのおいのり》。ビオち、それってどんなお話なの?☆」


 メロが絵本を覗き込むと、表紙には土色のドラゴンのイラストが描かれていた。地竜のお祈り。興味を示せばカンビオンへと問いかける。問われた当人はこれから王子奪還の時というのに関係のないものにまで関心を持って、随分呑気なものだと思いつつも、絵本を道中の書庫へ戻しつつ語り出した。


「地竜って、とにかく醜いだろ? だから誰にも愛されない。そんな自分を憂いて夜空にお祈りするんだよ。


『だれにもあいされないなら、ぼくのからだをいっそくだいて、ちいさなおほしさまにしてよぞらへまいてください』


ってね。

 その願いを創造神が聞き届けた時、その手にルールブックが現れる。神さまは一つの約束を付け足すんだ。


『醜い地竜を心から愛する者が現れたなら、そして愛が重なったなら、その種族の一等美しい姿へ地竜の姿を変えよう』


 その途端、祈った地竜は夜に光るリンドウの花に姿を変える。毎夜地竜とリンドウの花は知らぬ間に愛を交わしていたんだよ」


「ロマンチックね。地上に輝く星になれたってこと」


「ええ、ええ。今も形を少しずつ変えて、その説話は長く語り継がれているようですわね。

 元は敬われるはずのドラゴン族の中で、その容姿から軽視されることの多かった地竜へのイメージを払拭する為に作られたお話でした。実際にそのような事象は確認されておりませんが、ドラゴン族は人型への変化(へんげ)を可能とした神秘的な種族ですから、或いは……ということも、あるかもしれませんわね」


「そんな種族だからこんなフィクション物語が作られたんでしょ」


「そんなお話がビオちは好きなくせに~☆」


「は!? お前たちが来るのおっそいから暇つぶしに読んでただけだし!

 ……ま、でも良いんじゃない。このくらいの救いがあっても。

 この螺旋階段を上った先、一番上の奥の扉が玉座だよ」


 カンビオンが足を止めると、一行は頭上に視線を向ける。螺旋状の階段が上へ上へと伸びており、その途中が幾つかの廊下に繋がっている。

 そのてっぺんに魔王の鎮座する玉座があるのだろう。そしてその膝には王子が抱えられ、そっと顎を掬われる。


「……ユウシャ、弟さんってどんな容姿なの?」


「なんか悪い想像に使われそうだから言わない」



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