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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
まおうじょう
74/88

時間稼ぎ×大作戦

 

「城付近にはより多くのクアジットが群れてる。まあそれより厄介なのがアレ」


 後数歩、森を抜ければ城を一望できるというところまでやってきて、カンビオンは足を止める。指差したのは、石の城にずらずらと飾られる石像であった。


「イケメンの石像? も、もしや建築家は無類の男好き……!?☆」


「バカ。あれ全部ガーゴイル。

 王子が来てからほんの数組かここまで辿り着いてきたけど、大体ここで敗北(からの)撤退」


「確かにあの数全てを相手取るのは骨が折れます。倒せても満身創痍、魔王に立ち向かうには一旦退却を余儀なくされるやも。大きい水源があれば或いは、私がここに残り引き留めることも……」


「『ソルス』の近くに池があるくらいで、『冥界の森』にはびっくりするくらい水が届かないよな。っいや、あったとしてもリノ様を置いていくわけには!」


 水は生命の源とはよく言ったもので、命の終わりに訪れる『冥界の森』、それに隣接したこの魔王城付近に流れる水源など、皆心当たりがない。ここまで来て足踏みする一行を余所に、カンビオンは辺りを見渡していた。


「じゃ、ボク裏門から先のルート確保してくる。テキトーにそっちで時間稼ぎして、頃合いになったら森に逃げて迂回して裏口までおいで。裏にある木製の扉ね! カギは開けておく。

 そのくらい出来るでしょ? っていうか、その程度も出来ないザコとは組めないからぁ♡」


 嘲るような口調と裏腹に、その提案は真っ当で、一行にとっては有り難い案である。


「石の門番モンスター、ガーゴイル。ランクはD+ってトコ☆ 最強装備メロちゃんたちならヨユー! まあ沢山いる分油断したら形勢逆転されやすいし、長期戦に持ち込まれたら圧倒的に不利☆ 引き際タイセツ☆

 ってワケでメロたちは概ね大丈夫なんだけど、ビオちは大丈夫なの?」


 いつもの軽快な口調でガーゴイルについての緩い戦闘分析を終えると、メロはカンビオンの身を案じた。何せ裏切り行為とも呼べることを、対象の本丸で行うのだ。対してのカンビオンもそんなことは分かり切っており、しかし浮かべるのは諦めにも見える憂い帯びた表情であった。


「あの人さ、王子のコト以外、どーでも良いんだよ。この城さえ崩れても良いと思ってるんじゃない。王子が手元にある今、他所には特別な視線なんて向けないよ。

 あーもーっ魔王にしたのホント攻略ミスった! ひょろりん王子もあっけなく捕まるし、魔王サマは他のものにまっったく興味を示さないしっ。全ッ然うまくいかない~! お前らは上手くやれよ!」


「……お強いのですね、カンビオン様」


「行こう、皆」


 決して視線の交わらない人を想い続け、健気にも様々な案を練るカンビオンに、リノは穏やかな表情を向ける。それが気恥ずかしく、「早く行け」と言わんばかりにカンビオンはしっしと手を振ったのだった。



「というわけで、正門の方まで来たけど……ユウシャ、作戦はある?」


「俺としては、話が出来るなら試みたい。あのクアジットみたいに、魔王に不満を抱いているモンスターもいるかもしれない。ここはこう、敵意は無いと……落ち着いた感じで行こう!」


「おけ! みんなおっはよー!☆」


「メロ~!!」


 メロの電子辞書に落ち着いてという文字は無いのである。霧を散らせるようなキラキラスマイルで飛び出すと、石像たちのビー玉のような瞳が点々と光を灯し、メロを捉える。


「『パンプキン館』から出てきた箱入り娘☆ メロだよ~! 茶ぁしばきながら魔王の悪口大会しない?☆

 ギャッ!!」


 フレンドリーに話すメロの霊体を、棒状のものが穿った。ガーゴイルの放った武器であることは言うまでもない。


「だあ~もう合戦だ合戦! かかれー!」


「おー!」


 ユウシャは投げやりに剣を握り飛び出し、続いて拳を小さく掲げてリノも飛び出す。


「メロ、大丈夫?」


「センセ~……! パソコン無傷です☆」


 続いてルカもメロに駆け寄っては、彼女の身を案じた。しかし幽霊である彼女に何か起こり得た訳もなく、実体のある持ち物の無事を報告するに至る。石像も4人に増えた来訪者に、次々と城壁から舞い降り正門へ集まった。リノが水砲を打ち、ユウシャは剣で応戦する。


「良いローブですわ、魔力が高まります!」


「っああ、俺も防御面でかなり安心感があるっ! だけど……っ」


 旅立ちの際に与えられた装備は、一行の能力値を確かに高めてくれた。しかし霧という悪天候はガンコナーの生み出す濃霧ほどでは無くとも、思いの外主戦力である二人の行動を鈍らせる。


「数が多い……っ、せめて、霧が晴れれば……!」


「私も水源があれば、もっと……っ」


「「あっ!」」


 二人の不満が口から零れた直後、思い付いたように声が重なる。そして力強く微笑みあうと、リノは杖を頭上で振り回し始めた。


「微々たるものですが……この霧、私が頂きますわっ!」


 リノの周りから(もや)掛かった視界が鮮明になっていく。一見して杖で辺りの霧を散らしているようだが、その実空気中の水滴がリノへ集まり、巨大な水砲へと変わりつつあった。


「よしっ! いっけーリノ様ッ!」


「はいっ!」


 空中に群れるガーゴイルへ、特大の水の弾が飛んで行く。逃げ場も無く直撃すると、陽の光に照らされた石像と水しぶきが花火のように散ったのだった。



「メロ、早速だけど、石像の彫刻家の情報をちょうだい」


 リノとユウシャが前線で戦う間、ルカも羽ペンを持って参戦の準備を整えていた。


「へ、彫刻家? えっと……この金髪でガタイの良い美男子みたい☆

 この石像は彼の全盛期に当時の魔王の依頼で創られた。モチーフは戦死した親友……あっ」


 メロとルカが視線を交わす。これ、エモいやつだ。本来ならこの感情は心に留めておかねばなるまい。


「でも……今は彼らを倒さなくちゃいけないから。ごめんなさい、その実録(せってい)、ちょっと貸してね。

 メロ、霧が晴れた! 彼らの動きを……!」


「おけまるセンセー!☆」


 リノが霧を回収したことで、大きな光源が一帯を照らし、一様に影を落としている。ルカの指示にメロは地面にスライディングで這いつくばった。もはやこの(自称)アイドルと思えない大胆さも慣れたものである。接近するガーゴイルたちの影を掴むと、一時的に動きが鈍った。


「彫刻家は美しく戦場で散った愛しい人を想い、自らの特技を生かしいくつもの分身を作った。しかしその全てが影法師のようで、伝えきれなかった想いは雨どいを伝う水のようにただ石像の身体を滑り落ちていくだけ……。

 でも貴方たちは感じていた……彫刻家の熱い想いを! そしてその想いに触れる度、自らの顔をした男への嫉妬と彫刻家への劣情を募らせていた! すなわちっ

 執着系無口イケメンガーゴイル×未亡人彫刻家ーッ!」


 ガーゴイルの群れに精神的大ダメージ!

 ルカにしては頑張って声を張り上げたので、割と広範囲のガーゴイルが地に落ちていった。4人の猛撃により一時的に戦闘数を減らした群れであったが、未だ数はおり、巡回中であったクアジットたちも正門に集まりつつある。


「そろそろ撤退に移行したいっ」


「このまま森に飛び込んでも追尾されますわ!」


「メロがオトリになるっ☆ えーっとえっと……あ、あれ! センセーあれ取って!」


 万が一があっても捕らえられないメロが一時的にでも囮になってくれるのなら、それは現時点に置ける最善策だろう。しかしただ居座るだけでは、多くのモンスターの気を引くことは出来ない。メロ自身もそれは理解していたようで、辺りを見渡した。そして、眩い青空を背にした城のてっぺんを指し示す。


「大きい旗……、! リノ、あの一番大きな旗を立てている棒、壊せるっ!?」


「えっ? ええ、やってみますっ。ユウシャ、援護は頼みました!」


ルカは遠目にも10尺はあるであろうその特大の旗を見てメロの策略が読めた様子で、リノにフラッグポールの破壊を願い出た。丈夫そうなポールを一撃で倒すには。そう考えてリノも魔力を大幅に消費し、水砲を放つ。


「っ! 当たった!」


 ガコンッ! と大きな音を響かせ、ポールが傾いた。旗が急速に落下してくる。


「みんな、敵をギリギリまで引き寄せて! 特大の心霊現象、見せてあげる」


 メロの瞳が琥珀色に光ると、ゾクッと背筋が冷えるような感覚が走った。一行の突飛な行動は奇しくも多くのモンスターの目を引いたようで、ひとまとまりに固まっているそこへ集中的に彼らが押し寄せてくる。


「……行って!」


 メロの一言で、纏ったフリル満天の黒いドレスが大きく揺れて広がった。その陰に隠れるようにして3人が退散すると、残ったモンスター達を大きな影が覆いつくす。


「カワイイカワイイメロちゃんの魅力からは、誰一人として逃がしてあげないんだから☆」


 モンスター達を覆ったのは、件の大きな旗であった。突如として闇に包まれれば瞬間慌てふためこうと、すぐに抜け出すことが出来るだろう。しかしそれを困難としているのが、影を踏みしめる彼女の足である。

 辺りのモンスターも退散した一行を追うより、残って謎の力を発揮する彼女への攻撃を優先しているとなれば、メロの作戦は大成功☆ と言えたのだった。



 

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