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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
まおうじょう
73/88

カンビオン×ガンコナー

 見える生物、と言うに留まっているのは、彼の背に人には無い、羽ばたく黒い翼が見られたからである。


「げ、げ……! カンビオン!!

 ま、まあいい……お前はあの男が欲しいんだろ?」


「カンビオン! 夢魔に襲われた人間が生み出したモンスター……ガンコナーと同じく魅了魔法に長けてるよっ! これまずいな、タッグ組まれたら壊滅☆」


 モンスターであれば彼は男の()だ。彼を見たガンコナーの反応は若干怯んでいるようであったが、二人が結託するならば最強のコンビであるとメロが警鐘を鳴らす。

 しかし地上に降り立って金色の髪を弄る彼は、もみあげから伸びるピンクの髪を後頭部でハート型にきゅるんと揺らしてガンコナーを一瞥した後、ルカへ向き直った。


「ねえルカ、いーコト教えてあげる。コイツさぁ、昔ボクのこと女の子だと思って口説いたんだよ! 神罰喰らっちゃってんの、あは♡」


「はっ!? おい馬鹿言うなっ!」


「分かるだろルカ。さっきの見せてよ」


 ガンコナーの過去の恥を晒した彼は、ルカに何かを要求している。少年はルカの名を知っていた。となれば、魔王城に向かうまでの道中を監視されていたのだろう。彼が自身に求めるもの……ルカが思案すると、動かない体に羽ペンとスケッチブックが寄り添った。


「昔女の子と勘違いして口説いたのが実はモンスターで男で、ガッカリしたのも束の間! 今度は正体のバレた彼が、ガンコナーに迫る……! 口説きモンスターも口説かれ耐性は無かった!

 カワイイ攻めカンビオン×女の子みたいにぐずぐずに可愛がられて新たな扉を開く色男ガンコナー!」


「ッギャー!!」


 ガンコナーに精神的大ダメージ!

 イケメンとは思えない情けない悲鳴を上げて、地面に這いつくばる。カンビオンはそんな姿を見て、きゃっきゃと楽しそうに笑うのだった。


「っ貴方……なぜ私の呪文が効かないの!?」


 ガンコナーが戦闘不能になった途端熱のような症状の収まったルカらは、無傷のカンビオンに警戒心を向ける。まさか、神をも勝る……そう考えれば、ぞっと背筋が凍った。


「そりゃ夢魔の血流れてるから。夢魔はねぇ、正しい愛を乱す存在なの。世界に対しての悪だから!」


「約束ごとが、反転した存在……。

 ですがそんな貴方が、何故私達を助けるような真似をされましたの?」


「もしかして、ビオちも下剋上~!?☆」


「違うし! ボクは魔王サマ一筋だから!

 だから、さっさとあの王子持ち帰って欲しいのっ!」


 どうやらその一言で概ねの利害が一致したようである。一行に彼の同行を拒む理由は無かった。



「褐色の肌、絶望に憂いを含んだ瞳…。出会った瞬間、ボクは一目惚れしたんだ!

 その時にはあの王子を欲しがっていたようだけどね。だからボク言ってあげたんだ、


『彼と同じ地位になれば、彼どころか欲しいもの全て手に入るんじゃない?』


 ってね!」


「君の差し金じゃん!」


「だーってだって、魔王になったらあんなひょろりん王子よりもっと魅力的なものが何でも手に入るじゃん! 下級モンスターは思いのままだし、美味しいごはんも運んできてもらえるし、人間が好きならいっぱい攫って来れる! ハズ! だったの!」


 新魔王の就任には彼が一枚噛んでいたことが分かった。疑問は湧くばかりだが、その中でルカが曇った表情を浮かべ、悔し気に牙をむき出しにするカンビオンへ問いかける。


「王子を諦めたとして……貴方はそれで良いの? 好きなヒトがたとえ遊びでも不特定多数と愛し合うのを、傍で見ているなんて……」


 その問いかけに、今まで豊かに変化していた表情が固まり、瞳が陰った。しかしすぐに唇は弧を描き、ピンクとベビーブルーの混ざった不思議な色の瞳は魔王城を見上げる。


「……ボクにはその方がずっと良い。一つの生命体をあんなに熱く想われるより、ずっとね」


「ビオちさ~、アイドル向いてると思うんだよね☆ メロとアイドルやらないっ?」


「は? なに、あい?」


 そんな彼に、メロが唐突な勧誘を始める。一行もその言動には驚き、ユウシャが慌てて嗜めた。


「こんな時に何に誘ってるんだメロ。そういうのは全部終わってから!

 えっと……カンビオン、俺からも一つ聞きたい。魔王は何竜なんだ? 知っていた方が有利に動けるかもしれない」


「さあ、わかんない。ボクを疑ってくれてもいいけど、ほんとに知らない」


「種類があるの? ティラノサウルスとか?」


「あ、そうか。ルカの世界にはその……()()()ってのがいるんだな。

 此方では主に4種のドラゴン族がいるとされているんだ。火竜、翼竜、水竜、地竜。そう、四精霊と同じだな。主に住まう場所によって分けられるけど、本来の姿も特徴があって判断しやすい筈なんだ」


 ルカも今はいないけどね、とは野暮で口に出さない。となれば流れるように会話は続く。


「本来の姿ならね。人型の時はぜんっぜんわかんないから!

 あでも地竜は違うんじゃない。あのモグラ? カエル? みたいな見た目だけはムリ!」


「ドラゴン族は知能の高い人型への変化を可能とし、知的生物との対話を求めたと聞きます。必要性は言ってしまえばその程度で、人型(その形)を長くは状態維持出来ないとも」


「魔王サマはずーっと人型だよ。理由は知らないしキョーミない。だってずーっと美しいんだもの! それだけで良いじゃない?」


 ユウシャは小さくため息をついた。自分に必要な情報しか耳に入れないカンビオンから得られたのは、彼が見目麗しいドラゴンを一つの執着から切り離すべく魔王にまで上り詰めさせたこと、そしてそのドラゴンは少なくともカンビオンの見ている間は維持困難とされる人型を取っているということだ。


「まさかこんなに魔王に近しいモンスターと出会いながら、有意義な情報を全く得られないなんて……」


「あら、得られたじゃない。魔王は随分貴方の弟にご執心みたい。

 カンビオン、貴方と魔王が出会ったのはいつ?」


「そう昔じゃないよ。二巡りほど前かな」


「ユウシャが家出したのはいつ?」


「……え? ええ……、あの、二巡りくらい前、かなあ……」


「うん。関係がありそうね」


 一方のルカは何かしら有益な情報を得たようである。それが今後の手掛かりになるものか個人的に消費されるものかは分からずとも、この出会いが無駄では無かったということに、或いは答えづらい問いに意義ある回答が出来たことに、ユウシャは多少なり救われたのだった。



 

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