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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
まおうじょう
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待ち構える者×潜む者


「やっぱり魔王城近くってなると、『冥界の森』とは違う空気の淀みを感じるな。鳥肌が立つ、っていうか……」


「大丈夫ですか、アルカイニさま」


「やっやめてよその呼び方! ユウシャで良いって、今まで通り……」


 ルカの真顔で言われてしまえば、嘲笑と取れないその呼び方と言葉遣いがむず痒く、ユウシャは即座に否定する。ルカは赤い瞳をまじまじと見つめ、「ふうん」と小さく返すと前を向いて歩みを進めた。


「……黙ってたこと、怒ってる?」


「改めて接し方に惑っているんじゃありませんの? 王都の王子様だったんですもの」


「そーだよ! メロだってキンチョーした~」


「いやいや、一番そんな風には見えなかったけどね」


 まるで装備まで改め決戦を前にした勇者ご一行とは思えない談笑を楽しんでいると、次第に(もや)が立ち込める。冷気を伴わないそれは、ホワイトラビリンスとは無関係であった。


「……む、何か来るっ!」


 道中、何かの気配をユウシャが察知すれば中腰になって剣のグリップを握る。バサッバサッとけたたましい羽ばたきの音が響く頃には、その音源との距離は他の仲間達も容易に視認出来るほどに縮まっていた。


「ケケッ、俺様が一番乗りだっ!」


 現れたのは朱色の天然パーマをインディゴブルーのキャスケットに押し込んだ、コウモリのような羽を持つ少年だ。大きな羽の代わりに腕は無く、器用に自分の身体ほどあるその二つの羽をばたつかせて宙に浮いている。


「その姿はクアジット! 低級モンスターだね☆ かわち~一人でどしたの? 迷子かな?」


「な、舐めんな! こちとら次期魔王だぞっ!」


「おっ自称するのまで出始めたぞ」


「王族も難儀ですわね~」


「ぐぬぬ~!」


 メロ、ルカ、リノの完全に舐め切った態度に、威嚇に使う剥き出しの牙で歯ぎしりを始める。それからばたつかせていた羽を大きく広げて再度威嚇すると、鋭い爪が三つも生えた細い足を一行に向けたのだった。


「俺はなっ! もーあのドラゴン男にこき使われるのは嫌なんだよっ! 最低限の暮らしが出来てりゃ良いなんて腐りきった同種族と一緒にすんなっ! お前ら倒して経験値にして、ぜってー下剋上してやる!!

 クアジットキーック!」


「ルカ……ッ!」


 そしてその足が、技名という初出概念と共にルカの身体目掛け真っすぐに飛んでくる。しかしすでに彼女の手には、突撃を阻むほど眩く光るスケッチブックが顕現していたのだ!


「毎日魔王の座を夢見る低級モンスターの貴方……でも知っていた、モンスターはランクの上り幅が少ないこと! それでも努力して玉座まで辿り着く。そんながんばり屋さんのショタを魔王さまが受け入れないことある? 無いわ! その大きな体で受け止めるの……これから魔王独占個別レッスンよ。

 がんばりショタ攻めクアジット×男前ママみ受け魔王!」


「っぐあー!!」


 クアジットに精神的大ダメージ!


 途端クアジットは雷でも受けたようにピーンと体を伸ばし、そのまま無配ペーパーの如くひらひらと地面に落ちる。女性陣がキャッキャと盛り上がる中、多少なり知識を付けてきた様子のユウシャも苦笑しつつ、ルカを讃えた。


「なるほど。ルカはその……ショタぜめってやつが、好きなんだな」




「お、おお~雰囲気出てきた☆」


「……森、開けてきたよ。魔王城も見える」


 一層先へ進むと、霧は相乗して濃くなっていく。そんな中前方の鬱蒼とした木々が急に無くなり、開けた場所に出るのなら、見上げた先に目的地も見えてくることだろう。


「おや、美しいお嬢さんが2……アレ、3人? 気配感じなかったけど」


「だっ誰ですのっ!? 貴方こそ気配を消していらして……姿を現しなさいっ!」


 濃霧で視界がやや遮られる中、リノが杖を掲げ一行を後方へ匿う。それぞれが目を凝らし生物の姿を確認しようとしたところ、霧が蜃気楼のように揺らぎ、甘いクロッカスのような紫がその中に見え始めた。やがて人の形が見えてくる頃には、そのクロッカスが男の一つに束ねた艶やかな長髪の色であったと分かる。


「カジュアル勢のハーレムパーティーなんてこの辺じゃ見ないね。何、女の子と沢山会えるのは嬉しいコトだよ」


「貴方は……魔王城に仕えるモンスター? なら、私達は押し通るわ」


 ルカは片手に羽ペンを持ち、目配せでメロにサーチを頼んだ。対して紫髪の色男は、ワイシャツの袖のフリルを揺らしながらゆったりと木製パイプをふかしている。女性的な衣装もベストや細身のスラックスと合わせれば、どうもこの男には似合ってしまう。小さく尖った唇がまた美しく、ずっと眺めていると眩暈すら感じた。


「まぁ……僕は割と好きにやらせてもらっているけどね。城なんて行ったって良いことはないよ? ね、それより僕と遊ばない? そこの男は通って良いよ~」


「……メロとキャラ似てませんこと?」


「やめてよ全然だからあっちただのチャラ男な☆ パイプをふかすイケメン……あれ、口説きモンスターガンコナーだよ! ランクはCってとこ☆」


「ディスってる?」


 どうしてもモンスターという生物名称について聞きなれないルカとしては、メロが類似性を指摘され嫌がっている様子も相まって、モンスターが貶しや脅威の意味で使われているよう感じてしまう。ともあれ押し通ることに変わりなく、またユウシャも一人先を急ぐ気も無く、全員が臨戦状態に入った。


「悪いけど、俺は仲間を置いて行く気はない! 仲間も同じ気持ちだ。城に大切な人がいる。俺たちは行かなくちゃいけない!」


 女性たちもうんうんと同意するよう頷くのであれば、ガンコナーは溜め息と共に煙を吐く。


「あ、そ。残念、ちょっとは堕ちてくれたと思ったんだけど。……じゃあ、魔物としての力、見せちゃおうか」


「え……、っな、に……?」


「顔が、熱い……っ」


 煙が生み出す靄の中、ガンコナーの瞳が青銀に光ると、たちまちルカやリノの頬が上気する。熱を出したように頭がぼうっとし、呼吸が早くなった。トクン、トクン。小気味良い胸の高鳴りを耳元で感じているようだ。


「これはまるで……恋☆」


「二人ともっ、大丈夫かっ!? くそっ今助ける! ガンコナー……覚悟ッ!」


 影響を受けなかったユウシャが抜刀し、ガンコナーに切りかかる。大きく振りかぶったことが隙を与えてしまうと、ガンコナーは煙をまとったパイプで剣を受け止めた。


「ルカたちを元に戻せっ! 俺の剣の方が、硬いぞっ!」


「良いとこの坊ちゃんかい? 面倒だ……なッ!」


「うぁっ!」


「ユウシャッ!」


質も研磨技術も良い剣に、重厚に輝く装備。ガンコナーは薄ら笑いを浮かべるとユウシャの腹の装甲を蹴ってよろめかせ、一旦距離を取る。


「クアジットを数匹呼ぶか……」


「増援かっまずい!」


 すぐに体制を整えたユウシャであったが、増援を呼ぶためのガンコナーの煙は上空へ飽和すること無く伸び始めていた。


「はァ~この程度で助っ人頼むの、だっさぁ♡」


 すると、煙を掻き消しながら何かが舞い降りて来る。


「あれは……っ


 メスガキ!?」


それはセクシーなゴスロリ衣装を身に纏う調子乗ったメスガキ……では無く、少女のように見える生物だった。



 

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