太陽の街×赤い瞳
台地の精霊の守る森を抜け、一行が王都の明かりを東に見つける頃には、黄昏に薄暗い闇が立ちはだかっていた。
「大きい塀……あれが、『ソルス・スピロ』?」
「外にもいっぱい人がいるね☆」
「物々しい雰囲気ですわね」
一行が目にする通り、必要以上に多くの兵士たちが塀の外を警らしなければならないのも、記憶に新しいあの事件を知っていれば至極当然のことである。
森を出てから、ユウシャは再び先陣を切って歩いていた。王都に近付くたび、海辺の街で感じた重苦しさがその背中に滲み出す。まるで気を遣っているかのようなルカらの何気ない会話の最中、彼は道の途中というのに踏み止まった。
「ユウシャ? ……っえ、」
「モンスターか!? 西の方角に人影を発見! 貴様らっ何者だ!」
ルカがユウシャの顔を覗き込んだその刹那、一行を見付けた警ら隊が声を上げる。どう動くべきかと考える間もなく疎らであった兵士達が集まり、一行を囲い始めた。
「メメメメロは怪しいおばけアイドルじゃないです~っ☆」
「おばけもあいどるも充分怪しいですわっ!」
寧ろ女性というだけで黙っていた方が怪しく思われないのかもしれない。身を寄せ合うリノとメロ、そして何かを目にして立ち尽くすルカの前にユウシャが立ちはだかり、俯き気味であったその顔を上げる。途端、兵士たちは息を呑んだ。
「王に伝えてくれ。アルカイニ、只今戻った……門扉を開けてくれ、と」
「! お前たち、すぐに城に戻れ! よくぞお戻りになられた、アルカイニ王子よ!」
速やかに幾人かの兵士は塀の内へ戻る。残る兵士たちは仰々しくユウシャの前で片膝を着いた。
「「お、王子~!?」」
そんな光景にお決まりの如くリノとメロは驚愕の声を上げ、ルカはと言えば未だ後方で黙りこくるばかりである。ルカには声も上げられなかったのだ。
彼女は一足先に見てしまったのである。
ユウシャの瞳に、この世界の何よりも赤い赤を。
白を基調とした統一感ある街並みに金の装飾が散りばめられ、所々に垂れ下がる上質な布はどれも鮮やかな色。すっかりインディゴの夜色に染められた世界でも、この街が常日頃より煌びやかであることが伺えた。
兵士たちの護衛の元、一行は街の中心に聳える一際大きな建築物へと歩みを進める。あからさま過ぎる程に王族の住まう城と主張するその建物を見てぼんやりと、ルカは自身の世界のタージマハルを重ねていた。
「あら、灯りが……」
巨大な門を潜ったその先で、城に温かな光が灯され始めたのを見て、リノが零れるように小さく呟く。
更にその先で重厚な扉が兵士達の手で開かれると、広いエントランスホールの中心に二つの人影が待ち構えていた。




