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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ノームのもり
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戦う力×守る力

 その後取り急ぎ気絶したままのフリードリンデを拘束したルカと、ノームの忠告に急いで踵を返したリノとメロ、そしていつの間にか目覚め湖畔へ向かわんとしていたユウシャが再会を果たしたのは、間もなくのことであった。

 リノは安堵でその場に膝を着き、ユウシャは慌ただしく両目を手のひらで覆う。いそいそと服を着直したルカへ、状況に疑問ばかり浮かぶメロが詰め寄った。


「る、るかるかセンセ、一人でリンリン倒しちゃったの!?」


「えっ、なんでルカがフリードさんを……?」


「そうね……私が勘違いしていたの。

 私が彼女に触れて感じていたヒリつきは、恋焦がれてのものでは無くて、リュシェ姫が受けた彼女の雷撃の追体験……或いはリュシェ姫の警告だった。姫を最終的に殺めたのは、姫に恋し、姫の愛する人に妬いたフリードリンデだったの。

 それを私は指摘しただけ。詳しくは……話してくれるかしら、フリードリンデ?」


 メロとユウシャの問いかけに纏めて端的に返答をしたルカは、狸寝入りで拘束を解こうとするフリードリンデに目ざとく問いを投げかける。彼女もとうとう諦めたように乾いた笑みを浮かべると、力を抜いて木の幹へ寄りかかり、やがてルカに語った真相の始終を語り出すのだった。



「……そして、姫を殺めたのはこの私。私を(ここ)へ幽閉したのは王。私が脱出する為命を狙った大地の精霊は寸でで逃して雲隠れ。勘違いしてくれた君たちを利用して引き摺り出そうと試みたが……まさか一番力の無いルカに負けるとはな。神罰を操るとは……姫の魂と共にあるとは言え、大したものだ」


「いえ……操るなんて、そんな大層なものではないわ。私自身、分からないことだらけだもの。きっと神さまに本当のこと、教えてるだけ。今回の武器の顕現は、その面が強く出ていたと思う」


「……、そうか」


 人質にする、最悪殺めることすら視野に入れていたことまで打ち明けても、一行はまるで穏やかな会話を続けていた。そんな4人を眺めた後、フリードはサンドベージュの髪をカーテンのように垂らして、深く首を垂れる。


「やだな☆ リンリンが反省してるのは分かって「ユウシャくん。私の首を落とせ」


「はいっ!?」


 メロの呑気な言葉を遮って放たれた一言に、彼女がうなじを晒した意味を理解し、全員が息を呑む。勿論彼女の要求を受け入れる気は無く、ユウシャはグリップを握りもしない。


「……私は王国の姫君を殺めて、ノーム殿に深手を負わせたのだ。それに……分かるだろう? 私はまたルカを狙うよ。拘束が効いていて反撃も出来ない今、命を絶つのが賢明な判断だ」


 少しだけ顔を上げた彼女が、ルカを黄金に茹る熱砂のような瞳で見つめる。対してルカは「貴女なんか怖くない」とでも返すかのように真っすぐな瞳で見つめ返した後、判断を委ねるようにユウシャを見やった。

 視線の重なったユウシャは、一度ぐっとグリップを握る。瞼を閉じると、フリードの指導中の言葉が思い返される。それから意志が固まった様子で目を開き、片膝を着いた。


「フリードリンデさん。俺は、この世界の平和を守り、讃えられる英雄になりたいと思っているんです。でも、悪しき者を消し去ることでしかそんな人間には選ばれないと……そうは思いません。

俺は、それを証明する為に勇者になります!」


「っ甘い。……命がけの戦場に立った事も無い、甘ったれの小僧が。相手が君の、そして君の仲間たちの命を狙って襲ってきたらどうする?」


「……抗いますよ。だから、強くなりたい。強い言葉を俺も生み出したい……ルカみたいに。

 でも俺には足りないから、剣を握ります。仲間たちと行きます。

 貴女の命は奪いません。それは、この森の主が決めることだと思うから。『ルナデ』の王が命じたように、ここで自分の罪を見つめ直してください。精霊が、世界が貴女に罰を下す、それまでの一生をかけて悔やんで、苦しんで……償ってください」


 ユウシャの返答は、フリードを納得させるには至極不十分なものである。しかしそれこそが同じ轍を踏まぬ者と決定づけたのであれば、敗北者は項垂れて微笑むしかない。


「君たちがそう望むのであれば、私を放って行けばいい。君たちの決めた道を行くが良いさ。

 この生ぬるい拘束もそのままにしておくと良い。多少なり私の足止めになるだろう」


「私達はユウシャの意に沿いますわ」


 リノの言葉に同意し、メロやルカも頷いた。そして森を抜けようと歩き出す最中、ルカだけが足を止め、フリードリンデの前に立つ。


「……フリードリンデ、最後に教えて。リュシェの愛した『ソルス』の女性って、誰なの? きっとリュシェはその人に会いたくて、私に憑いたんだと思う」


「……教えるわけないだろ、恋敵の事なんか。今ここで君が神罰をくらうような事でもやって見せたら、教えなくもないがな」


「じゃ、拘束が解けないうちに行くわね」


「っ待て! ……ははっ、彼女が探していたものを一つ、教えてやろう。

 塔だ。『冥界の森』に存在する塔。神々もどこにあるのか知らないのだという」


「……塔? 館ならあったけれど……塔なんかあったかしら? ありがと、皆に聞いてみる。じゃあね」


 ルカは、彼女が明け渡した一つのヒントに今までの旅を脳裏へ浮かべては、思い当たる節が無く首を傾げた。しかし異世界から来た自身からすれば、知らないことがあろうと無理はないのかもしれない。この世界のことは、この世界に生きる人々へ聞いて回った方が良いだろう。まるで悪人を相手取っているとは思えない軽快な挨拶を済ませ、先を行く仲間を追う。

 残されたフリードリンデは、解けるはずの拘束をそのままに、ただ酷く疲れた様子で項垂れた。


「塔なんか無い。()()()()なんか……あったら、すぐにでも見つかっているだろうな」




 8章『ノームのもり』 完

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