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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ノームのもり
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大地の精霊×根を張る思想


「メロ、自然の香りが強まった気がしませんか?」


「うんうん、霊域ってカンジだね! 元気になってきそう~ってメロHPとかの概念無いけど☆」


「確かに……身体が癒されていくようです。……? いえ、どうしてこれほど癒しに重きをおかれていますの?

 ノームおばさま! 南東の泉から参りました、水の精霊一族のリノですわ! どうかお顔を見せてくださいませ……!」


 リノとメロは森のより深くを目指して歩みを進めていた。鬱蒼としつつも花々や果実の甘い香り、若々しい木々の緑の優しい香りを漂わせ、その空気を吸い込むだけで身体が癒されていくようである。そう、その成長より回復に重きを置いた雰囲気に、リノは違和感を覚えたのだった。

 一際大きな声で呼びかけると、呼応するように枝が震え、木々がざわめき出す。


「リノ……駄目だ、さっさとお逃げ……」


「おばさま!? ノームおばさまですの!?」


「な、なんだか弱ってる……!? どこにいるの!? お顔合わせてご挨拶しなきゃ、メロ帰れない!」


「……、……仕方のない子たちだね、こっちだよ」


 忠告も聞かずその場に居留まる二人に耐え兼ねたか、低いしゃがれた女性の声が響いたと思うと、木々が湾曲し、道を示しだした。その通りに二人が歩いていくと、やがてアイスキャッスルの透明大木にも勝る大きさの、青々しく茂る巨木が立ちはだかったのだ。


「ノームおばさま!」


「ちょ、ちょリノりぃ!? 木におばあちゃん埋まってるんだけどぉ!?」


「この木と私は一心同体なんだよ。ほら、ご挨拶はどうした!」


「ひゃんっ! そうだった、メロはメロ! リノりぃの友達なの! 宜しくね~☆」


 突然叱りつけるように張り上げられた声に、メロは小さな悲鳴を上げる。しかしすぐにいつもの明るい様子でご挨拶をすると、お得意のカワイイアイドルスマイルを老婆へ向ける。


「私はノームおばちゃんだよ。宜しくね。

 なんて、のんびり挨拶している暇は無いのさ。何の用だか知らないが、用件を伝えたらこの森からはすぐに出るんだ」


「おばさま、ご無理をされていますわね。

 森はいつものように危険なモンスターの侵入も無く、平和でした。でも、私達が森へ入ってきたこと……気付かれませんでしたのね。怪我をされていますの? 私の加護を……」


「いや、いい。時間がかかる。……そんな顔しなさんな、リノは良い加護を持ってる。

 昔のよしみの頼みでとんでもないのを相手にしてね、核にちょっとばかし傷が付いてるんだ。身を隠しながら荒れ狂う魂や悪意を持った魂の侵入は引き続き防ぐが、あんたたちみたいなのはもう好きにさせてる。で、わざわざ立ち寄ったその用は?」


 加護の申し出を一蹴されると、ウンディーネにも選ばれない端くれだったとしても頼ることの出来ない弱さかと、リノは表情を曇らせた。その変化に直ぐに気付きフォローを入れる老婆は、流石永く生き、様々なものを見聞きしたと言わざるを得ない。そして現状を端的に伝えると、立ち寄るだけの用はあるのだろうと推察して二人へ問いかける。

 リノらもノームの焦燥が見て取れ、慌てて話を切り出した。


「おばさま、その、お許しを頂きたい方がおりますの。ほら、霊域で木を手折った女性がいらっしゃったでしょう? 随分森へ閉じ込めていらっしゃるようですが、充分反省しておられますし、せめて一度お話をして頂けないかと思いまして……」


「木を折った……? そんな女……、っ!? まさか、フリードリンデか!? あの女に会ったか!?」


「っうぇ、そ、そうだよ……? さっきまで皆でお話してて、許してほしいけど会わせてもらえないから、お話出来るよう説得してきてほしいって、メロたち頼まれたの……」


「今すぐ逃げな! あの女に関わるんじゃない!

 あいつは、持ち場の四精霊(わたし)の魂に傷を付けた女だ……!」




「森を出て……どうするの。罪を償わなければ故郷へも戻れない貴女が、どこへ?」


「君には関係の無い事だ。……さあルカ、速やかに服を着ろ」


 フリードは一旦ルカから身体を退かしたものの、剣を抜きその切っ先をルカの首へ向けている。歯向かえば、一瞬で頭が落ちることだろう。

 上体を起こすまでは許された。服を投げてよこされると、ルカは何を考えてか、服と体を覆う布を芝生へ放る。


「っな……!? き、君は何を!」


「人質に服を着せている余裕なんて無いでしょう。私に貴女を倒す力は無くても、服に爆弾を仕込ませていたら? 貴女ごと吹き飛んでやるわ」


「……っ、はっ! 笑わせてくれる、そんな覚悟など無い癖に! 良いからさっさと着ろ!」


「さっきから目を逸らして、そんな様子では逃げ出せてしまえるわね。ねえ、フリードリンデ?」


 武器も無い、裸一貫のルカが、何故かフリードリンデを圧倒し優勢していた。ルカの言葉一つ一つが耳に届くたび、彼女は苦い表情をする。そして一層ルカの顔が迫る時、とうとう自ら飛び上がり、遠のいてしまったのだった。


「ひぃっ! や、やめろ! 姫の口調を真似るな……!」


 ルカ自身、リュシェ姫の記憶を見たのは一度きり。真似られるほど彼女を観察したことも無いが、やや怯えた様子にも見えるフリードの姿に暫し考え、沈黙する。

 そしてその考えが纏まった頃、未だ距離を保ったままの彼女へ今一度向き直った。


「貴女は女神の街の王族である姫君が、女神様との約束を破り、神罰を受けたことが許せなかった……、だから、姫の命を奪ったと言ったわね?」


「っ……そうさ! 神罰を受けてまで神の掟に背かんとする彼女を、私は止めねばならなかった!

 何より彼女がそうしてはならなかった! 神々に創られ、守られてきたこの世界で、その恩恵を受け栄えた街で、神々の想いを継いでゆく運命(さだめ)を持ったはずの、王族の娘が……っ!」


 彼女は彼女の正義を連ねる。祖国に根付いた思想であれば、異世界からやって来たルカ自身が否定すべきではないだろう。しかし、彼女は正当性の中に、何かを匿っているよう見えたのだ。


「……そうね、貴女には大義名分があった。でも、その内で燃え上がる貴女の感情が、私には見えるわ。フリードリンデ……貴女の熱い視線を感じていた。私の内側を覗こうとする、焦がされる程熱い視線を。

 リュシェはとある女性を愛した。それが許せなかったのは……

 フリードリンデ、貴女がリュシェを愛していたからよ!」


「ぐぁあっ!!」


 スケッチブックを顕現させたルカのその言葉を浴びた途端、フリードリンデは稲妻に打たれたような衝撃を受けた後、小さな悲鳴と共に芝生へ倒れ込む。ルカが駆け寄り顔を覗き込むと、どうやら意識を失っているようだった。



 

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