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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ノームのもり
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月の騎士×滞在の理由


「ここで良いだろう。最近の寝床だ。

 私はフリードリンデ。『ルナデ・シルシオン』で騎士をしていた」


 深い森はまだ明るい時間帯であれ、あまり光を通さない。ただ僅かな木漏れ日が、森に色を与えていた。まずはフリードリンデが腰を下ろすと、円を描くように一行も腰を落ち着ける。


「騎士様でしたか、どうりで重厚なお召し物を。それで、『ルナデ』の騎士様がどうして遠方のノームおばさまの森へ?」


「ノームノモリ、って……あのノームの森!?☆」


「クッキー屋さんかな?」


 どうやらこの森の存在を、リノは知っているようであった。続いてメロも気付いた様子を見せるなら、この森は名の知れた場所なのだろう。一方ルカはクッキーを焼くお婆さんの店を想像していた。


「そうか。場所的に、南西の森と言ったらそれしかない。ルカ、ここは四精霊の一人、ノームが住まう森だよ。割と頑固もののお婆さんって聞いたけど……いや、止めておこう」


 ユウシャも合点がいけばルカに丁寧な説明を始めるが、当人の住まいで悪口とも取れる言葉は慎まねばなるまい。誤魔化すようにあからさまな咳払いをすると、穏やかな笑みで会話に耳を傾ける騎士へ目線を向ける。


「いや、はは。確かに。私は……、魔王城に動きがあると聞いて偵察に赴いたのだ。しかし、ノーム殿の怒りを買ってしまってな。今は仕置きと称して、森に幽閉されているのだ」


「っゆ、幽閉!?」


 一同声を上げ驚くものの、件のモンスター襲撃の際も森から1歩も飛び出さなかった姿を思えば、納得できるものがあった。


「まあ……まあ。確かにノームおばさまは多少気難しいところはありますけれど……、この森が平和なことを思えば、お分かりになりますでしょう? とてもお優しい方です。一体何をされましたの?」


 精霊の一族となればこの森の主には誰よりも詳しいリノが、滞在の理由を聞いて訝し気な視線をフリードに向ける。一方のフリードは気まずげに口元を引きつらせ、その視線から目を逸らした。


「その……霊域にある木をだな、折った。……薪にくべたのだ」


 先程までの威厳ある姿が、その一言で一変して悪いことをしてたしなめられる子供のように映る。一行は唖然とした様子で顔を見合わせ、それから小さく吹き出すよう笑い出すのだった。




「はっ! とうっ!」


「っ、良い剣だ。しかし、使い手の覚悟がその程度ではなっ!」


「あっ……!」


 一先ずの休憩と、リノやメロ、ルカが果実や木の実を集めに辺りを散策する間、ユウシャはフリードリンデと剣を交えていた。懸命に振り被ったはずの剣が弾かれ芝生に横たえるなら、一瞬瞳を曇らせるものの、悔し気に唇を噛んで剣を拾い上げる。


「すみません、もう一度……」


「人に(それ)を向けるのが怖いか?」


 もう一度手合わせ願おうと上げられた青年の顔が強張った。明らかな動揺を見せる彼を心配も、嘲笑もすることなく、騎士の女性は真っすぐな眼差しを向ける。


「違うな。命に刃を向ける事を恐れているか」


「……、そんなことまで、分かりますか?」


「君は分かりやすいくらいだ。そんな剣さばきでよく冥界の森を越え、白銀の地を抜け、海辺の霧を晴らしたものだな。お次は魔王を狩ろうと? ……世迷言を。

 今は稽古事だとすっかり油断している。どうする、私が急に君の首を狙ったら。それでも君は私の命を取ろうとは思わないのだろう。今の君にはリュシェ姫と……、いや、姫のお護りになられる彼女と、旅を共にする資格はない!」


 フリードリンデの突き刺すような鋭い言葉は、私情を挟んでいるとしてもユウシャの図星を刺し、彼の心を深く抉った。そこまで言われても、命を刈り取る覚悟でこの剣を振るうことはできない。悔し気に瞼を閉じると、彼女の口から唐突に漏れた姫君の名から、先程までの会話を想起させたのだった。



 

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