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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ノームのもり
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旅人×憑き人

 次なる目的地へ向け、一行は左手に迫る山々に沿って南へ向かう。

 聳え立つそれらの谷間から、禍々しい空気が重さを持つ煙のように滲んでいた。恐らく、この山を越えた先に魔王城があるのだろう。ユウシャの願望を聞くまでは真っ先に向かう筈であったその意気込みに、今は時期尚早であったと思わざるを得なかった。


「……そういえば俺、考えてたんだけどさ」


 件の一報を聞いてからどことなく場に緊張感を持たせていた当人が、静寂に小さな亀裂を入れる。自然と彼へ視線が集中した。


「シンが言っていただろ、神罰の事。雷に打たれたような、とか……モリに突かれたような、だとか」


「うん。体験した事無いけど、何だか想像出来ちゃうのが不思議ね」


「そう、俺もだ。だから思ったんだけどさ……、ほら、ルカが呪文を唱えると、相手に精神的な大ダメージを与えるだろ? あれ、似てると思ったんだよな」


 ユウシャの見解に、一同は目を見開く。リノはルカの茶色い瞳を見つめた。それは太陽に照らされ時折琥珀色に輝くばかりで、小さく首を振ってユウシャへ視線を戻す。


「いいえ、ユウシャ。ルカは人の子です。異世界から来ようと、彼女はか弱い人の子です」


「分かってますっ。違う……っ違くて。いるんだよ、王族に。

 神さまと対話したり、力を借りたり出来る人が!」


 ユウシャも憶測から必死に言葉を紡ぎあげた。逡巡したメロが、ツインテールを揺らして宙を舞う。


「うーん……ユーちゃんは、るかるかセンセーに憑いてるのが、より神に近い、力を持った王族と思うワケだ☆

 それで少しは絞れないかな~ってコト?」


「そう! それと……『ルナデ・シルシオン』の王族に絞っても良いと思う。浅はかな知識で言うべきじゃないかもしれないけど……俺、神罰について知らなかった」


 はっきりと聞いた訳では無いが、彼は恐らく『ソルス』の民であった。遥か北、『ホワイトラビリンス』を越えた西に存在する『ルナデ・シルシオン』に直接赴く事は難しい。であれば、とルカは“検索できる媒体”を探す。


「……! メロ、そのパソコン、モンスターのデータがたくさん入っていたわね? 王家のデータも入ってる?」


「えーっと、名前くらいなら記録されてるけど、ビジュとかステータスまでは載って無いなぁ。プライバシーには厳しい時代だし☆ ま、りちちは持ってるかもだけどぉ……」


「そう……そうね、リッチなら持っていても不思議じゃないわ。じゃあ、これに関しては一度彼のところへ戻らないと……」


 メロの言う通りであれば、一度『パンプキン館』へ戻らなければいけない。そう悟ったルカは、優先すべき目標や効率を踏まえ、今後のルートを考え直す。無意識に顎へ手を当て、うんと考える彼女の隣で、メロもまた険しい顔をして腕を組んだ。


「うむ! めんどいからビデオ通話しちゃおっか☆」


「出来るの!?」


 出来るなら何故そんな険しい顔を? と驚愕するルカと、そもそも何を言っているのかさっぱり? と疑問符が尽きないリノとユウシャであった。



 本来好ましい行為では無いが、他に人も、障害物も無い草原である。歩みを進めたまま、メロはノートパソコンを開いてリッチとの通話を試みた。


「急だし、まー気長に《メロたーん!!》出るのはや☆」


 メロが館を出るのも初めてであれば、通話も初めて。早々出てもらえるものでは無いと考えて呑気に構えていれば、当人はワンコールも経たず液晶画面に姿を現した。


「すごい、リッチが動いてる。幻影転写の魔法みたいだ」


「えっと、ジャックさまとの蜜月はどう?」


 《いやよく見て!? 2時間置きに授魔力をせがむジャックとやつれた僕! 限界ワンオペ育児だろ!》


「確かに、大きくなったわね。この調子で成長した彼はリッチ以外の魔力は受け付けられずリッチもまた魅力的に成長したジャックに惹かれやがて執着し合う関係に……」


 《おいやめろ! お前の妄言はシャレにならないから!》


 《それだけ騒ぐ元気があれば問題ありませんね。あと皆様、ワン・オペレーションではございませんのでご安心を》


「あら、シルキー様!」


 喚くリッチと彼に抱えられ無邪気に笑うジャックを、液晶越しに微笑ましく眺めていれば、哺乳瓶と音の鳴るおもちゃを持ったシルキーが画面端から現れる。懐かしくも感じる顔ぶれに、一行は心を和ませた。


 《んで? メロたんがまさか近況報告をしてくれるだとか、俺を心配して通信してきてくれたなどとは思わない。何か困りごと?

 あ、それとも何だ!? リッチ×ジャックのラブラブ生活(ライフ)を拝むといたしますか~(妄想)ってトコか!?》


 一度心を入れ替えた彼には以前ほどに自惚れた考えは無く、もさもさの黒髪を掻いては単刀直入に一行へ問いかける。少し驚いた様子で口ごもったメロは、次いだ茶化すような彼の言葉に小さく微笑むと、撫でるように液晶辺りに手をやった。


「こらぁ、ジャック様×りちちな☆ ……旅、めっちゃ楽しーよ。帰ったらいっぱい話すし、メロがいない間の館の話もぜーんぶ聞くんだから、いつでもお茶会出来るよーに準備しといて☆

 それでまあ……確かにお願いゴト。りちち、歴代王族のデータ持ってる? 持ってたら調べてほしい事があるんだけど……」


 初めての体験に心躍らせ、家の事などすっかり忘れてしまっていた子どもを彷彿とさせるメロの罪悪感や家族恋しさが垣間見えれば、リッチも穏やかな笑みを湛える。しかし、彼女の願いを聞くなりジャックをシルキーへ預け、こくりと頷いて液晶に向き合った。


 《ああ、一般閲覧出来る範囲なら図書館より早いよ。込み入った情報には少々時間を貰おう》


「ありがとう、リッチ。調べてほしいのは『ルナデ』の王族だ。亡くなられている人に限定して……、そうだな、過去に神の力を使ったり、神言を賜ったりした方はいるかな?」


 ユウシャの紡いだ情報に、リッチのメガネが光る。否、もう一台起動した液晶画面の明かりが反射しただけのようであった。


 《そう、だな……神言を賜れば民衆に伝わる。この辺りは公的文書に残っているし、すぐに出て来るぞ。

 どれ……パーヴァリ、クロエ、アレクサン1世……》


 幾人かの名をリッチが淡々と読み上げる。最初ばかりはしかと頭へ叩きこんでいた一行も、延々と続くような読み上げに困惑の表情で目を見合わせた。


 《どうだ、ピンとくる名はあったか?》


「さ、さらに絞り込み検索希望~☆」


「でも他に情報ったって……」


「……、髪の色」


 手詰まりかと、一行の表情が曇っていく。その最中、ルカがぽつりと呟いた一言に、彼女の柔らかな薄桃の髪へと視線が集まる。


「こういう髪色の人っ、探せるかな」


 《あ、ああ……。なら……、うん。5人まで絞れる。クロエ、ウルスラ……待てよ、なんだ、偶然か?》


「何、りちち! 教えてよう!」


 《全員、女性なんだよ》


 足が止まる。青く香る風が吹き抜けた。


「青い瞳……、薄桃の、髪……」


 ルカがふわりと長いサイドの髪を撫でる。


「……ルカとおられます幽霊様は、その5人の王女様の中にいらっしゃるのですね。リッチ様、今一度お名前を伺わせてくださいませ」



 

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