厄災×再戦
「直に離れた場所から幻術は解けていくことでしょう。ここは発信源ですから、まだ時間はかかるでしょうが……、まあ、この身体を楽しむのも一興ですね」
「リノりぃモテモテだもんな~☆ 水の精霊だから?」
「っていう事はセルキーもモテたり……なんてね! セルキーにもお礼言いたいし、取り敢えず介抱……」
ぞくり。
一行が問題解決によりすっかり脱力し、談笑を楽しんでいたその時。感じた事のある悪寒が背中を這った。瞬時に警戒態勢に入った一行の視界に、うねる灰色が映る。ドッドッと蹄が海底を蹴り上げ、大きな体が迫り来ていた。
「そコから、離れナさァァアアいッ!!」
「え?」
ナックラヴィーの言葉を理解する前に、一行の背後を風が突き抜けていき、直後にはドォッ!と轟音が響き渡った。
恐ろし気に振り返った彼らの目に映ったのは、
大きなハマグリの殻に突き刺さる、モリであった。
「これ、は……」
「見つけたぜ、シン。こんな所で呑気に中身広げてお昼寝とはな……クソッなんでこんなん見つけるのに手こずってたんだッ!」
「セルキーがかくしてたんだよ。まあ、見つかってよかったじゃない、シーちゃん」
現れたのは、言わずもがなあのシーサーペントの姉妹である。戦闘不能のシンに特別な敵意を抱いているのは、誰から見ても明白であった。
「……そうだな。姉さん、先食ってろよ。あたしコイツらシメとくから」
「させなイ……さセなイサセナイィ!! 妖精、ワタクシのォお……!」
「お前……さっきモンスター蹴散らしてたバケモン!」
妹と呼ばれる大きな個体のシーサーペントが一行へ目を向けた。ルカはサンゴの剣を拾い上げて構え、メロはどうにか一人でもシンらの救助に回れないかと視線をさまよわせている。そんな一瞬の隙も見せられない対峙の場の中央に、ナックラヴィーが立ちはだかる。シーサーペントの言葉に、一行がここまで歩いてきた道に障害が無かった理由を知り、リノが力強く微笑んだ。
「貴方のおかげでしたか、ナックラヴィー! 感謝します!」
「ォオ、オオォ……!」
「随分気味悪ィモンに好かれちまったな妖精サン。そいつの溜め息は畑を枯らすって噂だぜ?
さーて4人は分が悪いってもんだ、急げよ姉さん!」
「わかってる」
「るかるかセンセ、行って!」
メロがルカに身体を重ね、戦闘から抜け出すよう促す。それに従って妹の目を掻い潜り、貝の上でモリを振るう姉の元へと低い姿勢で駆け寄った。離脱したルカから気を逸らさせるよう、ユウシャやリノもわざとらしく大きく武器を振るう。それに呼応するように、妹もモリを振るって飛び掛かる。
「ッシーサーペント……ッ、それは……」
しかし、その作戦はルカに悪夢を見せるだけのものとなってしまった。
既に姉の手には、肌色の円筒状の何かが握られている。微弱に痙攣する柔らかい肉に歯を立てると、少女は口いっぱいに頬張って咀嚼した。そして、ルカと目が合えば薄気味悪い笑みを浮かべるのだ。
「しらない……? シンのかいばしら……チンミだよ。まりょくのつうろ……」
「そんな……っ、悪しき『害なす怪物』め! 許さな……、っえ……?」
ユウシャが歯を食いしばり、怒号を放つ。しかし、その覇気を上回る魔力を姉の持つモリが放っていた。
「とられたトライデントにはおとるね。はい、シーちゃんのぶん」
既に交戦していた妹もモリを大きく振り回して一行と距離を取り、放られた貝柱を受け取って全てを一口で呑み込む。機嫌よくウミヘビの尻尾を揺らすと、彼女のモリも強い魔力を発した。
「ああ……こんなんじゃ盗られたモンに届かねえ。後で八つ裂きだ、お守りのアザラシと一緒にな」
「そうはさせません!
……しかし、いまいち背景が見えませんね。シン様とお二人には、何かしらの因果関係があるよう思われる」
「ああ、そうだよ。先にお前らだ。姉さんはその“呪いの剣使い”だろ? 良いぜ、ただし他はぜーんぶあたしのだッ!」
「ッウゥウ……ッ!!」
一回り大きくなったようにも感じるモリを振るってナックラヴィーの馬の胴体を叩き飛ばすと、妹のシーサーペントがリノとユウシャへ飛び掛かる。それをリノの杖とユウシャの剣で何とか受け止めるものの、先程と段違いの強さにユウシャは表情に焦燥を滲ませた。
「ナックラヴィー!」
「そんな、この力、ルカ一人でなんて……っ」
姉のシーサーペントは妹の願い出通り、ルカ一人に視線を定め、モリを構える。対峙するルカも見た目は脆いサンゴの剣を構え、恐怖を押し込めたその顔を微笑みで覆ってユウシャへ目を呉れた。
「とっておきの切り札。今がその時だ」




