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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
シーサイダース
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代償×呪いの剣

 リノが戦利品となるシーグラスをいくつか丁寧に集め、頃合いと顔を上げたその時、ルカは酷い眩暈に襲われ、目を閉じ暫く蹲る事でやり過ごそうと考えていた。

 しかし、閉ざしていたはずの視界が何かを映し出す。



(イベントまであと一週間か)


 目の前にはパソコン。画面には書きかけの原稿が表示されている。

 脳裏に響くのは女性である自分の声だ。


(まあ、間に合うでしょう。最悪短い納期のプランで入稿すれば良いし……)


 そうだ、いつもイベント前の俺は余裕がない。計画性が無いんだ。


(あ、日付変わる前にアプリログインしなきゃ……。え、嘘! 推しの新衣装実装!? この、タイミングで……!?)


 心拍数が上がる。目の前の原稿はクライマックスといった場面であろう。己のものであろう指は勝手にそのイラストソフトを最小化して、普段から多用しているSNSを開き始める。


(案の定大騒ぎね……え!? 早い、もうラフ描いてる……。っていうかこの人この前脱稿してたもんな……っそもそも、公式生放送見れてない時点で出遅れてる!)


 共にイベントに参加するフォロワーが、新衣装のイラストを既に熱い語りと共に載せていた。そのうちトークの更新通知がいくつも鳴り始め、推しの新衣装が画面を埋め尽くす。


(うそ、皆、早い、早い……! 私も描かなきゃ……っでも、原稿! ただでさえ遅筆なのに、間に合う訳ない……、新衣装のグッズ今から作るって正気か!? っていうか新衣装関連伸び早いな……、えっなんで私フォロワー減ってるの? 確かに最近飯の話しかしてない!! 分かった、やっぱいい、新衣装描く。二時間寝られればじゅうぶん……、え? え!? 入稿締切、明日……!?

っていうか今、平日の朝!? 仕事……っ月末!? なんで上司インターホン押してる!? 待って、待ってよめちゃくちゃ……! これじゃ、)



 高 熱 の 時 に 見 る 、 悪 夢 だ わ 。



「っはぁ……っ!?」


「ルカ!!」


 息がつまっていたような苦しさから顔を上げ、思いっきり空気を吸い上げたルカの顔は真っ青だった。揺らぐ彼の目を、ユウシャの紫色の瞳が心配そうに見つめている。

 静けさを取り戻した海底で、ルカの乱れた呼吸が響いた。


「うん、ルカなら反動に耐えられるって、信じていたわぁ」


「セルキー!! ルカに何を持たせたの!?」


 いつになく険しい表情で、ユウシャがセルキーを責め立てる。それに驚きこそすれ、悪びれもせず彼女は謝罪を述べた。


「大した説明も無くごめんなさいねぇ。でも、モリで串刺しにならずに済んで良かったじゃない」


「……ユウシャ、大丈夫。セルキー……これは、サンゴの死骸、に見える。どうだ?」


 そんなセルキーの態度にもう一度怒鳴ろうと拳を握るユウシャを制止し、ルカが口を開く。未だ疲労の伺える表情で、額の汗を拭っている。


「……ええ、正解。その剣は、私の種族が憎しみを孕んだサンゴから作り出した剣なの。

 昔ね、私がもう少し探求心があった頃。暗い淀みが海水に滲んでいたから、原因の調査に向かったの。ここからは少し離れた、遠くの海ね。

 壊滅したサンゴの群れがあったの。人間に乱獲されたらしいわぁ。あまりにぞんざいな扱いで、残ったサンゴもぼろぼろ。その中でも取り分け大きくて、酷い憎しみを放つサンゴを私の同胞が持ち帰ってね、一振(ひとふり)の剣にしたのよ。完成した時には絶命しちゃったけど」


「……それは、悲しいですね」


「うふふ。まあ、彼が望んだ事だから、良いんじゃない? それよりこの剣、凄いのぉ。無数のサンゴの恨みや憎しみを力にしているから、持つ人の身体能力に影響されない、強大な力を保持しているのよ」


 このセルキーにとっては、同種族の死よりおぞましい武器への解説の方が重要なようだ。ユウシャもルカの身に起きた事象を理解したく、更に剣の情報を求めて問いかける。


「それじゃ、欲しいって人も多いよね? なんでセルキーが持っているの?

 ……っていうか、愚問かもだけど……セルキーは使わないの?」


「そうよねえ。うん、見た通り。呪いっていうのは自分にも返って来るものなの。

 この剣は所有者の能力に準ぜず、強大な呪力を持って立ちはだかる者を完膚なきまでに叩きのめす。そして力を使った分、所有者の精神を傷付け、削るの。

 全てを滅ぼす剣……サンゴの群れがかつて()()されたように、ね」


 ルカは喉を引きつらせ、咄嗟に握っていた剣を落とした。


「大丈夫よぉ、もうルカは払ったんだから。ま、そういう性質だから、みぃんな一回使ったら返しに来るのよねぇ。ほら、もっと正当性のある神性の武器とかあるでしょぉ?

 私も魔力より肉体派だから、この剣合わないのよねぇ。

 ……でもルカ、地上で強い呪術を使うんでしょ? なら使えるかなぁって、思ったの。私の出来る手助けって……これくらいだから。貴方たちの言った通りねぇ。たったあれだけの時間で立ち直ったんだもの、ルカが強い呪術師だって言うなら信じちゃう!

 ……でも、そうね……辛かったわよね。良いわ、これはまた私が預かる」


 セルキーのしなやかな指がルカの背を撫でる。落とされた剣を拾おうとしたその時、伸ばされた手をルカが遮った。


「待ってくれ。……使わせてほしい。この剣を……」


「るかるかセンセー! デメリット、ちゃんと聞いてた!? 玉座と同じ……ううん、それ以上にマズい、呪物そのものだよ!」


「ああ、メロ……そうだな。でも、セルキー。

 貴方は俺たちを陥れようとして、これを持ってきた訳じゃない。それは、信じていいだろう?」


 ルカの妙な言い回しに、セルキーは僅かに目を見開く。それからしばしば見られる穏やかな笑みを浮かべ、一つ小さく頷いた。


「ええ。これは貴方たちの手助けの為に持ってきた。貴方たちの戦力になると思った。間違いじゃないわ」


「……なら、充分だ。問題ない、メロ。元々魔法を使うにはMPを消耗するものだ。

 まあ……そうだな。これを振るう時は、とっておきの切り札くらいに思ってくれていると助かる」


 立ち上がってまた頭を押さえるルカを見て、一行は心配そうに表情を曇らせる。しかしここで使用するだのしないだのと揉めている暇もない。ルカの申し出に一つ頷くと、再びセルキーの案内の元、先を急ぐのだった。



 

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