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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
シーサイダース
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アザラシ乙女×霧の発端


「この辺り、私のテリトリーにしているの。だからルサールカ(あの子)たちも寄ってこないわぁ」


「えっと、ありがとう……。それで、セルキーはどうしてあたしたちを助けたの、かな?」


 セルキーは海藻や鮮やかなサンゴの生えた岩がゴツゴツと並ぶ場所へ一行を連れてくると、一つの岩に腰かける。しばしば見られる大きく隆起した岩や大きな海藻が外部からの死角になりそうで、一行も適当な岩に腰を落ち着かせた。


「そうねぇ、……うん、絶望してなかったから、かな?」


指を己の厚い唇に当て、考える素振りを暫く見せた後に放たれたユウシャへの返答は、疑問符を添えた曖昧なものであった。


「自分の身体が普段と大幅に違う、思うように動かない……うん、落ち込んだって仕方ないわねぇ。鍛え上げてきた身体なら、尚更。

 でも貴方たち、すぐに此処から出ようって考えて行動していたから。感動しちゃったぁ!まあワカメちゃんだけ落ち込み方の落差が凄いんだけど……まるで特別な理由でもあるみたい」


 今までは落ち着いてメロ(彼)の悩みに向かい合えなかった三人も、聡いセルキーの言葉にメロへ視線を向ける。視線が集中すれば居心地悪く、メロも精気を失った顔で身体を起こした。


「メロ……どうしたのですか。この程度の幻術で、貴方らしくない」


「だって……だって、メロくんの身体は、ジャックさまと約束したトクベツな身体なんだもん! メロくんが生きてた頃に望んだ、今のメロくんに唯一遺した願いの形……メロくんがココにいる全て。メロくんのカワイイの全て。今のメロくんには、何も残ってない……!

カワイイ・ジ・エンドってわけ……」


 リノの呆れたような問いかけに、メロの瞳が潤む。表情は感情を取り戻したように歪んで、大粒の涙が顔を伝う。それ程、死してなお女性の身体を保つため大切なモンスターの身を削らせた契約は、彼女にとって重く、強いものだったのだろう。


「メロ。……可愛いよ」


「えっ」


 低く甘い声が響く。ルカのものだった。メロが涙を散らし、顔を上げる。


「今もメロが一番可愛い。君のアイドル人生はここで終わらないだろ(一回死んでるけど)。君から放たれる輝きは外面だけじゃない。魂の愛らしさだ。

霧を晴らして、皆で元の姿に戻ろう。メロの力が必要だ……」


 どき、どき。止まったはずの心臓が高鳴りを思い出している。


「っそ、そうだよ! メロが一番可愛い! 一番有能なアイドル!」


「ええ。メロが一番可愛らしい! どうか元気を出して」


「みんな……!☆」


 続く二人のあからさまなべた褒めに、オレンジの瞳が宝石のように輝く。そして飛ぶように跳ね上がるとくるくると舞い、腰に手を当て皆の元へ降り立った。


「そうだ、メロくん男の子になっても誰より一番カワイイんだった☆ よーし、皆でさっさとこの鬱陶しい霧、晴らしちゃお☆」


「すごぉい。この子トビウオより飛躍力あるんじゃない? 感情の起伏的な意味で」


 セルキーは始終を見守り、穏やかな笑みを湛えて拍手している。メロの気持ちも晴れたとなれば、次はこの海の霧も晴らさねばならない。そんな現状に対する危機を全く感じさせない彼女から情報を引き出すため、ルカが向き直って口を開いた。


「それで、セルキーは俺たちと対話を望んでくれている。この海は明らかに可笑しい。それについて、情報を与えてくれる。そう考えていいか?」


「ええ、その認識で良いわぁ。それと、話さなくても後々分かると思うけど、私()()まで同行させてもらうからぁ」


「それは心強い」


「……感謝する。俺はルカ、彼はリノ、彼女はユウシャ。それとこのトビウオちゃんがメロだ。

 セルキー、貴方から全て説明してもらっても構わないが……もし良かったら、現状俺たちが把握していることを聞いてもらいたい」


 考えていた以上に協力的な彼女の発言に、リノは喜ばし気に、満足そうに頷いている。ルカはと言えば身体を動かせなかった分、頭をいくらか動かしていたようで、穏やかなモンスターへ提案を持ちかけた。


「……ええ。聞かせて、ルカ?」


セルキーはゆったりとした所作で、瞬きと共に僅かに頭を縦に揺らす。言葉と共に承諾と取ったルカは、まだ散らかった考えを整頓しながら、ぽつりぽつりと語りだした。


「俺たちが捕まる時、“あの子に渡したら元に戻してもらえるかも”……そう話す娘がいた。

 海上に立ち込める霧は、もちろん天災によるものではない。モンスターないし何かしらの生物、またその個体をリーダーとした団体による仕業か? そして君たちこの海域のモンスターは、その正体、存在を知っているんだな」


 ルカが話し終え口を閉ざすと、沈黙が泡と共に空間を漂う。コポコポ、と耳を擽るような音の後、再びセルキーの拍手が小さく響いた。


「あらぁ、はなまる! よくお話を聞く人間さんなのねぇ。

 そうよ。この霧を生み出しているのはモンスター“シン”。よく知っているわ、だって私の幼馴染だもの」


「シン?」


「そう……セルキーの幼馴染だったんだね。だから……」


 メロは文字数も情報量も少ないモンスターの名に首を傾げ、ユウシャはセルキーが協力的な理由を知って表情を曇らせる。


「聞いた事ない? 魔霧を吐き出す大ハマグリちゃん」


「なるほど☆ 蜃気楼の“シン”だね!

 確かに魔力の強いモンスターだから、幻覚作用のある霧を散布するのも造作ない☆ でも、こんな高濃度の幻覚を広範囲……大人数に?

めっちゃつよつよなのでは!?」


 セルキーの提示した追加情報に、メロも漸く元凶であるモンスターの正体を絞り込めたようだ。しかし、現状から見て非常に強大な力を持つと考えれば、思わず驚愕の声が上がる。


「ランクは?」


「C-。や、良くてもB超える個体は発見されてないんじゃない☆」


「人間って価値を付けるのが好きねぇ」


「……否めないな。けど、“脅威になり得るもの”の能力値は把握しておきたい。今も助かっている」


「あら、責めているわけではないのよ。人間は能力に大きい振り幅があるものねぇ。マメねえ、って思っただけ。

 あ、シンも賢いのよぉ! いつも色々考え事しているの。最後に会った時も、何か悩んでいたわ。今も一匹、閉ざした貝の中……」


 彼女の言う最後とは、恐らく霧が立ち込めるより前の話であろう。事務的に考察していたルカも、唯一の幼馴染と離れ離れになった寂し気な乙女の姿に目を伏せる。虚しいばかりの空間に、ふとユウシャの悩み苦しむ声が響いた。


「うーーん、じゃあシンは、その悩み事が原因でこの霧を生み出した可能性が高い、ってわけね。性別をひっくり返さなきゃいけない悩みなんて、サッパリだけど。

 っていうか、悩みが解決したならウキウキでその辺を闊歩してても可笑しくないよね?なんで、貝の中に……?」


「失敗して落ち込んでる、とか。……霧をコントロールできていない?」


 彼女から零れた疑問に、ルカもただ考えたままを呟く。二つを重ね、その場で一つの仮説が導き出された。


「確かに! 己の制御出来ない域であるならば、この霧がシン様お一人の仕業である事に整合性が保たれます。

 ……いえ、セルキー様。貴方の幼馴染様のお力を見くびっているのではございません。魔霧は外界にまで影響を及ぼしています。一人で事を成すには、大きすぎるのです。……あしからず」


「全然気にしてないわぁ。でも、本当にそうなら困ったわねえ。この霧を晴らす方法を誰も、本人すら知らない……なんて。

 ああ、どんな問題も解決しちゃうものすごぉい魔法の呪文とか、あったら良いのに!」


「セルキーってけっこうロマンチスト?☆ かーわいーい!

 ま、確かにその通りなら困るけど、当面の目的は定まったね! まずはシンとご対面。それから、お悩み相談室だ☆

 るかるかセンセーに全てをお委ねください。さすれば道は拓けるでしょ~」


「一気にインチキ臭くなったな」



 

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