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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
アイスキャッスル
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真相×過去


「……私も、行くわ……」


「ルカ! 良かった、起きられたのですね……!」


 次いで目を覚ましたルカも、まだ気だるさを残しながら身体を起こす。スノーマンを姫抱きにしたクイーンを先頭に、一行は貯蔵庫から繋がる地下へ向かった。その道すがら、フロスティは自身の企てを懺悔する。


「この城には、クイーンと私だけがいたのです。貴方が一番初めに生み出した生命体、それがスノーマンでしたね。心も体も、白く美しい……本当に、美しい子だった。

 貴方は私を生命体の教育係に任命された。スノーマンは少し、言葉を覚えるのに難があったが……素直な良い子だった。愛おしかった。私は彼をめいっぱい愛した。

 でも彼の一番は……クイーン、貴方でした。冷たく雪原を見つめる貴方を、スノーマンは「せかいでいちばんうつくしい」と言ったのです。


 その後に生まれた生命体は全て、貴方を敬い、尊び、愛していた。貴方が創り出した事により固定された思想は、外部の生物への嫌悪の気持ち、そして、貴方への敬愛。しかし貴方は、教育の全てを私に押し付けた挙句、スノーマンを特別視した。スノーマン自身がそんな貴方の執着心を知っていたかはわかりません。でも、憎らしかった。彼が生まれてから、一番彼を見ていたのは私なんだ……。

 貴方から、スノーマンを奪い去りたかったのです。


 創り出されるモンスターに、スノーマンへの嫉妬心を学習させました。貴方が特別視していた事を、皆が把握し、嫉妬していた。貴方は相変わらずスノーマンにしか興味が無い。スノーマンが周りにどのように扱われているかなど、知ろうともしなかった」


「貴方の差し金だったの! スノーマンが、どんな思いだったか……!」


 スノーマンの過去から聞いた声、苦しみを知っているルカが、思わず口を挟む。怒るルカをリノが抱き寄せ、頭を撫でる事で心を落ち着かせた。そして、続きを紡ぐようフロスティへ促す。


「後で殴るでも刺すでも、どうとでもしてくれ。……最低な事をした。

 案の定、ここを出たいと言った彼を、貴方は逃がすまいと叱咤しました。スノーマンは独りになった。私が逃がしてやった。

 長い年月をかけ、スノーマンとクイーンを遠のかせ……貴方の執着心を摩耗させるつもりでした。後は私がスノーマンの元へ足繁く通い、唯一の味方として、傍に寄り添ったら良い。そうしたら今度こそ、彼は私のものになるのだと思っていました。

 予定が狂うこととなった誤算は、クイーンの執着心がなかなか薄れなかったこと……そして、君たちが現れたことだ。君たちが私の代わりになりつつあった。……焦ったさ。周りを騙しつつ、スノーマンを地下へ閉じ込める。あとは君たちだけ雪原へ追い出して、彼を地下牢で愛でる算段だった。

 或いは、脱出に成功した時。地下には大木がある。あの木は城の……クイーンの、エネルギー供給源だ。危険はあるが、供給源にダメージを与えればその分クイーンは一時的に弱まる。君たちがそれに気づき、大木を傷つけるのを狙った。これはまあ、最後の賭けだった。私が、クイーンにとどめを刺さねばならなかったからな」


 彼もまた愛する気持ちに囚われていたのだと、ルカは感じる。切なさに、胸の辺りをぎゅっと押さえた。ここには愛情が沢山ある。美しいスノーマンの魂を愛する気持ちが溢れているのに、そのどれもが彼を傷つけていた。


「……そして、その大木について、話さねばならんだろう」


「ルカ! みんな……って、うげっ、フロスティもいるし、その人ってクイーン!?」


「ユウシャ!」


 クイーンが歩みを止めると、その先にはユウシャとデットが立っていた。そして二人のすぐ後ろには、美しいガラスの巨木が鎮座している。


 一行が再会を喜ぶ間、クイーンは大木に歩み寄り、幹にあるヒビや傷等の損傷部位に片手を当てる。


「ルカ、怪我してるじゃないか……あっ! アイツ、木を直してる!」


「大丈夫、彼はもう、落ち着いて話が出来るわ」


「……これは、お前たちももう知っているだろうが、全ての熱を吸い上げエネルギーとする木だ。私が作ったものではない。私よりもっと先に……ここに根付いていたものだ」


「クイーンより、先に……!?」


 フロスティも知らなかった事実のようで、驚きに声があがる。永くここでクイーンと過ごしてきた彼が驚くのだから、それは果てしなく昔の事なのだろう。


「あの頃は雪原地帯ももっと小さかった。相変わらずの雪と寒さだが、生物も植物もあった。私はこの地に生まれ、この地を治める者としてここにあるのだと、生まれてすぐに悟った。

 今、城があるこの半島に、この木は生えていた。

 あの時は、まだ今の半分……もっと小さかったか。他の植物とは違う。この木を中心に生態系も変わっているよう感じた。そうして調べたところ、これが根を張った範囲のあらゆる熱を吸い上げて、成長しているのだと分かった。

 それに連れ、雪原地帯は広がっていった。これを野放しにしていては、島の熱が奪われ、やがて白に覆われてしまうだろう。私が助けを求めたところ、丁度お前たちのような……旅の一行が現れてな。剣士が幹を切り倒し、魔術師が根を焼き払った。これで雪原の拡大も止まる、そう……思っていた。


 翌朝、雪原にいた私以外の全ての生物が死んだ。


 雪原を駆けていたウサギも、鳥もイタチも、昨晩語らった旅の者たちも……全てが熱を失っていた。そして、昨晩黒く朽ちたはずのあの木は、透明に脈打っていたのだ。

 この木は、中途半端に破壊してはならない。失った分、急激に取り戻そうと熱を吸い上げる。あの日、雪原地帯は今と同じ領土まで拡大しただろう」


 クイーンの見てきた世界に、一行は言葉を失う。取り分け木を破壊しようとしたユウシャは、青ざめ瞳を揺るがせている。


「白の世界で、私だけが生かされた理由。内に使命を持たない外の全てを拒絶する事で、この虚無の地を閉ざし、島の秩序を守る事と結論付けた。私はこの大木を制御するシステムを考えた。

それがこの『アイスキャッスル』だ。

 私が大木とリンクする事で、熱エネルギーを膨大な魔力として放出する。木は城で覆うよう設計した。あとは今以上の成長を妨害する為、これが吸い上げる熱を私が魔力として奪う。今が大木の生命活動を最小限に抑えた状態だ」


「貴方はそのエネルギーで、沢山の生き物を作ったのね」


 失われた、過去を想って。ルカには雪原で見てきたモンスター達の姿が、何故か見た事も無い過去の雪原の住人と重なった気がした。


「ああ……他人より器は大きいが、無尽蔵に貯蓄できるわけでは無いからな。だから、時々制御しきれない事もある。……それを人は()()()と呼んだな」


 雪原が広がる現象を、人々は自然の脅威と恐れていた。しかし、それはクイーンの考え出した世界を守る為のシステムの一部であったのだと、今ならここにいる全員が理解出来る。


「クイーンは……うつくしい、でしょ。おれの、……みんなの、だいすきな、クイーン」


 クイーンの腕に抱かれた、まだ小さな雪玉のモンスターが、消え入りそうな声で呟く。温かな言葉に、クイーンの唇が泣きそうに震えた。


「そうだ……ノンノンには原種(オリジナル)が無いんだ!」


 ノートパソコンを開く幽霊少女が、突然声を上げる。一同がメロへ視線を向け、リノがパソコンを覗き込めば、そこにはモーショボーやカマイタチらの原種の姿が表示されていた。


「えっと……それが、どういう……?」


「他のモンスターとの違い☆ クイーンさま、ほんとにノンノンもイチから作ったの?」


「……いや、実のところ彼に関しては……私が作ったのは形、というべきか。

 フロスティがこの地へやって来て暫くの頃……大木の傍で、動く雪玉を見つけた。もっと雪を付けてやったら、その分大きくなった。もっと雪を盛って、人間の子どもの形にした。自我を持って、唸るようになった」


「そして彼を私が教育し、溢れる雪をたんと食べ、大きく立派に育ったのです」


「だから、彼には女王の思想が根底に無いのね」


「ノンノンも、クイーンと同じ生き残り!?」


「う、うー……きおく、ない。……おれが、はじめてみた……は、クイーンの、えがお。だからおれは、クイーンのこ。

 でも、おれ……しってる。クイーン、まもろうとした……きも、ゆきも、せかいも、まもろうとした……、あったかくて、うつくしいモンスター。おれ、なんでか……ずっとしってる」


 スノーマンの小さな片手が、クイーンの白い頬を包む。孤独の世界で戦ってきた彼を、白い瞳がきらきらと輝いて見つめる。クイーンも何故だか、その瞳にずっと見守られていたような気がして、そっと涙を零した。


「何故だろうな……。お前は、虚勢を張る私から寂しいという気持ちを引き摺り出した。お前に満たされた。お前が離れて行ってしまったら、とうとう生きていけないとさえ思った。こんな気持ちは、こう伝える他無いだろう。

 愛している、愛しているよスノーマン。私の愛おしい子……」



 

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