表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
アイスキャッスル
43/88

裏切り×真実

 青天の霹靂(へきれき)であったその攻撃に、リノもセヴェーノも、メロも対応出来ない。無防備な戦闘不能のクイーンに霜柱が突き刺さる。その恐怖に、全員が目を瞑った。


「……っやったか…、っ!? う、嘘だ、何故……っ


 スノーマン!!!」


 フロスティの叫びが、乾いた部屋に響き渡る。霜柱を受けたのは、スノーマンだった。損傷の酷い片腕は雪解けのようにぼたりと落ちる。腕が落ちた肩からは、雪がほろほろと零れ続けていた。


「貴方ッ、どういうつもりですのっ!?」


「やだ、ノンノン……雪が出ちゃう、止まらないよお……!」


 リノが杖を向けようと、絶望したフロスティは膝を着き、頭を抱えて降伏どころではない。それから気付いたように慌ててスノーマンへ駆け寄ると、溢れる雪を止めるよう肩に霜を張った。


「何故だ……何故だスノーマン! 何故、クイーンなんか助ける……!」


「えっ、コイツ、クイーンを慕ってたんじゃ……?」


「クイーンは、いちばん、うつくしい……。こわしちゃ、いけない……だれも。おれは、クイーンが、だいすき……」


 見るからに弱々しく衰弱していくスノーマンは、少年期の人間サイズまで縮み、傷口から溶けかかっている。なんとか零れる雪を集めスノーマンに付けようとフロスティは必死だが、彼に生命を作る力は無かった。


「それは刷り込みなんだよ! クイーンに作られた、だからクイーンの思想が根付いてるんだ! 外部の生物を嫌ったり、クイーンを敬愛したり……!」


「違うよっ! ノンノンは、メロたちを嫌わなかったもん!!」


「……っそれは、何故だか私にも……っ。で、でも君は、ここで虐げられてきた! それを気付きもせずに、自分から離れるなとは、酷い話じゃないか!?

 君は嫌っても良いんだ……逃げても良いんだ! 私と、二人で!」


「えっ……ええ!?」


 その時、セヴェーノもリノもメロも、漸く自身らの勘違いに気付いた。しかしその感情に今まで気付かなくたって、至極当然だ。彼はその気持ちを隠し通し、部下もクイーンも、最愛のスノーマンまでをも騙していたのだから。


「あり、がと……。おれは、フロスティも、すき、だよ……。おれを、おせわしてくれた……、ことば、おぼえるのへた、かんがえるの、むずかしい……おれ、ずっと見てて、くれた……。

 おぼえてる、とけおちないよ、おぼえて、る……」


「ああ……あああ……! だめだ……っいやだ、いやだ! すまなかったッ! 消えないでくれ、溶けないでくれえ!!」


 今まで澄ました顔でいたフロスティが顔を歪ませ号哭している。小さくなったスノーマンを抱きしめて、謝罪を繰り返した。


「っ……貸せ……」


「スノークイーン……ッ!?」


 その時、まだ痛むのだろうか頭を押さえ、クイーンが身体を起こした。自然と部外者である一行が離れると、青年はフロスティを押しのけ、スノーマンを抱き抱える。

 額と額を合わせると、眩い光がスノーマンを包む。それから苦し気であったスノーマンの表情がふと緩むと、瞳は眠そうにとろんと細まった。


「……生命活動の維持に、問題は無い。あとは雪をたんと食べると良い」


「うわ、うわぁああん! 良かったぁ、ノンノン、良かったぁ!」


 彼女自身が亡くなっている事を忘れてしまうほど、メロが一番感情的に泣き、スノーマンの生還を心から喜ぶ。一方同様に涙でぐしゃぐしゃのフロスティはと言えば、スノーマンが生きていてくれた事に対する安堵と、現状に対する諦めに、緩く笑みを浮かべた。


「罪を認めます。貴方を殺めようとした。どうぞ、首を斬るでも身体を貫くでも、好きにしたら宜しい」


「……いや。私の、……そして、お前の愛するスノーマンが、それを望まないだろう。

 その罪は生きて償うものだ。一刻も早く地下へ向かう必要がある。道中話してくれるか。お前の企てた、全てを」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ