裏切り×真実
青天の霹靂であったその攻撃に、リノもセヴェーノも、メロも対応出来ない。無防備な戦闘不能のクイーンに霜柱が突き刺さる。その恐怖に、全員が目を瞑った。
「……っやったか…、っ!? う、嘘だ、何故……っ
スノーマン!!!」
フロスティの叫びが、乾いた部屋に響き渡る。霜柱を受けたのは、スノーマンだった。損傷の酷い片腕は雪解けのようにぼたりと落ちる。腕が落ちた肩からは、雪がほろほろと零れ続けていた。
「貴方ッ、どういうつもりですのっ!?」
「やだ、ノンノン……雪が出ちゃう、止まらないよお……!」
リノが杖を向けようと、絶望したフロスティは膝を着き、頭を抱えて降伏どころではない。それから気付いたように慌ててスノーマンへ駆け寄ると、溢れる雪を止めるよう肩に霜を張った。
「何故だ……何故だスノーマン! 何故、クイーンなんか助ける……!」
「えっ、コイツ、クイーンを慕ってたんじゃ……?」
「クイーンは、いちばん、うつくしい……。こわしちゃ、いけない……だれも。おれは、クイーンが、だいすき……」
見るからに弱々しく衰弱していくスノーマンは、少年期の人間サイズまで縮み、傷口から溶けかかっている。なんとか零れる雪を集めスノーマンに付けようとフロスティは必死だが、彼に生命を作る力は無かった。
「それは刷り込みなんだよ! クイーンに作られた、だからクイーンの思想が根付いてるんだ! 外部の生物を嫌ったり、クイーンを敬愛したり……!」
「違うよっ! ノンノンは、メロたちを嫌わなかったもん!!」
「……っそれは、何故だか私にも……っ。で、でも君は、ここで虐げられてきた! それを気付きもせずに、自分から離れるなとは、酷い話じゃないか!?
君は嫌っても良いんだ……逃げても良いんだ! 私と、二人で!」
「えっ……ええ!?」
その時、セヴェーノもリノもメロも、漸く自身らの勘違いに気付いた。しかしその感情に今まで気付かなくたって、至極当然だ。彼はその気持ちを隠し通し、部下もクイーンも、最愛のスノーマンまでをも騙していたのだから。
「あり、がと……。おれは、フロスティも、すき、だよ……。おれを、おせわしてくれた……、ことば、おぼえるのへた、かんがえるの、むずかしい……おれ、ずっと見てて、くれた……。
おぼえてる、とけおちないよ、おぼえて、る……」
「ああ……あああ……! だめだ……っいやだ、いやだ! すまなかったッ! 消えないでくれ、溶けないでくれえ!!」
今まで澄ました顔でいたフロスティが顔を歪ませ号哭している。小さくなったスノーマンを抱きしめて、謝罪を繰り返した。
「っ……貸せ……」
「スノークイーン……ッ!?」
その時、まだ痛むのだろうか頭を押さえ、クイーンが身体を起こした。自然と部外者である一行が離れると、青年はフロスティを押しのけ、スノーマンを抱き抱える。
額と額を合わせると、眩い光がスノーマンを包む。それから苦し気であったスノーマンの表情がふと緩むと、瞳は眠そうにとろんと細まった。
「……生命活動の維持に、問題は無い。あとは雪をたんと食べると良い」
「うわ、うわぁああん! 良かったぁ、ノンノン、良かったぁ!」
彼女自身が亡くなっている事を忘れてしまうほど、メロが一番感情的に泣き、スノーマンの生還を心から喜ぶ。一方同様に涙でぐしゃぐしゃのフロスティはと言えば、スノーマンが生きていてくれた事に対する安堵と、現状に対する諦めに、緩く笑みを浮かべた。
「罪を認めます。貴方を殺めようとした。どうぞ、首を斬るでも身体を貫くでも、好きにしたら宜しい」
「……いや。私の、……そして、お前の愛するスノーマンが、それを望まないだろう。
その罪は生きて償うものだ。一刻も早く地下へ向かう必要がある。道中話してくれるか。お前の企てた、全てを」




