脱獄×手分け
「メロ、外はどんなだ?」
「うーん、あっちに道が続いてる☆ でも暗いなあ。牢屋はここだけみたい。
おわ!? 鍵発見!!」
「声、大きい! けどナイス!」
メロに一旦外の様子を観察してもらえば、牢屋もその周りの作りも簡素なものであった。それもその筈で、こんな北西の端にある氷の城に行こうなどという者はまずいない。一行もスノーマンの案内と幸運があっての現状で、そうそう使用する機会は無かっただろう。それ故に鍵も無防備に、土壁に埋まったキーフックに掛かっている。
「流石に鍵を開けるまで器用な事は出来ないから、そっち投げるね! ほーい☆」
「よっ……と。ありがとう、メロ!」
「1パーティーに一憑きの時代ですわね」
「そんな時代あってたまるか!」
現状を打開出来た安堵から和やかな談笑まで始まって、緊迫した空気は穏やかなものに変わっていった。ユウシャが手首を伸ばして解錠を試みると、捻るだけのそれは簡単に開き、一人一人鉄格子の扉を潜る。
「……あら?スノーマン……何だか小さくなった?」
一般的な人間用のサイズに作られた扉を潜る際、身体の幅を案じスノーマンに目を向けたルカが、彼の大きさの変化に気付いた。牢屋外の蝋燭の火に照らされたスノーマンは顔立ちをそのままに、確かに3m程の巨体から3分の1程の人間サイズへ変貌している。
「ん……、ん? そうか?」
「ええ、本当に。此方は外に比べて温かいですわね……、あっ」
室内であれば外より大分気温が高い事も頷けた。しかし外壁の光景、そして地下という場所から、リノは先程の地下洞窟での気掛かりを思い出さざるを得ない。
「そういえば、先程穴へ落ちた時も、地下は温かかったのです。そう……今のように」
「土に囲まれてるから、あったかいのかな?」
「いや……そういう温かさのレベルじゃないだろコレ。魔法で暖でも取ってんのか?
だからコイツ、溶けてんの?」
スノーマンがその名の通り雪で出来ているなら、温かな場所でその姿は保持出来ない。セヴェーノの何気ない考察に、一同の表情が曇る。他人に言われるまで気付きもしなかった自身の変化に、スノーマンも顔が強張った。
「おれ、なくなっちゃう、のか……?」
「そんなこと、させない。皆、早く行こう」
ルカが先を急ぐよう促し、一行が頷いたその時。続く一本道の暗闇から、小さな足音がいくつも近付いてくるのを全員が感じ取った。
「あ! 逃げ出してる! 逃げ出してるぞ!」
身の毛もよだつほど愛らしい鈴のような声は、地上で聞いたジャッカロープのものだ。全員が武器を握り、最悪の事態を予測し身構える。
「良かったぁ。フロスティ様は近付くなって言ってたけど、やっぱり来て正解じゃない」
やって来たのは地上にいた複数個体のうち、4匹程であった。一行の与り知らぬ場でのフロスティの牽制が効いていたのだろう。
「ちょっとからかってやろうってだけだったけど……マズいな。お前、増援を呼んでおいで。フロスティ様に地下へ行ったことがバレないように、こっそりやるんだよ」
「増えたらマズいぞ……!」
「そうはさせるかーい!☆」
一行を確実に仕留める為動こうとしたジャッカロープたちの足元に、メロが這いつくばる。蝋燭の灯りという強い光源に、彼らの影が浮き彫りとなったのだ。若干引き気味の少年らは彼女を踏み越えて地上へ戻ろうと考えたが、どうにも足が動かない。
「ちょっと、お前、僕らに何したの!?」
「メロの影踏みだ! よし皆、この隙に行こう!」
「あの子あといくつ秘密を隠し持ってるんだ……」
「でも、メロが身体を離したら一斉に向かって来られますわ! それに彼女一人ここに置いていくなんて……っ」
生物に過干渉出来ないメロの封じ込めは、ほんの一時的なものだろう。敵を減らすという根本解決にはならないと、リノは躊躇していた。
「みんな、急げ~っ☆ このウサギ、結構重くて怪力だよ~っ」
「なっバカ! 嘘言うなっ」
「スノーマン、庭は、どっちだ」
久々に聞いたデットヘルムの声に、皆驚いて口を噤む。問われたスノーマンだけが必死に答えを考え、自らの知能で出来得る限りを言葉にしようと口を開いた。
「うー……っ、もん……もんの右、まっすぐすすむと、あるっ」
「ここは引き受けた。地上へ行け。メロもだ」
「っ何言ってんだデット! 敵陣で単独行動は危険だ、もう一人は残るぞ! ってなると、俺……」
「いや、俺が残る!」
デットがここでジャッカロープを全て相手取り、地下へ残ると端的に報告するならば、もう一人残るべきは当然自分であろうとセヴェーノが頭を掻く。しかし、その声を遮りこの場へ残ると申し出たのは、その名から栄光や名誉を勝ち取りたいであろうユウシャだった。
「はっ!? 何言ってんのお前……っ」
「良いから、行ってくれ! セヴェーノは魔法を使える! 最悪クイーンと対峙するなら遠距離から狙えた方が良いだろ!?」
「行こう、セヴェーノ」
自らをユウシャと名乗るぐらいなのだ。偶然にも出会っただけの二人組など置いて、自らのパーティーで地上へ向かうだろう、とセヴェーノは考えていた。しかし、彼は現状の最善を考え、指揮棒を振っている。そして彼にいつも寄り添っていた桃色の女性も、それに従っているのだ。
「お前、お前……っ、ルカが俺に惚れても、文句言うなよーっ!」
「ははっ! 頼りにしてる!」
「ユーちゃん……っ
離すよ!」
デットとユウシャ、メロ以外の全員がジャッカロープを横切って一本道を走って行く。充分距離を取ったところで、メロも影を離し、デットの指示通り地上組の方へ飛んで行った。
身体が自由になった事で、4匹が一斉にデットとユウシャ目掛け大きな角を振りかぶる。
デットは戦闘の最中、拳を振るいながら考えることがあった。冷静に指示を出し笑顔で彼らを見送ったはずの隣の男は、剣を構えながら足を震わせていたのである。自らの力を誰かへ向けることに疑問を持たないデットにとって、ユウシャの内に感じる恐怖を理解することは不可能であった。




