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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
アイスキャッスル
39/88

城門×霜の精


「これ、玄関?」


「おっきーい☆」


「ノック……ノックするところございます?」


 城の入り口まで警備も無いのは幸いと言えるが、それほど外部からの侵入者はいなかったのだと悟れる。巨大な城に相応しい、門とも呼べそうな大きな玄関ドアが待ち構えているならば、一行は再び尻込みしてしまう。果たして押したり引いたりしてみたところでこの重厚な扉は動くのだろうか。そんな疑問をそれぞれ抱きつつ扉とにらめっこを続けていると、幸か不幸か一行を感知したように扉がギギギ、と鈍い音を立て、外に向け開き出した。


「帰ってきたのカマイタチ? って、うわっ! スノーマンじゃない! なんでお前がここに…っ!

 こうしちゃいられない、フロスティさまを呼ばなきゃ!」


 顔を出したのは、ふわふわの白いケープコートを羽織った、ウサギの耳とヘラジカのようなツノを生やした愛らしい少年だ。美しく可愛らしい顔立ちに反し、言葉は刺々しい。そしてその声にルカは聞き覚えがあり、スノーマンの表情が曇る理由もすぐに察することが出来た。


「あいつ……っ」


「ルカ、落ち着け! フロスティを呼ぶらしい、絶好のチャンスだぞ」


 戦いの為に使ったことも無い拳を握り、少年の後を追おうとしたルカを、セヴェーノが制止する。


「あの子なに? メロのパソコンにも登録(データ)無いよ。ネット繋がれば出てくるかな?」


「……ジャッカロープ。なかに、いっぱいいる」


「おっけ☆ 登録しとく! くちわるチワワ……」


「おいっ、来るぞ!」


 カツ、カツ、と固い床を叩くような音が響く。扉の先に広がるエントランスに現れたのは、フォグブルーの髪をサイドパートにカッチリ纏め、ライトグレーの燕尾服に身を包んだ壮年の男性であった。透き通った眼鏡を掛けたその冷ややかな表情に、喜びや嬉しさといった色は無い。


「フロスティ……あの、……ただい、ま?」


 スノーマンもその表情を見て、怖々と声を掛ける。


「……スノーマン。何故帰ってきた?」


 溜め息を一つ添えて問いかけるその姿は、どこか説教を始める父親を彷彿とさせた。それがスノーマンにも読み取れたようで、大きい身体を縮こまらせてルカのマントを握っている。


「う……おれ、ここ、でてく……。だから、クイーンに、さよなら、いいたくて……」


「……ほう。折角の私の厚意を踏みにじると」


「……っあ、ごめ、なさ……」


「っ、貴方が彼をここから逃がしてくれた……とても感謝しています、ヨクル・フロスティ。私はルカ。私が彼に同行をお願いしたんです」


「ああ、全く……面倒くさい事をしてくれる。望むままクイーンの前から消してやったというのに、のこのこ帰って来て……果てには人間を城に招き入れて、それらと雪原を出ていく? 愚かにも程がある」


 彼の姿は、スノーマンの記憶にあった声の人物を想像したものとはかけ離れていた。終始見下すようにそう言い放てば、後方に群がるジャッカロープたちもクスクスと侮蔑の笑みを浮かべている。


「君は地下牢行きだ、スノーマン。二度とクイーンの御前に現れようと思うな」


「フロスティ、貴方は……、っ!?」


「っうそだろ!? ギャーッッ!!」


 ユウシャがフロスティの良心に問いかけるより先、広いエントランスの床が大きく傾き、開き始めた。艶やかな床は踏ん張ることもしがみ付くことも許さず、一行を暗闇へ次々落としていき、全て飲み込むと何も無かったかのように口を閉ざす。それをまた無表情で見つめると、フロスティは踵を返した。


「報告ありがとう、ジャッカロープたち。女王に余計な心配を掛けさせてはいけない。勘付かれては困る、地下へ行かないように」


 地下牢で無力化したであろう一行をいたぶってやろうと考えていた少年たちは、フロスティの言葉にむず痒そうに鼻をひくつかせる。それから顔を合わせて目を細め、「はあい」と愛らしく返事をするのだった。



 一行が落ちたのは黒い土の壁と鉄格子に囲まれた、言われた通りの地下牢だった。それ程地上と距離は無いものの、隙間なく閉ざされた天井は脱出に使えそうもない。


「ご、ごめん、みんな……」


「スノーマン様のせいではありませんわ。でもあの方……、ええ、フロスティ様。なんて酷い方ですの! クイーンを愛するが為に、逃がすだなんて口実でスノーマン様をお城から追い出していたなんて!」


「唯一の味方は消えた。でも、……うん。クイーンに会いたいんだよね。

 クイーンはスノーマンに執着してる。その点で、他のモンスター……フロスティでさえ、考えの相違がある。そこで上手く分離できれば、クイーンと少しお話するくらいは、不可能じゃない筈だよ」


 スノーマンが申し訳なさげにクイーンへの謁見を願い出るより先、気負いさせないようにとルカが遮ってこれからの方針を話す。しかし、ここは牢屋だ。閉じ込められ道を閉ざされた一行には、未だ脱出の糸口も見えていない。


「え~ん、死んでから牢屋に入るなんて、順序メチャクチャだよ~」


「どういう冗談だ? この高さから落ちて死んだって?」


「ああ、違うんだセヴェーノ。メロはもうとっくの昔に死んでて……何、何て言えば良いんだ?」


「こんな所で急に怖い作り話始めるの止めろよ! タチ悪いな……」


「本当なんだけどな~☆ ほんと初対面に説明しづらいよね、特殊契約(コレ)

 でもメロ、ほんとにおばけなんだよう。ほら、じゃじゃーん」


 メロがセヴェーノに自身の存在を証明する為、鉄格子をすり抜け外へ出て、また戻って見せる。その姿に無表情のデット以外の全員が、驚愕の表情を見せた。


「出られるじゃん、外!」


「え、え? おばけってマジなの……?」



 

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