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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ホワイトラビリンス
36/88

雪原×黄金の暗殺者

 -同刻、氷の城-


「……荒れているな」


「ええ、我らがスノークイーン。大雪華にて、大変良く吹雪いております」


「いや、……いや。フロスティ、スノーマンはどこにいる」


「はい、本日も庭におられますよ。ほら、あちらに」


 内装も一面真っ白の部屋の中、氷で出来た玉座に腰掛けるのは、ロングジャケットもスラックスもロングブーツも、全て白で統一した王族のような身なりの青年だ。ベビーブルーの艶やかな髪の上には、ミトラと思わしき白い帽子を乗せている。濁りなき氷のように美しい彼に呼ばれた、フォグブルーの髪をオールバックにした燕尾服の壮年男は、氷の眼鏡をくいと上げ、青年を窓際へ(いざな)った。

 庭と呼ばれた場所は緑の生垣に囲まれ、雪のように白い花が咲いている。その端に、白い塊が蹲っていた。その全てが吹雪で霞み、はっきりとは視認出来ない状態だ。


「まだ、あの日の事を?」


「そのようで」


「スノークイーン! ああ、この世で一番美しいスノークイーン!

 兄弟がしばしば遠くへ遊びに行ってしまうのです。ここは士気を高める為にも、久しぶりに茶会を開きませんかっ?」


 厚い窓越しにも吹雪く音が聞こえそうな程の静寂を破り、ペールピンクの髪とウサギの耳に不釣り合いな程大きな鹿の角を生やした少年が、扉を開きクイーンへと提案を投げかける。美しいと称える少年こそ小柄で愛らしく、そんな彼に楽しいお茶会をと誘われれば、万人が喜ぶであろう。しかし美しい青年はウサ耳の少年を一瞥すると、大層つまらなさそうに玉座へと戻った。


「……ああ。スノーマンが同席するならば、良いだろうな」


「そ、そうですか。では、日を改めて……」


 クイーンの条件は、至極単純なものであった。しかし、少年は気まずそうに言葉を濁すと部屋から出て行ってしまう。再びの静寂が戻ると、美しい青年は大層不満そうに表情を歪ませ、一つ舌打ちをするのだった。




「良いか。全員、スノーマンを見失うな。もしはぐれたりしてチームが別れたら、スノーマンのいるグループが能動的に動くんだ。

 攻撃的なモンスターにあったら、散り散りに逃げるくらいなら多少の応戦も止む無しだろう。まあ基本的に不利なフィールドだ、極力逃げるぞ」


「よっ! セッちゃん隊長!」


「気の抜ける掛け声やめろ……」


 幼げで言葉の足らないスノーマンに代わり、セヴェーノが方針を話せば、漸く一行は一面白の迷宮へ足を進める。贅沢なくらい幾重に魔法や衣類を重ねても、吹雪けば貫くように身体が冷えた。


「あれ? ノンノン、また雪食べてる☆」


 一同が身体を屈めて歩く中、慣れっこのスノーマンはと言えば、また積もった雪を口に含んでいる。メロがそれを指摘すれば、セヴェーノは顔を引きつらせた。ユウシャも苦笑こそすれ、彼の普段通りの食事を否定するなかれと精一杯歩み寄りの言葉を述べる。


「こ、ここの雪は、綺麗そうだもんな……」


「ん、うまい」


「私の世界にも食べる氷、あるよ。かきごおり、って言うの……。いろんな色のミツをかけて食べる……、うっ。今は考えたく無いけど……」


「かきごおり、かきごおり」


 魅惑の響きを何度も復唱すると、真っ白の世界が色付くようでスノーマンは心躍らせた。


「温かい場所に行ったら、ルカに作ってもらいましょうね……、あら? 皆様、何か聞こえますわ!」


「モンスターか? っやばいな……!」


 スノーマンに続いて、順調かは分からずとも着実に進んでいた一行に、雪を蹴る複数の足音が近づいてくる。やがて全員がその音を認識し身構えた頃には、とっくにねずみ色の外套を羽織った青年らに囲まれてしまっていた。

 外套から伸びた腕には、鎌と思わしき湾曲した刃が生えており、動物的な短い耳と長い尻尾が、白い視界で黄金色に光っている。その姿を見て、ルカまでもがそのモンスターの正体に予想がついた。


「カマ、イタチ?」


「ルカも知ってるんだな……! 確かにあの姿、間違いない。でもあれも、雪原特有の種なんだろ……、っ来るぞ!」


 ユウシャ、リノ、セヴェーノ、デットヘルムがそれぞれの武器を構え、ルカがスノーマンと共に彼らの背に隠れるように一歩後退し、羽ペンを握る。それが交戦の合図のように、一斉にカマイタチの群れが襲い掛かって来た。


「クイーンの子、カマイタチ。ランクはD+ってとこ☆ 攻撃的で知性もある、全員相手取るのは無茶だよ!」


「っ確かに、話をする気も無さそうだ! セヴェーノ、どこか突破できるか!?」


「数はこっちのが多い……! 精霊様は守りに徹しろ、俺たちが突破口を作る!」


 初めての共戦ではあったが、ユウシャとセヴェーノが上手く指示を出し纏めようと試みている。一方のカマイタチも賢く、このチームが一部を見捨てるという考えを持たない事まで見越してか、弱い者に目を付け逃亡を妨害した。

 好戦的なセヴェーノらを掻い潜り、同時に二匹がリノへ刃を向ける。リノもまともに応戦しては大打撃を免れないであろうと、後退を選んだ。


「卑劣な戦い方……っ、私を人質にされましてっ?」


「まずいっ! 精霊様っあまり離れるな! デット、行けるか!?」


「ああ」


 後退する事で陣形から外れていくリノに気付き、セヴェーノがデットを向かわせる。


「るかるかセンセー! なんかこう、無差別な全体攻撃無い!?」


「ちょっとそれは倫理的に……」


「きゃーっ!」


「リノッ!?」


 この不利な状況下で勝利を収める為の行動がメロの中で算出されたが、倫理的に却下されてしまえばその案は使えない。何せ全年齢なのだ。

 そのうちリノの悲鳴が響き、それに続き何かが崩れるような音が響く。ルカがリノの後退した先に目を凝らした。どうしても、リノとデットの姿が見えない。そして信じがたい事に、一面の白であった雪原が、彼女らのいた場所でぽっかりと口を広げている。


「そんな、そんな……ッ! リノ! デット!」





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