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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ホワイトラビリンス
34/88

雪だるま×仮宿


「ほらほら、おともだち、できたぁ☆」


「でも俺、モーショボーを怒らせちゃったよ。酷い事言っちゃったなあ……」


「確かに反省は必要ね。

 でも彼、決して友好的では無かった。布団は迷宮で道案内をしてくれるアイテムじゃない。ただ死なせて他のモンスターに貪りつくされる前に、金銭だけ奪っておこうって算段じゃないかしら」


「っ、そんな……」


「ごめんね。彼、外の生き物嫌いは先天的に根付いた思想と言った時、自分も含めていたから」


 大男の後を着いて歩く道中、ユウシャとルカは先程のモンスターに対しての考えを巡らせた。ルカのあまりに残酷な説明に概ね納得のいったユウシャであったが、それを受け入れた途端、次の問題が浮上する。


「えっと……それじゃあ、目の前の彼も、もしかして……?」


「ついたぞ」


 ユウシャが疑問を最後まで述べるより先にスノーマンが足を止めると、一行は前方に目を向けるしかない。そこには人が作るには大きすぎる雪洞、いわゆるかまくらが待ち構えていた。穴の中は決して暗闇では無く、温かなオレンジ色の光が揺らいでいる。


「……良かった、杞憂みたい。入っていいの?」


「うん。あたたまれ。せんきゃく、ふたり。まあきにするな」


 雪のように柔らかな笑みを見せる大男の雰囲気は温かく、一行は疑う余地も無く雪洞の穴を潜って中へ入っていった。



「せ、セヴェーノと、デットヘルム!?」


 そして、先客の正体に驚愕した。スノーマンも最後に頭を目一杯屈めて中へ入ると、奥の焚火の傍にリノをそっと寝かせる。その丁度向かい側に腰かけているのがデットヘルムで、隣に横たわっているのがセヴェーノだったのだ。


「どうしてここに?」


「……助けてもらった」


「……たすけた」


 どうも起きている二人からは理由を詳しく聞き出せそうもない。ルカはデットヘルムに歩み寄ると片膝をつき、羽ペンを持った片手を差し出した。


「貴方の記憶を見させてもらってもいい?……大丈夫、ここに着くまでのいきさつを知りたいだけ。

 手を重ねて。……そう」


 ルカの言動に懐疑的な視線を向けたデットヘルムであったが、真っすぐ見据えるその瞳に、とうとう手を重ねるに至る。



 ルカが瞼を閉じると、森の中を歩いている情景が映し出された。隣にはオランジュの髪を揺らした青年がおり、視線はしばしば彼に注がれる。


『…なぜ、俺たちも森に入る』


『あ? そりゃ、女の子たちを助けるためさ! 雪原とシーサイダースの間辺りで待ち伏せようじゃないか。ああ、寒くなってきた。そう、冷え切った身体を抱きしめて温めてやるのさ……、え、ちょっと待ってマジで寒い』


『セヴェ、大雪華だ。雪原が広がっている』


『うっそ!? ギャー!』


 視界が白く染まった。きっと彼らが雪原近くの森に辿り着いたのは、一層激しい大雪華の始まる頃だったのだろう。あれよあれよという間に白の世界に呑まれた二人は、その後スノーマンに出会い一命を取り留めたようだった。



「自分が冷え切った身体になってしまったというわけね」


「死ネタか!? エモ、心がしんどい☆ デッちゃん強く生きろよ……」


「だいじょうぶ、おれんじ、生きてる」


 早とちりして脳内創作活動を始めたメロを安心させる為、息がある事をスノーマンが伝える。公式には逆らえないので、メロは宙に浮かんで生存ルートを考え始めた。記憶喪失ネタなどは、定番ながらかなり良いアイデアである。

 二次創作はさておき、二人が雪原にいる理由を簡易的にユウシャへ話せば、彼も苦笑する他ない。リノもセヴェーノも、暫くすれば目覚めるであろう。目下の目的を考え、ルカは服に積もった雪を摘まんで食べているスノーマンへ声を掛けた。


「スノーマン。改めて、温かい場所へ連れてきてくれて、ありがとう。私はルカ。彼女はメロ、彼はユウシャ。眠っているのはリノ。

 ここは、貴方のおうち?」


「うん。おうち? ……おうち、じゃない、とおもう。クイーン、おこる。……たぶん。

 みんな、ほんとのおうちは、おしろ」


「皆って、()()()()()()の事ね……。貴方も、クイーンの子ども? じゃあ……外からやって来た、私達のこと、嫌い?」


「こ、こ。そう、クイーンの、こ。……でも、ううん。きらいじゃ、ない。ときどき、たすけたおれいって、いろいろ、くれる。やさしいのは、すきだ」


 外から来た人々を以前から助けていたと取れる説明をすれば、そんな助けられた人々から受け取った礼の品々を、ルカとユウシャの前に広げる。

 色鮮やかな布、宝石。時折イラストや紐を編み込んだアクセサリー等、想いや温かみを直に感じるものまであった。


「そう……とても素敵な贈りものばかり。リノが目覚めたら、私達からもお礼をさせてね。

 でも、不思議……、どうしてスノーマンは、外部の人間に生理的嫌悪感を抱かないのかしら」


 ルカの口調が変わった事から、その問いかけはスノーマンに対してでなく、独り言かユウシャやメロに向けてのものであると分かる。ユウシャも顎に手を当て考える素振りを見せると、先程の初接触を思い浮かべた。


「うーん……、そういやモーショボー、スノーマンの事怖がってた……っていうか、怒ってたか? それってやっぱり、外部の人間を受け入れているからかな」


「ノンノン、外の人連れてきて毎夜パーティーとかするパリピな感じ? あと、メロたちの事外まで連れてってくれたりする?」


「の、のんのん、って……おれの、こと? ううん。そとから、つれてこない。はいってきたまいご、つれてきて、あったかくして……かえす。ここ、まいご、いちゃだめだ。

 おまえたちも、ちゃんとそと、かえす」


「外の人に優しくするから、怒っちゃうのかな。

 ……ねえ、スノーマンとモーショボーは喧嘩中? 同じクイーンの子……家族、みたいなものだと、私は考えたんだけれど」


「……う、うー……」


 ルカが他モンスターとの関係性について問いかけた途端、スノーマンは苦し気に唸り、俯いてしまう。心配そうに背を撫でながら、理由が分からないのであれば掛ける言葉も見つからない。

 困り果てていたその時、後方からデットヘルムの声が小さく響いた。


「見れば、良いんじゃないか。記憶を」


 その言葉に、ルカは先程使ったばかりの自分の能力を思い出す。ユウシャと目を合わせ頷くと、羽ペンを持った手で大きなスノーマンをめいっぱい抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫よスノーマン。貴方の事が知りたいの。この冷たい世界で、とても温かい、貴方の事……」


 最初は戸惑っていた様子の大男であったが、ルカの優しい語り掛けに、そっと目を閉じる。ルカはその、大きな身体の内側にあった苦痛を垣間見る事となった。





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