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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
ホワイトラビリンス
32/88

野営×白の侵略

 小ぶりの枝を集め、開けた場所に纏める。器型の大きな葉に魔法で炎の耐性を付与し、これを鍋とした。かき集めた枝に灯した火が十分炎が大きくなったところで、太めの枝と鍋で簡易的なトライポッドを作る。固い豆と水、塩を入れ、火にかけた。

 ルカにとって、この世界に来て初めての野営であった。


「冥界の森で一夜を過ごすことになるとはな……」


「いくら素晴らしいナビゲーターさんがおりましても、暗闇の中を歩き回るのは悪手ですもの」


「私、キャンプなんて初めてだわ。小学生の頃に林間学校は行ったけれど」


「お、メロ知ってるー☆ 男の子が山奥の一つの部屋に押し込められるやつだ!」


「そ、それはあれこれしないと出られない部屋というヤツですの!?」


「うーん語弊しかないわね」


 一人(といっても幽霊だが)加わっただけで、大分賑やかな旅になるものだ。女性陣の会話の内容は分からないまでも、楽しそうな様子を見れば、ユウシャも微笑ましそうにそれを眺める。


「そういえば……私、悩んでいたコトがあって。話しても良い?」


 一時会話が止み、静寂の中焚火のぱちぱちという音が響く。低めの丸太に腰かけ、膝を抱えたルカが揺らめく炎を見つめ、そう小さく呟いた。

 リノはルカと距離を詰めて隣へ腰かけ、メロはリノの頭の上に浮いてルカを見つめる。ユウシャも時折鍋の中身を確認しつつ、静かに耳を傾けた。


「どちらを選ぶべきか、分からないの。

 受けを一番幸せにしてあげられる攻めか、受けにしか幸せにできない攻めか……」


「え?」


「くう~! 分かるよ、るかるかセンセー☆ BLゲーに付いて回る悩みよな!」


「私の嗜む書物では、既に展開が決まっていますけれど……、そう、選ぶことが出来る世界線がございますのね。成程アツイですわ!」


 ルカの考えも及ばない悩み事に、ユウシャは拍子抜けする。しかしその議題について理解あるリノとメロは、彼にとって思わぬ盛り上がりを見せた。


「しかしやはり、主人公が幸せになってこその物語ではありませんの? 数多の苦しい選択を乗り越えた先……寄り添うのは受け様と一番の幸せを歩める人であって欲しいですわ」


「待ってりのりぃ。後者と結ばれると受けチャンは幸せになれないなんて言ってないぞ☆ それに、前者が選ばれた世界線で後者の受けチャンにしか幸せに出来ない攻めチャンは、もう二度と、幸せになれないんだよ……」


「あ、そんな……っ」


「でもねメロ、受けが後者と結ばれた後、前者は受けと思い描いた幸せを別の誰かで埋め合わせ出来ると思う? 私には、そこにわだかまりが残ると思えて仕方ないの。……それこそ、結ばれた二人にはあずかり知らぬ未来になるけどね。わりと全ての攻めが闇を抱えているのよ」


「も、もう駄目だあ! 受けチャンを殺してメロも死ぬ~!」


「後者の攻め様がバッドエンドでやらかしそうな事止めて下さる!?」


 熱い討論を繰り広げる女性陣に、配膳係と化したユウシャが豆粥を静かに配った。すると必然的に彼女らの視界に入り、視線を絡め取られる。


「ありがとう、ユウシャ。……ねえ、ユウシャならどっちを選ぶ?」


「えっ、……え? あー……その、ウケとセメって、人物の事? あはは……どうだろうな。

 でも、俺が恋人を作るなら、俺が一番好きな人に一番俺を求めてほしいし……そしたら、俺がその子を一番幸せにするよ」


「うふふ、あらあら」


「かんわぃ~☆」


 女性に囲まれる中、彼が一番ロマンチックな返答を述べては恥じらうように粥を突き、頬を赤らめた。恐らく(享年を除き)最年少であろう彼のそんな姿が女性らも微笑ましく、笑みを零す。


「青春だね、少年よ。……はふはふ」


しかし、青年の春を呼んだのは自らであるということに、ルカは気付かないようであった。



 ユウシャとルカはマントに身を包み、眠りにつく。リノも眠る必要は無いまでも、横になると身体を休められている気分になり、メロもまた皆を真似て寝転ぶ事を楽しんでいた。

 鬱蒼とした森でも、眩い朝の知らせがひっそりと木々の隙間からやって来る。ルカは小さく身震いし、瞼を開いた。


「ん……やっぱり、明け方は冷える……」


「ルカ、おはようございます。はい、湯で濡らした布ですよ。

 昨日より冷えるのは、やはり北側に近付いているからでしょうか……」


「ううーん、さむ……。おはよう、みんな。ここは冷えるし……さっさと『シーサイダース』に向かおうか。

 メロ、案内頼めるか?」


「まっかせろい☆ ……あれ? ……あれれれ?」


 朝の穏やかな会話を繋げつつ、ルカは温かなおしぼりで顔を拭い、ユウシャは点眼薬で瞳を潤してはリノに水をもらい、新しく湯を沸かし始める。一方メロはパソコンを取り出し道案内を再開しようと試みるが、どうも怪訝そうに画面を睨み、キーボードを叩いていた。


「どうしたんだ?」


「なんか、ネット繋がんないみたい」


「電子レンジ……なわけあるか。天候の問題かしら。雨でも降る?」


「いいえ、気配もございません。どういたしましょう」


「うーん……ま、まあネットは繋がらないけど、地図は見れるから☆ コンパスも使えるー。昨日最後にいた位置がこの辺りだからぁ、おっけ、もうちょい北西行ってみよ!」


 画面上で一つの指針が、時折微弱に震えながら北を指している。それを頼りに、一行は北西へ歩みを進めた。

 段々と冷えてくる外気。一向に変化の無い視界には(もや)がかかり始め、不安は募るが後には引けない。メロだけがその歩みに躊躇いもなく、先頭を切って森を進んでいた。


「……メロ、何だか……変じゃない? これ、霧かな。どんどん視界が白みがかっていくような……」


「それに、とても寒いですわ……」


「えっ寒い? 寒いって事はこれ、雪?」


 メロの躊躇なき前進はただ呑気だったり焦燥していたりした訳では無く、気温を感知出来ない身体のせいでもあったようだ。現に一行の意見を聞けば、立ち止まって景色について考察を始めている。


「いや、まさか。雪原地帯って森を北に抜けた先だろ? こんなところまで吹雪くなんて、……周りの木まで見えにくくなってきたな。……え、いや、いやまさかな。え?

 もしかしてこれが、大雪華(だいせっか)……なのか?」


 北西に広がる雪原地帯は『冥界の森』にまで及ぶことは無い。そう説明しメロの悪い予想を撤回しようと試みたユウシャであったが、白く冷たい空気を吸い込み一つ思い出したように言葉を零す。


「ダイセッカ、って何の事?」


「ルカ。確かにユウシャの言う通り、北西に広がる雪原は大きくとも森にまで及びません。しかし、一巡りの内10日程……凍えるような寒さと雪原が、広がる時期がございます。

 それを人は、大雪華と呼ぶのです」


「大きい雪のはな。蕾がぱっと花開くように広がるから、そう呼ばれるんだよ☆」


「そう、それはきっと綺麗ね。森の出口に近づいている……ってことかな。このまま進もうよ」


「……いや、ルカ。ちょっとマズいかもしれない。雪原地帯に人の居住区は無いんだよ。寒すぎる……それも理由ではあるけれど、この雪原が何と呼ばれているか知れば、どうしてかすぐに分かるだろう」


「……『白の迷宮(ホワイトラビリンス)』。

壁や障害が迷路のようにあるわけではございません。ただ、ただ一面、白いのです。白く、寒く、道しるべも無い。精霊すら寄り付かぬ場所です」


「! なら、早くここを離れなくちゃ……、急いで西に行こう。メロ、コンパスを……」


「悲報☆ コンパスこわれた☆」


「は!?」


 リノとユウシャが代わる代わる恐ろしげに雪原について語るもので、二の足を踏んでいるわけにはいかないとルカが頼みの綱であるメロに声をかける。しかし返ってきたのは、その綱が切れるような、信じがたい凶報だった。

 慌てて全員で画面を覗き込む。そこには、盤上をくるくると舞い踊る指針の姿があったのだった。


「っと、取り敢えず! まだ周りに木が生えてるんだ、これを頼りに靄から遠ざかろう!」


 開花を始めた雪の蕾は留まる事を知らない。どれだけ無謀な事か承知していながら、ユウシャは黒い森へ戻る為の提案を投げる。


「ええ、そうする他無いでしょう。『白の迷宮』に入ってはなりませんから。

 さあ皆様、はぐれないよう手を繋いで」


「メロはとりま、ユーちゃんに憑いとくか☆」


「うっ! な、なんか体感温度下がったような……」



 


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