終わりのカタチ×始まりのカタチ
「……ねえ、メロ。どうしてメロには、ジャック様が生きてるって確信があるの?」
館の外へ向かう道中、不思議に思っていた事をルカが口にする。問われたメロは、少々考えるように唇へ指をあてると、くるくると宙を舞った。それから意を決したように、一行へ向き直る。
「んー。ちょっと長くなるんだけど、いーい?」
「ええ、私も気になります」
「ありがと☆ まず、メロは死んでるのね」
「え!?」
長くなる、と言われた直後の語り出しに、リッチ以外の全員が驚愕の声を上げた。しかし思い返せば、思い当たる節がいくつもある。
「そういえば、戦闘に参加してなかったし……」
「影踏みなんて業を成せますし……」
「まず、宙に浮いてるな……」
「そうそう☆ だからみんなには触れないよ。一部物を除いて基本的に干渉は禁止☆
まあそれで、どうしておばけがモンスターでも無いのに形状維持してここにいるのかってワケなんだけど、これがジャックさまのおかげなの☆
記憶は身体に紐づいてるし、メロ覚えてないんだけど……、『女の子のまま、ここにいたい!』って、ジャックさまにワガママなお願いをしたらしいのね。でも身体はもう使えないから、魂自身を元の形状にして活動できるようにしてくれたの☆」
その理屈は一行にも、リッチにすら分からないまでも、今こうして目の前に幽霊の彼女がいるのだから、信じる他無い。
「でもそんな無茶、ってゆーか冒涜? ほら、アンデッド系モンスターへの。そうそう許されていいものじゃないじゃん? だから、ジャックさまと契約したの☆
メロの魂は、ジャックさまと繋がってる。ジャックさまに生かされてるの。だからジャックさまが死んじゃったら、メロの魂は消える。文字通り、転生も転身もナシ☆」
「そんな……! っそんな……怖く、無いの……?」
進んだ先、おしまいの後に何もない恐怖。それはルカだって考えてみれば恐ろしいものだった。しかし彼女は、そんな未来を語りながら底なしに明るい態度を取って見せる。
「怖いよ☆ でも、楽しいうちからヤな事考えたってしょーがないじゃん! メロは今、楽しいよ。それに、冥界送りぐらいならしてくれるかもしれないし!
えへへ、そぉ言うワケで、メロが今ここにいるのが、ジャックさまが生きてる証明になるの☆
うーん……あ! こっち! こっちだ☆」
彼女が死後の概念を楽観視するならば、これ以上の詮索は無粋だ。どうせ、その先に続きがあろうと終わろうと、今生きている誰もそれを知らないのだから。
一階の玄関まで辿り着くと、メロは頭を指で押さえてうんと考える。それから思い付いたように外へ飛び出し、館に隣接したカボチャ畑へと向かった。カボチャと言っても、たわわに実っているのはルカがよく見る小ぶりな緑のものではない。大きいオレンジ色の、それこそハロウィンに使われるようなものだった。
「見渡す限り、カボチャ、カボチャ……」
「生き物の気配なんて……」
5人は広いカボチャ畑を見渡す。そこにはっきりとジャックの姿は無く、表情が曇っていく。
しかし、リッチは一つのカボチャが僅かに跳ねているのを見つけた。誰に知らせる事も無く、そのカボチャ目掛け走って行く。柔らかい土に膝を付き、そのカボチャを抱き上げた。
「ッ……! っ、ジャック、ジャックかっ?」
「りちち、ジャックさま見つけたのっ?」
「っおい、お前! 剣を貸せっ」
「え、ああ……扱いには気を付けてくれよ」
リッチに抱かれたバランスボールサイズのカボチャは、尚も定期的な振動を見せる。青年は無礼にもユウシャから奪うように剣を取ると、そっと切れ込みを入れた。隙間から指を入れ、中を傷つけないよう割って見せる。
すると現れたのは、オーキッドの髪を薄く生やした赤ん坊であった。
「桃太郎ならぬ、カボチャ太郎ね」
「?」
「……っ、……ジャック、だよな? あああ、ジャック……!」
ルカは予想だにしなかった事態に、ふと自身の世界の昔話を思い出して呟く。当然その真意は他の者には伝わらず、リッチは赤ん坊を大切そうに抱き上げると、白いふっくらとした頬に自らの青白い頬を寄せた。
「ジャック様は、闇の穴へ落ちた後……、闇の世界を切り開き、その空間からも、自身からも近しいこの場所へ抜け出したのかもしれません」
「成程……。そんな芸当、俺たちには到底出来はしないけど、彼なら可能、なのかもな」
しかし、そうする為にどれ程の魔力を消耗したのかは、彼の身体の大きさが明示している。モンスターとしての寿命は確実に縮み、身体だけがか弱く幼いものへと変貌していたのだ。
「俺が……育てる」
赤ん坊は疲れ切っているのか、深い眠りに付いている。それを優しく抱きしめたまま、リッチは決意したように呟いた。
「貴方が? ここで?」
ルカ自身も、育児の経験は無い。しかしそれがどれだけ大変なものか、安易な思い付きや勢いで始められるもので無い事は、多少なりと理解しているつもりだった。だからこそ、頼れる場所はこの世界にだってあるだろう。そういった意味合いを込めつつ、リッチに厳しい表情で問いかける。
「……ああ。こいつのやってきた事が、今の俺に出来ないわけない。玉座を借りる」
「りちち! もう充分わかったでしょ! あの椅子は……っ」
「分かってる! 魔力を……命を削る椅子だ。
別に、死んでこの魂をこいつに食わせてやろうとまでは思ってない。でも、こいつが身体を削ることになったのは、過度で急激な魔力消耗によるものだ。なら、俺の魔力を少しずつ流し込めば……あのチビの大きさには戻るかも知れない。
これくらい、やれるさ。このリッチ様が、やれない筈ないだろ?」
立ち上がったリッチは、清々しい笑みを湛えていた。踵を返し向かうは玉座かと思われたが、その足は動かない。
「コイツに喋る事が出来たのなら、今きっと、こう言うだろう。
『さて、揉め事も収まって一件落着。生きた人間のお客様が三人もいらしたんだ。お茶会を開こう』
……ってな」
「リッチ!」
「まず初手にして最難関“みんなをお茶会に誘う”からだ。
……手伝って、くれるか?」
リッチは恥じらいに耳まで赤らめて、落ち着きなく眼鏡を弄っている。メロも、一行も、返す言葉はただ一つであった。
「もちろん!」




