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パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
パンプキンやかた
28/88

開戦×闇魔法

 実質4対1となった現状でも、リッチは物怖じもせず玉座に腰かけ直した。それから呑気に足を組み、悠長に肘掛けに肘を置いて頬杖を付く。まるでその姿に、戦闘の心構えも無かった。


「俺に楯突こうっていうんだな。ああ、良いさ。

 楽しいダンスショーといこうじゃないか」


 そう宣うと、空いている手の人差し指を立て、指揮棒のように振って見せる。すると、一行の立っている床へ次々と先程の黒い穴が開き始めたのだ。


「うわっ!?」


「みんな、踏んじゃダメ! 避けてっ☆」


 穴は人が縦に落ちられるほどの大きさに広がっては、窄まって閉じる。それを無作為に繰り返されれば、避ける一行は不本意にステップを踏まされた。

 傍観者から見れば、それは確かに踊っているようにも見えるだろう。


「あっはは! 良いぞ良いぞ! 面白い見世物だ!」


「広範囲でっ水をっ張る事も、出来ません……!」


「このままじゃ、足が疲れて……っ」


「……ユーちゃん! 下向いたままメロの言う通り、足動かしてっ☆」


 上空から一行を心配そうに見下ろしていたメロであったが、その全体図が見えるからこそ、出来る事があった。ユウシャもどこに連れていかれるかはメロに委ね、言われたとおりに足を動かす。


「右前! 前進……、左ッ!」


「メロたん、俺の目の前に持ってきてくれたの? どうせならまだ女の子が良かったけど……」


「何……っ呑気に……! お前も、踊るんだっ!」


 下を注視していたユウシャも、前方の声に敵の目前までやって来れた事を知れば、一気に飛び付こうと前を向く。片足で床を蹴り上げた。


「ステージを広げるかい? 良いよ、じゃあ俺は文字通り、高みの見物と行こうか?」


 玉座に飛び掛かる直前、リッチが玉座と共に宙へ浮く。メロが可能な事なのだ、確かにこの男に不可能であるとは考えられない。


「ユウシャッ!」


「無様だな!」


 最後の一手と飛び上がったユウシャは床に叩きつけられる。それを見て一際大きな穴を広げようと指を振るリッチの身体が、

 がくんと傾いた。


「っ? な、なんだ…っ? 魔力はまだ、十分に……!」


「玉座に頼りすぎたら、イタイ目見るよっ! りちち、降りてこーいっ☆」


 いつの間にか下に降りたメロが、片足で何かを引っ張っている。

 影だ。それは、玉座とリッチの影であった。


「メロたん、いつの間にそんな力を……! うぎゃっ」


「へっへーん☆ ダンスの時間は終わりっ! 観念しなさい☆」


「影踏み!? あの力は、魔力から成せる業では……っ」


 メロが踏ん張って力強く足を引けば、とうとう椅子共々リッチが床に転げ落ちた。その姿、その業にリノは驚き目を見開く。今度は自身が無様に転がされたことでリッチは唇を噛み、立ち上がると悔しそうに倒れた玉座を手で起こした。


「……そうだな。ダンスはもう終わりにしよう。君たちはここで生きたまま闇に呑まれるんだ。

 包帯をぐるぐるに巻かれて原型を留めておくのと、いっそ人形に魂を移し替えるの、どっちが良いかな?

 森の王だからな、それぐらい手向けにしてやるよっ!」


 そうして玉座に座り直すと、両手に黒い魔力の塊を作り出し、即座に一行の足元へ向け弾き出す。元より威嚇射撃であったのか、絨毯に当たった弾はチリになって消えていく。しかし、当たった絨毯の方は焦げとはまた違う黒い淀みを纏わせていた。

 そして、当たれば自身らが()()なるのだと自覚させる。先程出会ったミイラ男を思い出し、ユウシャは顔を引きつらせた。


「っど、どうする、どうする……! 取り敢えず皆、絶対当たるな!」


「ユーちゃんの言う通りっ! あれ、触ったら腐るよ☆」


「もう腐ってるんですがそれは」


「ルカーッ!?」


 ルカの時遅し発言をそのままの意味で捉えたユウシャが悲鳴を上げる。そんな掛け合いも戯言と、次の弾が一つ二つと飛んできた。


「はっ! ……ッあ、! 本当に、闇魔法というものは底が知れませんわね……!」


 十分に距離を取って、リノが水の弾を打ち返した。闇の弾と見事当たり、力が相殺されればぼたりと水が絨毯に落ち、染みていく。その水は濁り、粘り気を帯びている様子だった。その気味悪さに誰しもが酷い不快感を覚えるであろう。リノも打ち返す作戦は早々に取り止め、避ける事に徹する。


「良い……良いな、力が溢れる! この玉座は俺にこそ相応しいっ!」


 リッチは未だ玉座に腰かけたまま砲撃を続けている。一行も一度に二発しか打つことの出来ないそれを最初こそ余裕しゃくしゃくに避けていたが、体力の消耗は著しい。


「ちょっと、もう、限界かも……っ」


「ルカ! 私の傍に! 打ち返すしかありませんか……!」


「大丈夫、みんな。もう終わる……あと少し、がんばって☆」


 頭上から述べるメロの言葉に信ぴょう性は無い。しかし、一行はその言葉に賭けて全力で連弾を避けるしかなかった。


「メロたん、嘘をついてやるなよ。ここで力を使い果たしたら、次に耐えられない。俺はもう少し楽しんで欲し……、っあ……?」


 突然、砲撃が止む。そして、リッチの身体は力が抜けたように、玉座へ深く沈んだ。


「魔力の、急激な低下……ッどういう、事だ……? この玉座は、力を増強させるものでは……!」


「ううん。その椅子は、自分の力を増やしてくれるものじゃないよ。力を、いつも以上に放出してくれるものなの。りちちの魔力の出口が拡張しただけだよーっ☆」


「はぁっ、しめた……! 予測出来ずに、魔力切れを、起こしたんだ……!

 はぁっ、は……さあ、観念しろ、リッチィ!」


「こっちは……息切れ、してるけど……っ」


 Bランクにも匹敵するモンスターが魔力を最大放出させていたとなれば、此方も満身創痍だろう。言葉ばかり猛々しく啖呵を切ったユウシャであったが、遂には膝も手も床に付いている。


「勝機は、ある……! まだ、このリッチ様にある! 魔力増強剤……ッ、あの棚にィ……!」


 青年は遂に玉座から降り、這いつくばってでも部屋の隅に用意された、棚や机の並ぶ小部屋へ向かおうとした。棚には本や得体の知れない小瓶がぎっしりと並んでおり、まるで魔法使いの秘密基地のようだ。


「りちち、もう止めよ。本当はナイショだったんだけど……りちちにトクベツなお話、してあげる」


 床を這うリッチの目の前に、メロが降り立つ。辺りには嵐の過ぎ去った後の静けさのように、息遣いだけが響いた。




 

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