マミー×オートマタ
『何、この整理整頓の行き届いた館で迷子などあり得ません。右の通路を行くと宜しい。突き当たりの階段を上って、また突き当たりまで歩けば次の階段。3階が最上階です』
シルキーの説明通り、廊下を歩けば間もなく突き当たり、上階へ上がる階段が姿を現した。木で出来た手すりの装飾は美しく、外観の印象を損なわない。
日々の清掃の賜物でもある館の内装に見惚れながら、一行はまず2階へ辿り着いた。そうしたらまた、突き当たりまで歩けばいい。
とは、簡単に事は運ばないものである。
「お、おお女の子が、二人も……!?」
「落ち着いてくれ、親友。
僕の推測では、桃色の髪の女性は幼馴染枠。明るく元気で、お付き合いも友達感覚から始まるはずだ。一方水色の髪の女性は隣の家に住むセクシーなお姉さん枠。出会って早々色仕掛けで君を翻弄するだろう。それが他ヒロインを妬かせてしまう原因にもなり得る。慎重にな」
「リアルギャルゲーに心酔する男子中学生かな?」
一行の目の前で、包帯を顔から足の先までぐるぐるに巻いて、その上に装飾品を散らした土気色の肌の青年に、まるで王子様のような身なりに金の髪の人形青年が、憶測で女性らについて語り始めた。そのまま一行を置き去りに、二人の世界は広がる。
「参ったな、俺にはメロちゃんもいるのに……!」
「彼女はマドンナだ、初回攻略は困難だろう。まずはあの辺りから攻めた方が良い」
「なんで攻略出来ると思ってるんだ!?」
声を上げたユウシャだけでなく、お手軽な攻略対象扱いされた女性陣も不服げにモンスターを睥睨した。一方、口を開いたことでユウシャの存在を認識した人形青年は、首を綺麗に90度回転させ、腰のサーベルへ手を掛ける。
「君はマミーのライバルかい?」
「は? い、いや……そもそも同じ盤上に立っていないというか……」
「オートマタ、あの男は一体……!?」
「同じ盤上には立たないと述べている。つまり、女性たちを攫う悪党だ。このままではメロ嬢も……、
ここで始末しよう」
「ええーっ」
本当に件のお優しいジャック様の館の住民なのだろうか。あまりに飛躍した考えに呆れかえる間もなく、サーベルを掴んだオートマタがユウシャ目掛け突進してくる。
度重なる抜刀に手際の良さも向上したであろうユウシャは、向けられたサーベルの切っ先を剣で弾いた。その振動にオートマタの体制が崩れる。その僅かな隙を突き、リノが杖の先に水砲を作り、オートマタの胸に突き付けた。
「お止めなさいっ! 私を暴れさせると、シルキー様が鬼の形相でお叱りに来られますわよ」
シルキーを引き合いに出されると、流石の好戦的なオートマタもたじろぐ。和解を試みようと構えた杖を下ろしたその時、無数の白い布がリノに絡みついた。
「きゃっ!?」
「お姉さん……その男に、操られているんだね……! 今俺が、助けてあげる。攻略は君に決めたっ!」
その白い布がマミーの包帯である事に気付くのは、拘束されて間もなくであった。しかし、正体に気付く事で即座に解く事が出来るかと言われれば、否である。
持ち直したオートマタがユウシャに再度攻撃を仕掛ける。マミーが包帯を引いてリノを引き寄せようというところ、張った包帯をルカが掴んだ。
「ああ待って、幼馴染ちゃんは次に攻略するから!」
「目を覚ましなさい、ギャルゲーの主人公! 貴方が幸せにしなければいけない人は、もっと近くにいるでしょう?」
「近くにって、やっぱメロちゃんのこと「親友だろー!!」ぎゃふっ!!」
恐らく身近にいる好きな女の子を思い浮かべ気を緩ませているなら、ルカがすかさず包帯を引っ張る。無様に廊下に転がるマミーに、木靴をカツカツと鳴らして距離を詰めた。
「誰よりも貴方の傍にいて、貴方の為に情報を集めて、貴方が幸せになったらそっと姿を消す……。主人公の幸せを一番に願っていて、一番に愛している人! それが親友!
BLゲーでも友達という枠から中々抜け出しきれず他のちょっと悪い男に王道を持って行かれやすい! 誰より長く、主人公と、いるのに!」
「ぐえっぐえっ」
「よく分からないけど私怨が出てないか!?」
ルカは熱く語りながら包帯をぐいぐいと引っ張る。その度マミーの口からアヒルのような声が漏れるので、ユウシャがツッコミ混じりに制止をかけた。
「失礼。つまり、誰よりも一緒にいて、これからも誰より傍に寄り添うエターナルラブ! マミー×オートマタ!」
「ガフッ!」
マミーとオートマタに精神的大ダメージ!
サーベルは飛んで天井へ刺さり、リノに巻き付いていた大量の包帯は解け這いつくばるマミーに覆い被さった。
「BLゲーの場合は根本設定から親友攻めになる事が多いけれど、こちらも聞く?」
「聞きますわ!」
「オーバーキル止めてあげよう!」




