表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイムシフトスケッチ  作者: ハタ
パンプキンやかた
24/88

ポルターガイスト×シルキー

 ルカが視認したものは、確かに掃除用のただのホウキのはずだった。しかし、何故か椅子に突き刺さっている。硬質で装飾の施された椅子が、ホウキに貫かれているのだ。


「ポルター……貴方、部屋を散らかしましたね……?」


 カツン、カツンと革靴が艶やかな廊下を叩く音が響く。現れた男は、清潔なシルクのシャツを羽織っていた。


「シ、シルキー! 違うよっ、オレはただ、そこの侵入者を追い払おうと……!」


 一方弁明の為に現れたのは、それこそ先程の少年と変わらない年の男の子だ。会話から拾った名前で正体を知れば、ユウシャがそっと二人に囁く。


「ポルター……、あの子、ポルタ―ガイストだ。だから姿を消せたんだっ。透明になって物を動かす、いたずら好きのモンスターだよ。

 けどもう一方は……困ったな。シルキーって呼ばれていたよな?」


「ええ。シルキーと言えば、シルクの衣類を身に纏った家事好きのモンスターでしたわね? 確か、D-ぐらいの……」


「流石リノ様です。でも、シルキーって自分のテリトリーを散らかされると……」


「侵入者を追い払うなどと……。ポルタ―、貴方の嘘で散らかった言い訳をそう易々と信じられはしないのですよ」


「違う、本当だって! ほら、玄関を見てみろよ! あの水浸し、青い髪の女がやったぞ!」


「何? ああッ!!」


「憤ってランクが三段階くらい上昇する……確か」


 シルキーの紅鳶色の瞳が、土の上を歩いてきた一行の靴とその下の水たまりを見て、大きく見開かれた。


「汚れは館に入るなァ!」


「いけないっしゃがんでっ!」


 瞬間、怒りと殺意を剥き出しにした表情で、黒いベストの裏からデザートナイフを3本取り出し、一行に向けて投げつける。リノが咄嗟に水の壁を張った事で事なきを得たが、そのナイフは確実に、それぞれの顔目掛け飛んできていた。


「なんつー命中精度だよ……っあ、リノ様!!」


 こうなってしまったシルキーに手加減や猶予は無い。壁を解除し一番無防備な状態のリノ目掛け、飛び上がりホウキを振りかぶる。縦に振り降ろされたそれを、ユウシャの剣が寸でで受け止めた。


「動き回るな……泥が散るッ!」


「あああ謝ります! 掃除しますからー!」


 トバリの研磨した剣は未だ刃こぼれ一つ無い。そんな強力な武器相手に、ただのホウキなら敵うはずが無かった。しかしホウキの柄には刃が食い込みこそすれど、破壊されるまでには至らず、寧ろ力で負けているのであればユウシャは押される一方だ。

 リノがすかさず助け舟を出そうとし、それを見てポルターガイストも食器を持ち上げようというところ、羽ペンとスケッチブックを顕現させたルカが、一足先に二人に歩み寄る。


「物を散らかすいたずら少年と、綺麗好きの青年。一見不釣り合いの二人だけれど、異なった凸凹は結ばれ合うパズルのピースには必要不可欠」


「い、いきなり何です貴方、もう少し言葉を整頓なさい……!」


「青年の母性と愛情に惹かれた少年はその気持ちをまだ知らず、構ってほしいといたずらを繰り返す。そんな少年の想いを知った青年は、苛立ちを恋しさに変えその溢れるママみで少年というピースを受け入れる! ギリ合法ショタおに、ポルターガイスト×シルキー!」


「ああーっ!!」


 シルキーに精神的大ダメージ!

後方のポルターガイストも同様にダメージを受けた様子で、持ち上げた大きい皿の下敷きになってぴくぴくと手足を動かしていた。


「今回の呪術、読み上げが長かったな。特殊なやつか?」


「……ちょっと、性癖に刺さったもので」




「……そうですか。話も聞かず、ポルターが失礼を働き申し訳ございません」


 戦闘不能状態から立ち直ったシルキーが、早速モップを一つ、厚手の手袋一組を持ちだして一行へ頭を下げる。そして手袋を疲労が伺えるポルターガイストへ押し付けると、速やかに玄関前の泥を外へ向け拭い流した。


「いえ此方こそ、玄関を汚してしまってすみません」


「私もささやかながらお手伝いさせていただきます」


 リノはそう言うや否や、杖の宝石部分をシャワーノズルのようにして、部分的な小雨を降らせる。その水をモップで押し流せば、玄関はあっという間に輝きを取り戻した。


「これは良い。一家に一本欲しいですね。ポルター、どの食器を何枚割ったか後で報告なさい。

 ……それで、その少年の魂というのは?」


「今ルカが呼びに行ってくれています。……あれ?」


 ユウシャとリノが説明する一方、一人離脱しカボチャ畑へ少年を迎えに行っていたルカであったが、戻ってきたのもまた、ルカ一人である。ユウシャが不思議そうに声を零すと、いつもの無表情に少しばかり焦りを滲ませたルカが口を開いた。


「どうしよう……いない。あの子、いなくなっちゃった」


「ええっ!? まずいな、探さなくちゃ……!」


「落ち着いてください、皆様。ここは『冥界の森』。生者である皆様がむやみやたらに動き回っては、この森を出られる保証も、この館に帰ってこられる保証も出来かねます。

 ここはこの『パンプキン館』の当主、ジャック様に全て委ねられると宜しい」


 ルカの焦りに釣られて取り乱すユウシャを、シルキーが整った言葉で宥める。館に当主がいる事、そして協力を得られる相手である事を知れば、一行は強張った顔を僅かに和らげた。


「それは心強いですわ。是非お会いしたいです。ジャック様は、どんなお方なのでしょう?」


「ジャック様は、とーっても優しいんだぞ!『冥界の森』で彷徨う魂を館に招き入れて、楽しいお茶会を開いてくれるんだ!

 満足した者は天に導いてあげる。未練の捨てきれない者には、モンスターとして生きる道を示してあげる。とにかく出会った魂は、最後までしっかり面倒を見てくれるんだ!

 最近は歌わなくなっちゃったけど、カボチャ畑から聞こえてくる歌声は、天にも昇る程美しかったんだぞ……」


 それまで少々不服げに割れた食器を片付けていたポルターが、館の当主について問われれば瞳を輝かせ、大層自慢げに語り始める。彼の言う事が本当であれば、一行にとって良い出会いになる事はこの上ない。


「素敵な人ね。……いえ、モンスター? それで、彼は館に?」


「カボチャ畑におられないのでしたら、最上階の玉座にいらっしゃるでしょう。最近連れてきた妙なモンスターのせいで、そう長く館を空ける事はありません」


「玉座って、王様かよ……」


 ユウシャが館には不釣り合いな座具の存在に苦笑すると、シルキーは真面目な顔で彼に向き直った。


「ええ、そう捉えて頂いて構いません。ジャック様はこの森の王と呼んでも、過言では無いのです」


 何も少年モンスターが幼心に当主を尊敬していた訳では無い。シルキーの反応から、ジャック様がこの森で敬われ慕われる存在なのだと、まざまざと見せつけられたような気分であった。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ