戦利品×情報
「ここが今のところ、僕らの住まいだ」
狸に案内され、村外れの家屋に足を踏み入れる。古びて朽ちかけている事以外、『製錬の村』にあったような家屋と作りは変わりないようだ。
「貴方たち妖が、村人を追い出したの? 狩猟の恨みというなら、致し方ないところはあるけれど」
「違う! 確かに人間なんてどれも憎いけどね、俺は後から来たんだ。
ネコくんたちは、ここで飼われていたんだ。置いてかれた……だから、俺が一緒にいたんだ。でも魂は身体から抜けちゃって、もう使えないから、沢山あった器を一個もらったんだ。
他にも器をもらってく奴はいっぱいいた。俺より前のも、後のも」
傘さし狸の説明は拙いが、逃げた飼い主に置いて行かれて死んだ生き物たちが器を得て妖となったのが、今風呂を嫌がって床に爪を立てている猫又なのだとは理解出来る。
「器は与えられるのでなく、好きにもらえるのね」
「嫌だっ水は嫌だ! フシャーッ!」
「昔っからそうなんだから。まあ昔の事は覚えてないみたいだけど。
ああ、その辺にある器はもらって良いって。でも本物は、使っちゃ駄目。傷付けちゃ駄目だ」
「えっと、ほんもの、って……?」
「サヨだよ。本物の間は何より大切にしなくちゃいけない。あと、お父さんも傷付けちゃ駄目だな。
君たちも妖達と戦うのは誰も咎めやしないけど、サヨと、お父さんには攻撃しない方が良い。魂を焼かれる。……ネコくん、もう観念してよ……」
彼の話には聞けば聞くほど疑問が増える一方だ。しかし狸も泥まみれの猫又を風呂に入れようと必死である。ルカは徐にマントとアイボリーのゆったりとした上着を脱ぐと、シャツの袖を捲って猫又と傘さし狸の間へ割り入った。
「オーケー。私、実家の猫をよくお風呂に入れていたの。ユウシャ、リノ。質問は任せたわ」
「はぁ!? タヌキちゃんならまだしもなんでお前みたいな小娘にンキャッ!」
猫又がルカに首根っこを掴まれると、先程までの抵抗が嘘のように硬直してされるがままに風呂場へと引き摺られていく。傘さし狸はそれを心配そうに見つめていたものの、猫又の弱点を知った事で今度実践してみようとひっそり企んだのだとか。
「えっと、任されたけど……そう。まずはその、お父さんって誰だ?」
「ああ、お父さんは、お父さん。皆のお父さん。作ってくれた人だ」
「……! 一人村に残された方ですわ。その方、ご存命でいらっしゃいますのね?」
「まだ若いし、健康だよ。それにあの“オキツネ様”も付いてる。ちょっとやそっとの病なら跳ね返せるさ」
「コックリ……、永く生かして器を大量製造させる気なのか……? ともかく、コックリはそのサヨってのが大事なんだな」
「そうですわね。狸様、……その、サヨという方は、ずっとキツネ様と一緒にいらっしゃいますの?」
「いやそれが、もうその方がいっそ良いくらいだ。村の中を自由に歩き回ってる。俺たちは怪我でもしないかと冷や冷やさせられているさ」
「なら、そのサヨって奴に会うのが第一目標だ!」
交互に質問を繰り返したことで強敵を相手に抗う糸口が見つかったようで、ユウシャとリノは顔を合わせ力強く頷く。その時、風呂場の扉が勢いよく開き、そこから濡れて生まれたままの姿の猫又が狸目掛け飛び出してきた。
「わーんタヌキちゃん! この桃鬼始末してよー!」
「うわっちょ、俺はまだ泥付いてるから駄目だよ……! そんな訳で皆様申し訳ないが、此方を持ってお引き取り頂きたい!」
差し出されたのは戦利品の金貨と饅頭だ。ルカはユウシャに目配せをして金貨だけを受け取り、外套までしっかり羽織ると家屋を後にする。
「なかなかの暴れキャットね。濡れたわ」
「待ってルカ。猫を洗う時……君も脱いだの?」
「? いいえ」
「良かった……」
そしてユウシャからの謎の問いかけに素直に答えるものの、その意図が掴めず疑問符を浮かべるのであった。




