夕立を起こす小鬼
皆さんは夕立というものをどう思いますか?
傘を持っていない時に突如降ってきてずぶぬれになったり、雨宿りをして中々止まずに帰りが遅くなったことはありませんか?
などと、あまり良い印象を持っていない方も少なくはないと思います。
このお話は、将来かみなり様を目指す2匹の小鬼が人々を喜ばせる為の夕立を降らせるお話です。
それではこのお話をお読みください。
ここは雲よりも空よりもとても高い場所。
雲が多くあるようですが、その雲の上を2匹の小鬼が歩いています。
なにやら2匹の小鬼は急いでどこかに向かっているようです。
2匹が向かっている先には大きな鬼がいて、2匹が近づくと、2匹の小鬼に大きな鬼が声をかけました。
「来たな、ガン太、ゴン太」
右側の赤い小鬼はガン太と呼ばれ、左側の青い鬼はゴン太と呼ばれています。
「かみなりさま、急にオイラ達を呼んでどうしたんだよ?」
ガン太よりかみなりさまと呼ばれている大鬼はガン太の質問に答えました。
「今日はお前達をテストしようと思ってな?」
「テスト?」
「うむ、わしも年じゃし、そろそろ次期かみなりさま候補の育成が必要じゃと感じた。そこでお前達のかみなりさまとしての資質を見極めたいと思っておる」
「どんなテストをするの?」
今度はゴン太が質問をしてかみなりさまが答えました。
「夕立は降れば人間が嫌な思いをすることが多いんじゃ。そこでお前達には人間が喜ぶ夕立を降らしてくれ」
「人間が喜ぶ夕立?」
「やり方はお前達に任す。くれぐれも洪水は起こさんよう注意するのじゃ」
そう言ってかみなりさまは2匹の前から姿を消しました。
2匹はどんな夕立を降らせるのでしょうか?
かみなりさまから人間を喜ばせる夕立を降らせ、それで次期かみなりさまにふさわしいかどうかのテストをすると言い渡されたガン太とゴン太は早速どのような状況で夕立を降らせるかを話していました。
「ところでよゴン太、お前はどこで夕立を降らせるんだ?」
「うーーん、急だったから中々思いつかないな、ガン太君は?」
「オイラもだよ。ちょっとここから人間の世界を見てみようぜ」
そう言いながらガン太は人間の世界の様子が分かる望遠鏡で人間の世界の様子を見ていました。そしたら学校らしき場所を発見してしばらく様子を見ているとガン太は思いついたことをゴン太に話しました。
「よしゴン太、オイラはこの近くに夕立を降らせることにするよ」
「どうして?」
「とりあえずゴン太も見てみろよ」
そう言われゴン太は望遠鏡で学校の様子を見ながら、ガン太より説明を受けることになりました。
「今お前が見ている男子生徒がいるだろう?少しづらして前から3番目に座っている女の子を見てみろよ」
ガン太にそう言われ、ゴン太は望遠鏡を女子生徒の方に向け直し、向け直したことをガン太に告げました。
「向けたよ。あの子がどうしたの?」
「この辺はオイラの担当地域だから時々見ているんだけど、どうもあの男子生徒、その女の子が好きらしいんだ」
「そうなの?それで?」
「あんまり距離が縮まらなくて苦労しているらしい。そこでオイラの出番ってわけさ」
ガン太がそう言うとゴン太は夕立のことを言っているのが分かりましたが、どういうことか聞いてみました。
「それってさっき言っていた夕立の事?これと夕立はどう関係しているの?」
「よくぞ聞いてくれた。テレビの天気予報じゃ晴れってことになっているけど、これからオイラの力で夕立を降らすんだよ」
「ふんふん、それで?」
「女の子は天気予報を信じて傘を持ってきていない。だけどあの男子は癖なのか知んないけど、折りたたみ傘を持っているんだ」
折りたたみ傘を持ち歩いているっていう情報を聞いてゴン太も何かを察して言葉を発しました。
「あ、まさか」
「そうだよ、人間特有の文化、相合傘作戦だよ」
「それでどうするの?」
「とりあえず学校が終わるのを待ってから作戦決行だ」
そう言ってガン太とゴン太は放課後まで待つこととし、放課後の時間になり、いよいよ夕立を降らせることとしました。
「よし、そろそろ時間だな」
「で、その2人はどうしてるの?」
「何でも委員会ってやつでほとんど同じタイミングで帰りそうだし、そこが勝負だ」
多くの学生は下校しており、もう学校に残っている人はそう多くありません。ガン太が言う、2人の学生は下駄箱付近まで歩いていました。
「今だ!」
そう言うと、ガン太は突如踊りだしました。ガン太が踊ると、学校周辺に夕立が降りました。
夕立が降ると女子生徒の方は突然止まって、男子生徒が声をかけました。
「どうしたんだよ?出ないのか?」
「あ、ええとね、まさか雨が降ると思わなかったから傘を持ってきてなかったの」
「折りたたみ傘は?」
「こんな日に限ってカバンに入れていなくて、しょうがないから雨が止むまで待っている。夕立ならすぐ止むかもしれないし」
女子生徒の言葉を聞いて男子生徒はしばらく色々と考えて、少し照れながら言葉を発します。
「なあ、小池……そのさ……良かったら……俺の……折りたたみ傘……使って帰れよ……」
「え、ええ⁉……ダメだよ、そんなことしちゃあ、山下君がずぶ濡れになっちゃうわ」
「俺は平気だ、グワーーー!って走って一気に帰るからよ」
「……、じゃ、じゃあさこうしない?確か少し歩くけど、学校の近くにコンビニあるし、そこでビニール傘買うから、そこまでその折りたたみで一緒に行ってくれない?」
小池さんの思わぬ提案に戸惑った山下君は思わず尋ね返してしまいます。
「ええ⁉っていうか、いいのか小池!そのさ、何ていうか……」
「あ、それ以上言わないで、今自分で言っててものすごく恥ずかしいから、でも思ったより長く降りそうだし、もう行きましょう」
「あ、ああ……」
小池さんに押し切られる形で、山下君は傘を開き、2人で入ってコンビニまで歩いていきました。
歩いている途中で山下君が何かに気付き。小池さんに声をかけます。
「小池、濡れちまうぞ。傘をしっかりかぶんねえと」
「ダメだよ、これ山下君の傘なんだから、私の為に山下君が濡れちゃダメ」
そう言って何とかコンビニまでたどり着きました。
夕立によって高校生の山下君と小池さんを近づかせさせたガン太は満足そうにゴン太に話しかけていました。
「へへん、なんとか上手くいったぜ、まあオイラにできるのはここまでだし、
あとはあの2人次第だな」
「そうだね、上手くいくといいよね」
「それよりもゴン太はどうすんだ?早くしねえと今日が終わるぜ」
「うん、実は僕も気になっていることがあるんだ、これを見て」
ゴン太がそう言うとガン太は望遠鏡で覗いた先には小さい子供がいました。
この時間は保育所で過ごしているようです。
「あの子がどうしたんだ?」
「あの子さ、お父さんもお母さんも働いていて、この時間はいつも保育所にいて、日によっては夜までいるんだって」
「今、人間の社会はそういうことは珍しくないんだろう?なんでわざわざあの子を選んだんだ?」
「今日あの子誕生日だし、何とかしたいと思ってさ」
ゴン太の言葉に疑問が湧いてガン太は尋ねました。
「でもさ、これは雨でどうにもなんねえだろ、何か考えがあんのか?」
「お母さんは小学校の先生をやっていて、その小学校が放課後に運動会の練習をしているから……」
「まさか、お前……」
「うん、その学校に夕立を降らせる」
ゴン太はその子供のお母さんが勤めている小学校に雨を降らせて運動会の練習を中止させようとしていました。
そうしてゴン太は今まさに運動会の練習をしている小学校に雨を降らすために踊りだしました。
ゴン太が踊ると雨雲がでてきて学校のグラウンドに雨が降り出しました。
雨が降り出すと、学校の先生が児童達に1度校舎に戻るよう呼びかけています。その先生はさっき保育所にいた子供のお母さんです。
「皆さん、一旦校舎に入って下さい」
先生に促された児童達は校舎へと入っていきます。
児童達は1度教室まで戻り、それぞれの席に座って、雨が止むのを待つこととします。
その途中で1人の児童が先生に尋ねました。
「先生、今日って1日晴れじゃなかったけ?どうしていきなり雨が降ったの?」
「ごめん、先生も分かんないけど、夕立ならすぐ止むかもしれないし、待ちましょう」
その途中で別の先生が教室にやってきて先生に声をかけます。
「高田先生、ちょっといいですか?」
「はい、みんなちょっと待っててね」
先生は高田先生といって、もう1人の先生は高田先生にある事を伝えます。
「思った以上に校庭が濡れているし、雨が止んでも練習どころではないから、今日の練習は中止に決まりました」
「そうですか、わざわざありがとうございます」
「それから、高田先生はもう今日はあがって大丈夫です」
「いいんですか?片付けとかもあるのに」
高田先生の質問にもう1人の先生が返事をしました。
「この雨じゃ片付けもできないし、明日することになったんですよ。それに高田先生、練習が中止になったし、たまにはお子さんの為に早めに帰ってあげてもいいんじゃないんですか」
「すいません、ありがとうございます」
もう1人の先生にお礼の言葉を言うと、教室で待つ児童に中止になったことを告げました。
「皆さん、今日の練習は中止となりましたので、今日はこれで下校してください」
「はーーーい!」
児童達が全員教室から出るのを確認すると高田先生も職員室へ戻り、帰宅の準備をします。
学校を出る直前に高田先生は息子を預けている保育所に連絡します。
「あ、すいません高田です。これから迎えに行きますので帰り支度をお願いします。はい、はい、お願いします」
そうして高田先生は息子のいる保育所に向かい、たどり着いて息子から声をかけられます。
「ママ、今日は早かったね」
「え、練習が……、ううん、今日はまーくんの誕生日でしょう。だから早く帰らしてもらったの」
高田先生の言葉を聞いて保育士が子供に声をかけています。
「良かったわね、雅史君」
「ありがとうございました先生、また明日もよろしくお願いします」
「はい、それじゃあ雅史君、また明日ね」
「先生、バイバイ」
高田先生と雅史君は手を繋いで帰ると、突然、高田先生の携帯電話が鳴り、電話にでます。
「もしもし、あなた。うん、うん、そうなの。分かったわ」
「どうしたの?」
「まーくん、今日パパも早く終わったから今からプレゼント買って帰って来るんだって」
「やったあああ!」
そう言って高田先生と雅史君は家まで仲良く帰っていきました。
高田先生と雅史君が仲良く帰っていくのを見届けたゴン太は一言もらします。
「良かった」
「ゴン太、お前も中々やるじゃん」
「へへへ」
「さ、これでかみなりさまはオイラ達をどう思うかな」
ガン太がそう言うと突如光が差し込み、その光の中からかみなりさまが現れました。
「ほっほっほっ、見させてもらったぞお前達の夕立を」
「それでどうなんだオイラ達?」
「ふむ、2人共、人の役に立った夕立を降らせて良かったのう、だがこれでは100点満点ではないな」
「どういうこと?」
ゴン太の質問にかみなりさまは答えました。
「高校生の恋や、小さい子供の為に夕立を降らせたのも悪くはない、だがお前達にはもっと世界を広く見て欲しかった。あの望遠鏡を見てみろ」
かみなりさまに促されてガン太、ゴン太は望遠鏡をのぞくとある光景を目にしました。
「あれって、作物が育ってない?」
「そうだ、あの地域は日照りが続きすぎて作物が育ってないんじゃ、作物が育たないと農家の人は生活に困るし、他の人にとっては野菜が高くなり、その人達もまた生活が困るのだ」
作物が農家の人にも、他の人にも大事だという事を強く訴え、更に話を続けます。
「とりあえず、あそこにはわしが何日か続けて雨を降らす。これからお前達はもっと広い世界を見るよう頑張るのじゃ」
「はい!」
「ほっほっほっ、良い返事じゃ。じゃあ頑張れよ」
そう言ってかみなりさまは去っていき、ガン太とゴン太は互いに決意表明をします。
「オイラは絶対にかみなりさまになる。だからもっと人間の世界をもっと良く見るぜ」
「僕だって負けないよ」
「よーーし、それじゃあ競争だ!」
「おーーーー!」
これからもガン太とゴン太は人の為に雨を降らせるでしょう、どっちがかみなりさまになるか楽しみですね。