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初期スキルの使い道

「私のスキルは『経験値圧倒的増加』ですね」


「なんだその如何にも主人公向けのスキル」




 風子の頭に浮かんだスキル。それが経験値圧倒的増加だった。


 


 経験値は、さっきのスライムで見た光のことだ。これを吸収することで得られる伸び代が、人より遥かに多いと言うことは、普通に考えて良いスキルだと思う。初戦で使えるものではないが、成長が早ければ、他のスキルの取得も早い。後半の戦いでは、何よりも脅威となり得るだろう。




「素晴らしいじゃないか、勇者風子! スキルが増えない私たちにとっては得のないスキルだが、成長する赤いコアには無類の相性の良さに違いない」


「えへへ」




 素直に褒めてくれるサルバ王の言葉に照れながら、嬉しそうに俺の服の袖を引っ張り続けた。


「それで、勇者啓介はどんなスキルなんだ?」


「俺は…」




 正直、さっき浮かんだスキルが強いかどうか分からない。風子が分かりやすく良スキルだった手前、少し恥ずかしかった。




「俺は…『2択でスキルを選べる』だった」


「へぇ…そんなスキルもあるんだなぁ」




 サルバ王は普通に感心していた。強いのかな?


「いや、スキルは本当に人の数ほどあるから、全貌は知らない。一生に一度使うかどうかのスキルもあるらしいからな。だが、二人のスキルはどちらも、コアが成長してスキルが増えること前提のものだから、根本的に私たちの常識とは違うものなのかもしれないな。はっきり言うと、使えるスキルなのかどうか判断しかねる」




「ちなみに、今まで見てきた中で一番戦闘向けのスキルは何だったんだ?」


「私が見た中だと『体から電撃を発生させる能力』だったな。かなり離れた国にだが、優秀な者がいる。今も健在だと思うが」


「じゃあ逆に、一番戦闘に向かないスキルはなんだった?」


「『撫でると服の皺が無くなるスキル』だった」


「むしろ日常生活でも役に立たないじゃないか……」


「そうでもないぞ? 彼はクリーニングの腕前だけで豪邸を立てるほどに財力を得たと言われているぞ。彼もたしか、健在なはずだ」


「適材適所ってことだな」




 使い方によってはどんな物も武器になる。だが俺たちにとっては本当の意味で武器にならないといけないのだ。




「風子のスキルのこともあるし、ひとまず経験値を稼ぎたいんだが……」


「それは良い考えですね、先輩。早く悪いモンスターをバッタバッタと薙ぎ払いましょう!」


「風子、お前はスライムみたいなグニョグニョした生き物を倒せるか?」


「実はそういうの触れません。女子なので」


「そういう所は女子なんだよなぁ」


「さっき触った胸も女子だったのでは?」


「あれは事故だ。忘れろ」


「あ、謝らないんですね。なるほど」


「反省してるから掘り返さないでくれないか……?」




 風子と話しても埒が明かない。


「マリア、俺も風子も今は攻撃手段がない。最初はどうすれば経験値を稼げるんだ? たしか、スライムが一番弱い生き物なんだよな。なら、やっぱりどうにかしてスライムを倒さないといけない感じなのか?」


「そこは御安心ください」


 


 マリアが指を鳴らす。


 今度は、俺と風子の目の前に、親指の爪くらいの大きさの青いコアが現れた。落ちる前に慌てて手に取ると、それは淡く光り、うっすらと俺たちを青白く照らす。




「それは先ほど見せた青いコアをモンスターの体から取り出し、保管していたものです。コア自体は壊れれば光の粉になりますが、綺麗に取り除くと、経験値の光を蓄えたままの状態で保持できるようになります。当然、モンスター自体は死滅するのですが」




 マリアが説明してくれた。要は、このコアを壊せば経験値を得られるということなのだろう。


「なんだ。スライムのコアよりかなり小さいじゃないか。さぞ体の小さい生き物がいるんだな」


「いえ、それは猛毒を持つ大型の蛇のコアです。人を丸のみ出来る大きさの害獣ですが、その体に比べてコアが異常に小さいため、駆除に苦戦を強いられる曲者なんですよ」




 そして、自慢げに胸を張った。




「まぁ、私がコアを傷つけることなく駆除したんですけどね! 二匹!」


「すまない。うちの国防騎士長は褒められて伸びるタイプなんだ」




 サルバ王は困った口ぶりの割に、嬉しそうな表情も浮かべながらマリアの頭を撫でていた。




「ロメロットが簡単に言うから伝わりにくいと思うが、コアを傷つけずに確保するのはかなり難易度が高い行為だから、この国に保管してあるコアはそれだけだ。本当はもっと用意しておけば良かったのだが……申し訳ない」


「いやいや! これでも十分だと思う。風子のスキルもあるから、かなり経験値は得られるはずだ。いくつか一気にスキルも得られるだろう。助かるよ」




 せっかく貰った大切な経験値だ。ありがたく頂くとしよう。


 コアは、指で強く握ると細かいヒビがすぐに入って粉々に砕け散った。




 そして、その小さなコアから弾けるように大量の光の粉が舞い上がった。光る粉雪に包まれるような幻想的な景色に飲み込まれたまま呆然としていると、次第に光の粉は大きく渦を巻き、俺と風子の胸のコアに吸い込まれていく。




 そして、また脳内にスキルが浮かび上がった。


 今度は二つだ。




 これは……『重力を操るスキル』と『飴を作り出すスキル』か。




 いや、どっちを取るか明らかだろ。




「俺は――」


「せ、先輩! 凄いですよ!」


 スキルを決定しようとした矢先、風子が物凄い勢いで俺の肩を掴んで揺さぶってきた。


「な、なんだよ一体!」


「私、スキルを沢山ゲットしました!!」




 ここまで目を輝かせる風子も珍しい。そこまで興奮するなんて、いったい幾つ手に入れたと言うんだ。


「あー、風子の元々のスキルが経験値を増やすタイプだったもんな。俺よりも成長が早くて当然か。それで、どんなのが手に入ったんだ?」


「えっとですね……」


 


 大きく息を吸う風子。俺もだが、サルバ王とマリアも風子のスキルが気になって、つい息を殺した。




「『炎を放つスキル』『重力を操るスキル』『急所を見極めるスキル』その他いろいろですね!」


「…………」




 なんか、俺からは何も言う事がない。


 なんというか、パワーバランスが狂いまくったゲームを買った気分だった。


 いや、良いんだよ? これは本当に命が懸かっているし。




 でもほら、俺もなんか仕事が出来るくらいの立場が欲しかったなって。先輩としても男としても立つ瀬がないと言いますか。




 しかも『重力を扱うスキル』に関しては被ってるし。


 ……俺は自分のスキルを『飴を作り出すスキル』にした。




「いやぁ……いやぁ、凄いな……勇者って」


 サルバ王はもはや引いていた。そりゃそうだ。むしろ、そこら辺の毒に侵された生き物なんかよりも遥かに脅威だろ、これ。


「ちょっと使ってみていいですか!?」




 風子はここぞとばかりに、はしゃいでいた。ぴょんぴょん跳ねる姿は可愛らしくもあるが、俺たちから見ればマシンガンを振り回す子供にしか見えない。


「おい風子……分かっていると思うが、火力調整とかの練習もしていないんだ。こんな所で試し打ちは……」




「あ、じゃあ良い所がありますよ?」


 マリアがニッコリと笑い、指を鳴らそうと手を構えた。




「あ、ちょっとそれ酔うんで止めてもらえたら――」


 


 パチンッ。




 内臓が遠心力で振り回されるような衝撃が全身を襲い掛かった。


 耐えかねて膝をつくと、そこは俺と風子が最初にこの世界に来た草原の真ん中に変わっていた。心地よい風が肌を撫でるが、気分は最悪である。




「ここなら、モンスターも出るので、そこで確認してみてください」


「ここモンスター出るんですね。私と先輩、そんな危ない所に居たんですね、最初」


「ここは弱いモンスターしか目撃情報は無いので比較的安全ですけどね。お二人が目覚めるまでに四体しか現れませんでしたし」


「命の恩人です……マリアさん……!」




 瞬間移動の酔いで青ざめながら、風子がマリアの手を握った。


「でも、瞬間移動を突然するのは本当に止めてください」


 薄っすら涙目だった。


 気持ちは分かる。瞬間移動の衝撃は、きっと元の世界では味わうことのない不思議な感覚なのだ。内臓に来るから、耐えようもない。純粋に苦痛だ。これを慣れたサルバ王の努力が伺える……。


 三半規管もやられたのか、まだ地面が揺れているような気がする。




「ははっ、でも今の瞬間移動は本当に雑だったんじゃないか? 私も少し地面が揺れているような感じがするぞ」


 三半規管が狂った状態でも軽く笑っているサルバ王は、やはり凄い。




 だが、一番驚いているのは何故かマリア本人だった。


「あの……私も地面の揺れを感じるのですが……」




 瞬間移動のスキルを持つマリア本人は、その衝撃を受けない。すなわち、三半規管のダメージは無いはず。




「もしかして……本当に地面が揺れてる?」


 


 俺が呟くのと、それが現れるのは同時だった。


 


 小さくグラついた地面が、突然歪に隆起する。


 最初に目に入ったのは、冗談な程大きな蛇の頭だった。


 自分より遥かに太い丸太のような蛇が草原を突き破って空に打ち上がり、土を巻き上げながらその姿を現した。大蛇はすでに俺たち四人を取り囲み、誰から味見しようかと長い舌を怪しく光らせながらうねらせている。


 


 単純明快だが、殺されると実感した。




「おい、マリア……ここでは弱いモンスターしかいないんじゃなかったのか……?」


「そのはずだったんですけど……驚きです」


 マリアは驚きながらも、すぐに腰の大型マグナムを構えた。


「安心してください。この蛇は先ほど説明した毒蛇と同じタイプです。強いですが、私なら対処できます。これを倒してから、本来の目的である雑魚を探しましょう」




「待ってください、マリアさん」


 マグナムの前に割って入ってきたのが、風子だ。


「この蛇、私に倒させてください」


 言うと思った。




「やめとけ風子。これはゲームじゃないんだ」


「任せてください」


 親指を突き立て、ここぞとばかりに決め顔をする風子は、どこまでも自信満々だった。もはや行動まで勇者そのものである。


「直感ですが、分かるんですよ。私、勝てます」




 そう言って、くるりとスカートを翻して蛇に向き合う。




「さぁ、この世界の私の力を見ていてくださいね。先輩!」




 俺が返事する前に、地面が揺れた。




「ひとまず、飛んで行ってくださいな!」




 風子が腕を挙げると、蛇が不思議な力で一気に地面から引っこ抜かれ、土をまき散らしながら物凄い速さで天高く浮かび上がっていった。




「ふむふむ、これが重力を操るスキルですか。あれですね。スキルを使う時は念じれば出来るって感じですね」




 うんうん、と一人で納得している風子を他所に、俺たち三人はもう開いた口が塞がらなかった。


 俺、要らないやん。

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