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光と影のブレーカー

作者: ウォーカー
掲載日:2021/05/24

 これは、友人たちと自室で歓談している、ある男子学生の話。


 よく晴れた夏の休日。

その男子学生は、学校の友人たち男女数人と自室で歓談していた。

勉強の話、友人関係の話、恋の話、などなど。

その話題は尽きない。

そうして友人たちと和やかに過ごしていると、

晴れていたはずの空に、薄黒い雲が広がり始めていた。

雲は黒く濃くなっていき、外は夕方のように暗くなっていく。

友人の一人が立ち上がって、窓の外を見ながら口を開いた。

「外が暗くなってきた。雨になりそうだな。」

間もなくして、空から雨粒が落ち始めた。

ゴロゴロと雷鳴が鳴り始め、やがて外は激しい雷雨になったのだった。


 外は夕方のように暗くなって、叩きつけるような雨が降り始めた。

ベランダは瞬く間に雨で水浸し。

時折、外が明るくなったかと思うと、体を揺さぶる様な雷鳴が轟いた。

外から聞こえる雷雨の音を背景に、その男子学生と友人たちが話をしている。

「外はすごい雨だな。

 そろそろ昼飯でもと思ったけど、

 この雨じゃ外に出るのは無理そうだ。」

「腹は減ってないし、雷雨が収まるまで待てばいいさ。」

女子学生の一人が、恐ろしそうに体を縮こまらせて言う。

「私、雷ってだめなの。」

「どうした。

 まさか子供でもないのに雷が怖いのか?」

「からかわないでやれよ。

 雷って大きな音や光で、怖いと言うよりびっくりするんだよな。」

「ううん、そうじゃないの。」

女子学生は首を横に振って応える。

「稲光って、すごく明るい分、影も濃く映すでしょう。

 まるで世界が光と影に分けられたみたいで、

 何だか恐ろしくて、それで苦手なの。」

「言われてみれば、

 見慣れた風景でも稲光で照らされると、

 ちょっと不気味な感じがするよな。」

そんな話をしながら、

その男子学生と友人たちは部屋で歓談を続けていた。

すると突然。

部屋の明かりが消えたかと思うと、外で大きな雷鳴が轟いた。

「きゃっ!何!?」

「うおっ、びっくりした。」

「停電だ。

 雷が近くに落ちたみたいだ。」

雷鳴の音から察するに、近所で落雷があったようだ。

その影響なのか、部屋の中の明かりが消えてしまった。

明かり以外にも、電化製品は全て電源が切れてしまっている。

窓から差し込む弱々しい光だけが、部屋の中を照らしていた。

どうやら停電してしまったようだ。

外はまだ激しい雷雨が降っていることもあって、

明かりが消えた部屋の中は薄暗い。

その男子学生と友人たちは、頭上の消えた電灯を見上げながら言った。

「こう暗いと、お互いの顔もよく見えないな。」

「私、暗い部屋って怖いわ。」

「お前の部屋、懐中電灯は用意してないのか?」

「それが、電池が切れちゃって今は使えないんだ。

 みんな、ちょっとそのまま待っててよ。

 今、ブレーカーを見てくるから。」

その男子学生は腰を上げると、

ブレーカーを確認するために玄関へ向かった。


 その男子学生の部屋のブレーカーは、部屋の中の玄関にある。

玄関は奥まった場所にあって窓も無く、薄闇に包まれていた。

友人たちがいる部屋の窓から差し込む外光が、廊下の角から辛うじて届く程度。

そんな薄闇の中、その男子学生は玄関でブレーカーを探した。

「・・・あれかな?」

すると、玄関横の頭上の壁に、

何やら蓋付きの箱が設置されているのが見つかった。

背伸びをして蓋を開けると、中にはスイッチが何個も並んでいた。

どうやら、この箱の中が分電盤で、

並んでいるスイッチはブレーカーで間違いないようだ。

その男子学生は薄闇の中で目を凝らす。

すると、並んでいるスイッチはどれも上がったままのように見えた。

通常、スイッチ式のブレーカーであれば、

ブレーカーが落ちている場合はスイッチが下がるようになっている。

それが今全て上がっているということは、ブレーカーは落ちていないことになる。

「どのブレーカーも落ちてないな。

 ・・・待てよ、それはそうか。

 落雷で停電したんだからな。」

その男子学生はポンと手を打った。

ブレーカーとは、電気の流れに異常があった時、

スイッチが下がって停電させる仕組みのこと。

家の中で電化製品を一度にたくさん使いすぎた場合などに、

スイッチが下がってブレーカーが落ちることがある。

しかし、

今この停電の原因は落雷によるもののはず。

原因が家の中に無いのだから、

停電してもブレーカーが上がったままなのは当然。

つまり、ブレーカーを調べても停電は直せない。

「停電が直るまで、気長に待つしか無いな。」

そうしてその男子学生が、

ブレーカーが設置されている分電盤の蓋を閉めようとした、その時。

一瞬、奥の部屋から稲光が差し込んで、

ブレーカーのスイッチが並んでいる分電盤に、濃い光と影が差した。

すると、

全て上がっていたはずのブレーカーの、

大きなブレーカーのスイッチが下がっているのが見えたのだった。

その男子学生は、一瞬見えた光景に首を傾げた。

「・・・あれ?

 あのブレーカー、スイッチが下がって落ちてるな。

 さっき確認した時は、スイッチが上がってたと思うんだけど。

 いや。

 そもそもあの位置に、あんなに大きなスイッチがあったかな。

 薄暗くて見逃してたのだろうか。」

稲光が収まって、玄関が薄闇に戻った。

もう一度見上げてみると、やはりブレーカーは全て上がっていた。

「あれれ?

 今度はブレーカーのスイッチが全部上がってる。

 さっきは大きいスイッチが下がってるように見えたのに。

 その大きいスイッチはどれだったかな。」

薄暗いせいか、スイッチの様子がよく分からなくなる。

全てのスイッチが上がっているのは確認したはずなのに、

しかし、そこに稲光が差し込むと、様子が変わって見えてくる。

影になったスイッチが下がったように見える。

スイッチが無かったはずの場所に、スイッチが現れたように見える。

その時によってブレーカーのスイッチの状態も数も、

全く違って見えてくるのだった。

その男子学生は何度も瞬きをして、それから首を傾げた。

「ブレーカーのスイッチが、上がったり下がったりしてるように見える。

 玄関は薄暗いし、稲光で目が眩んで見間違えたのだろうか。

 まあいい。

 実際に手で触って確認すれば間違えないだろう。」

そうして、

その男子学生がブレーカーのスイッチに手を伸ばした、

丁度その時。

一層明るい稲光が奥の部屋から玄関に差し込んだ。

薄闇だった玄関に、濃い光と影が浮き上がる。

その男子学生が伸ばした手が濃い影を作り、

大きなブレーカーのスイッチを包み込んだ。

影に包まれたそのスイッチに、その男子学生の手が触れる。

手探りでスイッチの状態を確認すると、そのスイッチは下がっていた。

「あれっ?

 感触からして、このスイッチは下がってるみたいだ。

 じゃあ停電はこのブレーカーが原因なんだろうか。

 さっき見た時は、下がってるスイッチなんてなかったけど。

 まあいいか。」

そうしてその男子学生は、影のブレーカーのスイッチを、

何の躊躇もなく上げてしまった。


 その男子学生は、

下がっていた影のブレーカーのスイッチを上げた。

これで部屋の停電は直る、そのはずだった。

しかし、玄関は薄暗いまま。

奥の部屋も電灯が点いた様子はなく、停電が直った様子はなかった。

ただ、何某かの違和感だけがじわじわと滲み出てくる。

「あれ?

 ブレーカーを上げたのに、明かりが点かないな。」

もう一度ブレーカーを見上げてみても、

全てのスイッチが上がっているように見える。

やはり、停電はブレーカーのせいでは無かったのだろうか。

そんなことを考えながら部屋へ戻る。

すると目の前に、見たことも無いような光景が広がっていた。


 目の前にあるのは、友人たちと歓談していた部屋。

明かりもなく、窓から差し込む外光だけが頼り。

その部屋の、光と影が逆転していた。

物は薄暗く、物陰が明るく。

そんな矛盾した光景が広がっていた。

いや、それよりも。

もっと目を引くものがある。

その男子学生は絞り出すように声を出した。

「みんな、どうしたんだ?

 その姿は・・・」

部屋に車座になって座っている友人たち。

その友人たちの姿が一変していた。

先ほどまで楽しそうに歓談していた友人たちが皆、

今は影が差したように大人しい。

それだけではなく、実際に影になったような、

影を掬って塗り固めたような姿になっていた。

体は薄暗く、逆に足元の影はほの明るい。

そんな矛盾した姿が、轟く稲光に照らし出されていた。

友人たちの変わり果てた姿を目の前にして、

その男子学生は、からからになった喉から声を絞り出した。

「みんなの姿はまるで、光と影が逆になったみたいだ。

 誰かのいたずらか?

 でも、どうやってこんなことを。

 もしかして、さっきのブレーカーか?」

原因を考えても、分かりようがない。

心当たりといえば、さっき上げたブレーカーのスイッチだけ。

「とにかく、みんなを元に戻さなければ。」

その男子学生は、影の姿になった友人たちを置いて、

ブレーカーがある玄関へ取って返した。


 薄闇の中に佇むブレーカー。

そのスイッチはどれも上がっていて、

先ほどその男子学生が操作したままだった。

光と影が入れ替わってしまった部屋と友人たち。

その原因はブレーカーのスイッチかもしれない。

そう考えて、背伸びをしてスイッチに手を伸ばす。

しかし、薄闇の中に佇むブレーカーは、

どんなに力を入れてもびくともしない。

「どうなってるんだ?

 さっきはちゃんと操作できたのに。

 いずれにせよ、やっぱりこのブレーカーはおかしい。

 何かがあるんだ。」

そうしてその男子学生は、

ブレーカーのスイッチをああでもないこうでもないと触る。

しかし、どうしてもブレーカーのスイッチは動かない。

どうしたものかと、腰に手を当ててブレーカーを観察した。

その間も時折、稲光が差し込んでいた。

稲光が作る光と影が、ブレーカーに差し込む。

すると、ブレーカーのスイッチの見え方に、

法則があることに気が付いたのだった。

「・・・このスイッチ、

 明るい時と暗い時とで、違って見えるんじゃないのか。」

玄関の薄闇の中では、ブレーカーのスイッチはよく見えない。

しかし、外から稲光が差して、

スイッチが光に照らされた時はスイッチが下がり、

逆に影が差した時はスイッチが上がって見えるのだった。

「そうか。

 ブレーカーのスイッチを上げた時は、稲光でスイッチが影になっていた。

 その影のブレーカーのスイッチを上げたから、

 友達たちが影のような姿になってしまったんだ。

 きっとそうに違いない。

 他に変えたものは何もないんだから。

 そうだとすれば、あいつらを元に戻してやるには、

 ブレーカーのスイッチが稲光で照らされた時に上げればいいんだ。

 光のブレーカーのスイッチを上げれば、

 逆に影のブレーカーのスイッチは下がるんじゃないか。

 ブレーカーは異常があれば勝手に落ちるはずだから。」

何が原因なのか、どんな仕組みなのか。

それを考えるのは後でいい。

確証も無い。

その中でまずは出来ることをする。

なんとしてでも、友人たちを元に戻さなければ。

その男子学生はそう考えて、稲光が差し込むのをじっと待った。

光のブレーカーのスイッチが現れるのを信じて。

しかし、

さっきまであれだけ鳴り響いていた雷鳴は、

今は全く聞こえてこない。

どうやら、雷雨が遠ざかりつつあるようだ。

このまま雷雨が過ぎ去ってしまったらどうなるのだろう。

襲い来る不安を、頭を振って追い払う。

そうしてその男子学生は、稲光が差すのをじりじりと待った。

やがて、空がゴロゴロと鳴る音が聞こえ、

一際眩しい稲光がブレーカーに差し込んだ。

影のブレーカーのスイッチが稲光に照らし出される。

すると、確かに上がっていたはずのブレーカーのスイッチが、

今度は下がって見えたのだった。

「見えた!

 あれが光のブレーカーのスイッチだ。

 稲光が差してる間にスイッチを上げなければ。」

スイッチを上げるために手を差し出そうとして、慌てて手を引っ込める。

「いや、手を出しちゃ駄目だ。

 そうしたら手の影が出来て、影のブレーカーに変わってしまう。

 手よりも影が小さいものは何か無いのか?」

キョロキョロと辺りを見渡す。

すると、薄暗い玄関の脇、

台所の流し台に箸が転がっているのを見つけた。

引っ掴むように箸を手に取る。

雷鳴が収まってきている。

もう一刻の猶予も無かった。

箸を伸ばして、影のブレーカーのスイッチに近付ける。

丁度その時、稲光が再びブレーカーに差し込んだ。

影のブレーカーに稲光が差し、光のブレーカーに変わる。

そのタイミングを見計らって、箸で光のブレーカーを掴んだ。

箸の影は細長く、ブレーカーを変化させることはなかった。

そうして、その男子学生は、

下がっていた光のブレーカーを上げることができたのだった。


 バチン!と何かが弾ける音がして。

奥の部屋から稲光ではない光が差し込んできた。

その光は消えることもなく、ブレーカーのスイッチにも差し込んだ。

光に照らされたブレーカーを見ると、

そこには確かに、全て上がっているスイッチが並んでいたのだった。

静まり返っていた奥の部屋から、

友人たちが歓談する声が再び聞こえてくる。

「でさー、その時の話なんだけど。」

「あっ、明かりが点いた。」

「ところで、あいつ遅くないか?

 ブレーカーを見るのに、いつまでかかってるんだろう。」

「おい、何か困ったことでもあったのか?

 こっちはもう明かりは点いたぞ。」

友人たちが呼ぶ声が聞こえる。

その声は、なんだか久しぶりに耳にしたような気がした。

「・・・いや、何でも無い。

 もう全部済んだよ。

 今、そっちに戻るから。」

そうしてその男子学生は、友人たちが待つ部屋へと戻っていく。

光溢れる世界では、

元の姿に戻った友人たちと、その友人たちが作る影とが、

その男子学生を出迎えたのだった。



終わり。


 稲光で照らされて光と影で分けられた光景を題材に、この話を書きました。


光の世界と、影の世界と、その両方を含む世界と、

それを無意識に切り替えてしまったらどうなるだろう。

世界を切り替えるスイッチは何だろう。

そんなことを考えながら、話を作っていきました。


お読み頂きありがとうございました。


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