71 コンスル公爵派閥3
セリオンはチラリと宰相を見た。
「…それをお望みですか?公子。」
「いいえ。私は王国の盾のグランキエースです。反証も反訴も提出しているわけですし、 法に則った処罰を望みます。この国の礎となる方々が行く末を鑑みて結果を考えてくださるでしょう。」
アクンディカ伯爵があからさまにホッとした様子になった。
宰相は忸怩たる思いを嚙み潰しながら、冷や汗をかいた。
軍閥でありながら、セリオンの交渉にまんまと乗せられている。
「それに、私が誰かの死をここで願いでたと知ったら、姉は悲しむでしょう。とても心優しい人ですから。」
「公子はこうおっしゃるが、コンスル公爵派が権力を恣にし、本来ある手順を捻じ曲げてまで高位の方を引きずり落とすことに加担したのは否めない。それぞれの罪は法に則って処分するが、綱紀粛正のため将軍職の入れ替えとともに全体の引き締めを行う。」
コンスル公爵が厳かに宣言した。
「アクンディカ家は全ての要職からの降格とする。アクンディカ伯爵はよく家内を整理して、身分を弁えぬものをきちんと処分せよ。身分を与えられているものは、上下関係なく、この国の礎である。無辜の民衆を導く賢さと良心を持っていなければいけない。その資質が備わっていない者には、再教育を施す。」
コンスル公爵はセリオンに向かって軽く頭を下げた。
「セリオン公子。寛大で公正なご判断をありがとうございます。あなたはこの国の希望であり、良心だ。我がコンスル公爵家は王家と貴方がたを誠心誠意お守りいたします。」
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勝率は6割というところか。
セリオンは宰相室からでて、王宮の廊下を歩きながら考えた。
ファリティナを直接貶めたアクンディカ一族はおそらく崩壊する。現伯爵の後は、爵位を返上するしかないだろう。
軍務のコンスル公爵派が一門そろってグランキエースに跪いたとなれば、グランキエースに面と向かって歯向かってくるところはないだろう。大公爵が二家、派閥を組んだと言っていい。しかもグランキエースが上位になる。
公爵を継ぐのに、大きな後盾にはなるが、セリオン自身に大きな楔を打たれた。
これでファリティナを連れて国外に出奔するのは難しくなった。
小生意気な童だと見下してくれば、遠慮なく出奔する予定だった。
ファリティナをあんなにも傷つけ、蔑ろにするこの国に未練などない。
寧ろ身分など捨てて、二人で気に入った場所を探しに行けたら、どんなに楽しいだろう。
一度思いつくとワクワクして、なんとしても実現したくなってくる。
だが、これだけの大貴族が後ろ盾につき、これからもこの国のために尽くせと言われれば、手放すことができなくなった。
「本気だったのだが。」
苦笑まじりに呟いた。
ゼノ山脈を切り売りすること。
身分を捨てて、国を出ること。
裏切り者だ、不忠者だと罵られても、愛する者のためだけに自分の時間と才能を使って、人生を謳歌できることは、なんて幸せなことだろうかと憧れた。
少しだけ感傷に浸るセリオンに、声がかかった。
「セリオン!」