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23 悪夢が現実に

ファリティナが学院から呼び出しを受けた。


2日前に登校し、課題を提出したばかりだと言うのに何だろう、と登校すると、普段生徒は立ち入らない、学院長の執務室に連れていかれた。


部屋には王子をはじめ、執行部の部長と他、数名の執行部員、学院長など、数名の大人たちがいる。


席を勧められもせず、執行部の部長が蛇蝎を見るような目でファリティナに迫った。


「2日前の放課後、アマンダ=リージョンを階段から突き落としたな。」


そう宣言され、ファリティナは思わず目を瞬いた。


「なぜこんなことをしたんだ、ファリティナ。あれほど近づくなと警告したのに。」


王子が顔色悪く、ファリティナに言った。


ああ。


ファリティナの喉がコクリとなった。


始まったんだわ。とうとう。あの悪夢が。やはり、予知夢だったのね。


ファリティナはそのまま、罪人牢に入れられた。




「どういうことですか。」

セリオンがファリティナが捕まったことを知ったのは、昼食休み、執行部員に連れられ執行部室に入ってからだった。


「あの日、君と別れたファリティナはアマンダの後をつけ、西棟三階の外階段から突き落とした。アマンダは次のサマーパーティのための下見に、一人で西棟まで行っていたから、誰も助けられなかった。幸い彼女は足首の打撲だけで済んだが、手すりもない外階段に突き落とすなんて、悪意が過ぎる。」


「それはリージョン嬢の告発を元にしているんですね。目撃者は?物的な証拠は?」


「今のところ目撃者はいない。時間的にも人気がない時間だったから。物的な証拠も残されていない。」


「立会って反証は行われたんですか?落ちた場所と怪我した場所の照合は。」


「怪我をしたばかりなんだぞ!セリオン!まだ心理的な動揺も大きいのに、そんなことできるか!」


激昂した執行部員がセリオンに怒鳴った。


「なんの確証もなく、証言だけで捕まえたんですか?私の姉を。」


「落とされた本人の証言だ。信じるしかないだろう。」


「取り調べが行われていると。それで、姉はどこです?学院内にいるんですよね。」


いや、と執行部員が言った。


「王都の警らに連れていかれた。私たちが、一度尋問したが、何も言わなかった。だから刑務の取り調べを受けてもらう。」


セリオンの周りが一段と凍りついた。


「刑務ですって?罪状も確定してないのに、なぜ?」


「罪状ならある。殺人未遂だ。他にも余罪があるから専門の取り調べが必要なんだ。」


「余罪とは?」


「まだ、全て分かっているわけではないが、ファリティナは長期にわたりアマンダに嫌がらせをしていた。無視から始まり、執行部に選ばれたこと、私と接触することについて執拗に、しかも残酷な言葉で詰られていたらしい。他にも身体的な虐待はなかったが、私物を破壊されたりもしていた。これについては私たちも一緒に探したことがある。」


王子が殺伐とした雰囲気を治めるように説明をした。声を荒らげるわけではないセリオンだが、凍てつくような怒りに執行部員たちは顔色を失くした。


「その余罪には目撃証言と姉がやったという確実な証拠があるのですね。」

いや、とまた執行部員が否定した。


「ふざけるな!!」


セリオンの怒鳴り声がビリビリと部屋を震わせた。


「全てが単なる噂に過ぎない。そんな不確かなものに惑わされて、グランキエースの長子を拘束したのか!何が目的だ!」


執行部員の目がお互いを見合う。


「落ち着いてくれ、セリオン。たしかに証言だけだ。だけど、本人によるものだし、私たちは何度もアマンダが泣いているのを見たんだ。」

「ええ、私も見たことがありますよ、殿下の誕生会でね。」


セリオンに話しかけたのは、コンスル公爵家の傍流の子息だった。セリオンの手腕を高く買い、本分である施策研究のチームにも携わりたがっていた。


「よく泣く女だと思いましたね。」


蔑むようなその言い方に、執行部員たちはギョッとした。


「セリオン、そんな言い方。」

「何が違うんです?あの時、姉が同じように泣けば、あの場がどんな風に変わったんでしょうね。公爵令嬢に対して友だちになりたいですって?不遜にもほどがある。学院にいなければ、使用人としてぐらいしか、同席できない身分だ。それを単なる社会実験の場である執行部に入ったぐらいで、本来の身分を忘れ、ファリティナを諌める気でいるとは笑止。あなた方の耳にどのように入ったか知りませんが、あの場でファリティナが許さず、公爵を通じて陛下に訴えれば不敬罪で落とすこともできたのですよ。」


「大げさだ。セリオン。あの場は私の許しで無礼講で。」


セリオンは王子に堂々と向かい合った。

「ええ、だからこそ姉は騒がなかった。執拗に残酷な言葉ですって?それは何度です。あなた方も知っての通り、姉は昨年からほとんど登校していない。同じ履修で取っているはずなのに、教室で見かけたことがありますか?学院外で彼女を追いかけ回していたとでも?」

は、とバカにしたようにセリオンが息を吐く。


「弟の世話に明け暮れているファリティナに、夜な夜な遊びまわる余裕などあるはずない。殿下、あなたと夜会に出たのは、去年何回ありますか?」


王子が、ハッとした顔をした。

公式な式典以外、ファリティナが王宮に現れたことはない。況してや社交のための夜会には、昨年は一度も誘われなかった。


「本人の証言のみで罪に問えると言うのなら、最近出回っている悪評だけで、姉は姦淫罪に問えますね。婚約者がいながらお盛んのようだ。」


セリオンの口の端が不敵に上がった。


「そして、姉以外にも言える。婚約者がいながら不貞を働いたとなれば、成婚の契約の破棄の理由になり得る。噂だけでね。」


セリオンが一同を見回した。

アマンダ=リージョンが執行部に属する令息達と親しく、身分の低さを理由に不用意であるため、令息達の好意で優遇されていることは、学院内でも噂になっている。


その中でも第二王子は、常に席の隣を定位置にするほど執心で、それを忖度した側近候補たちがアマンダ=リージョンを持ち上げているのだ、と半ば事実として受け止められている。


セリオンは、立ち上がった。


「罪に問えるほどの悪行があるのなら、訴状を確認させていただく。このまま失礼します。刑務院で確認させていただきます。」


セリオンが、軽く服を直し、部屋を出て行った。

その優雅だが、恐ろしく溢れ出る覇気に誰も動けなかった。





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― 新着の感想 ―
>セリオンが一同を見回した。 > >アマンダ=リージョンが執行部に属する令息達と親しく、 この前後の流れがよくわからなかったけど、「王子を見た」ではなく「一同を見回した」であるからには、令息たちにも…
[一言] つくづく、家族に味方がいることはとても暖かいことだなと感じます。
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