04
「たしか学園入学は十三歳のときで、それ以外にゲームに出てきた小さな頃のリリアンヌの話は…………ん?」
ふと私は今日一日を思い出す。
ずっとゲームを遊んできたはずなのに今の光景に足りないもの、ゲームの進行を止めて飽きることなく私が眺め続けていた人物。
――このゲーム一番の推しキャラを、まだ私は見ていない!
「な、何で大事なクー様のことを忘れてたのよ私! バカ、私のバカバカバカバカ!」
クイナはリリアンヌ専属の従者だ。
いついかなる時でも彼はリリアンヌの隣にいた。
今回のような怪我をした時だって目覚めたら誰よりもすぐ傍に居て当たり前の筈なのに、そんな彼が居なかったということは……
「クー様がここに居ない……?」
まだクイナとリリアンヌは出逢っていない事実に、私は恐怖を感じた。
リリアンヌの両親が彼女の誕生日にプレゼントとして与えた奴隷、それがクイナだ。
最初はグラシア家の奴隷として下働きをさせる予定だった。しかし……
「クイナを私だけのものにしたいのです。お父様やお母様にも……誰にも渡したくありませんわ」
とても気に入ったのかクイナを渡されたリリアンヌの我儘な一言で、彼はリリアンヌだけの従者となった。
これはゲーム中でリリアンヌとクイナの事について語られている数少ないシーンの一つである。
クイナがいない、つまりまだクイナを与えられる誕生日をリリアンヌは迎えていない。
「そんな。クー様はまだ奴隷のままってこと?」
どうしよう。きっと今も彼は辛い日々を送っている。
現時点で奴隷である彼に自由はない。
もしかしたら食事も満足に与えられず、怪我もしてるかもしれない。
このままいつ来るか分からない誕生日まで推しキャラに逢えるのを待つなんて、私には出来なかった。
急いで私は部屋の中を漁り金目になりそうなものを探す。
しかし、私は頭脳は大人でも見た目はまだ子供の八歳。
豪華な部屋にはいい値段で売れるかもしれないお高そうなドレスもアクセサリーも無くて、部屋に鎮座する調度品を売りに行くとしてもこの小さな体では持ち運びも無理だろう。
「私の前世の貯金があれば、クー様を身請けできたのに!!」
結婚願望もないオタク女子だった私は、仕事に追われて旅行やショッピングに行く事も出来ず、ただ推しキャラに貢ぐしかお金を使う事がなかったため貯金は溜まっていく一方だった。
あのお金さえあれば、問題なくクー様を助けられるのに。
お金を自由に使えない子供になっている現実が歯がゆくて、備え付けの枕をポフポフと殴る。
たくさん柔らかい枕を殴ってスッキリした私は大きな溜息を付いた。
殴っている間にある秘策を思いついたからだ。
今のリリアンヌは子供。子供と言えばそう、必殺のおねだりだ。
幸い我が家は侯爵家、お金はいくらでもある。
今この場にないだけでリリアンヌも使えるお金はあるはず。
ただし、小さな子供の駄々をこねるおねだりのようには簡単に行かないだろうと、このゲームをクリアしたことのある私は考えるのたった。