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 あれから数日が経った。


 私は今――初めて来た庭の草むらにしゃがみこみ、気配を隠している。



(私は無、私は空気、私は透明)



 心の中で何度も自分に繰り返し言い聞かせて、物音が聞こえるか耳を澄ます。

 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえるも反応は見せたりしない。


 時計がなくてどれくらい経ったかまでは分からないけど、少なくとも日は明るい。このまま時間が過ぎるのを待とうとした時だった。



「ねえさま、みーっけ!」

「……あーあ。見つかっちゃったか」



 自分の頭上から聞こえた声に溜息をつきつつ笑顔で顔を出した。

 目の前には私を呼んだルーカスと彼を肩車しているクイナの姿があった。



 そう、私達は今かくれんぼをしていたのだ。



「すごいね、クイナ!ねえさまがどこに隠れてもちゃんと見つけるんだもん!」

「そうね。ここは意外と隠れる穴場だから見つからないと思ってたのに」

「どんな場所に居ても私はちゃんとお嬢様を見つけることが出来ますから」



 クイナの言葉に私は嬉しくなればいいのか困ればいいのか分からずに思わず苦笑いをする。


 私達は今、グラシア家が所有している別荘に遊びに来ていた。

 馬車に半日程乗ってたどり着く、いわゆる避暑地だ。


 母やルーカスと語り合ったあの日から、様々な出来事が私を襲った。

 見てわかる通り私とルーカスの他にクイナも共に遊ぶ事が多くなってよく三人で共に過ごしている。

 

 怪我をさせる程クイナを嫌がっていたルーカスだけど同年代で同性の子供は新鮮だったのか今では私から見ると仲良くしてるように見える。



 そして、今回の旅行は私達の他にも来ている。



「リリィ、ルーカス……!」



 三人で手を繋ぎ別荘に戻ろうと歩いてると私達を呼ぶ声が聞こえる。

 その方向を見ると誰かが大きく手を振り私達を呼んでいた。



「かあさま!」



 呼ばれたルーカスが私達から手を離すと一目散に駆けていく。

 走って行った先には私達を呼んだお母様、そしてお母様の傍に寄り添うように立つお父様が居た。


 一番私達の中で変化があったのは両親だ。

 子供達に反抗されたあの後、落ち込むお母様の元にお父様が慰めに行った。


 そして、二人が話し合った結果お互いの気持ちがすれ違っていた事が発覚。

 元々父は言葉にすることが苦手で、政略結婚だと思われてた結婚も実は父が学生時代から母に片思いをしていて、母の実家にお願いして婚姻した。

 

 そして、私が生まれた時も嬉しさが込み上げて上手く言葉に出来ず、娘を生んでくれてありがとうの一言が言えなくてあの言葉だけが出てきたのだった。

 

 母も政略結婚だから愛情もなく義務として妻に迎えられたと思っていたのに、父から愛されていたと聞いて今まで抱えていた苦しかったことや悲しかったことをぶつけるように伝えたらしい。

 その後、二人で私の部屋に来た両親はこれまで冷たく育ててきたことを謝り、これからは姉弟それぞれを力いっぱい愛すると二人に抱きしめられながら言われた。


 そして、今……娘の私が見ても分かるくらいに二人の愛情は再燃したようだ。



 



 ルーカスが走り去ってクイナと二人きりになり、私は先程までルーカスと繋いでいた手を今度はクイナと繋げた。

 こんな時じゃないと最近はクイナを独り占め出来なくて、今のうちとばかりにクイナを堪能する。


 私からいきなり手を握られたクイナは驚く反応を見せることなく微笑んでくれた。



「どうかしましたか?」

「……べつにー」



 クイナに素直に淋しいと言えなくて素っ気なく返してしまう。

 繋がっていた手がリードのようになっていたためか、突然クイナが足を止まると前に進もうとしていた私も動けなくなってしまった。


 何故か、私の手を握るクイナの力が強くなったように感じる。



「リーンお嬢様、今は誰もいません。ちゃんと言ってくれなければ私は分かりません。だから……何故お嬢様は素っ気ないのか……教えてくれませんか?」



 いつもは立ってる犬耳が垂れて、子犬のような瞳で私を見ている、だと!?

 何この可愛くて尊い子は……っ! 推しキャラのクイナですね、知ってました!

 しっぽも淋しそうに揺れてるし、こんなの見てるだけなんて我慢できませんよね、私はできません。


 目の前の愛しい存在の可愛い姿を見て我慢できずクイナに勢いよく抱きつく。

 そして顔をクイナの胸に押し付けて甘えるように頬擦りまで堪能してしまった。



「お嬢様?」

「だって、最近クーがルーカスと一緒に遊んでるから……独り占めできないんだもん。私のクーなのに」



 はい、小さな弟にヤキモチ妬いてました。

 両親も弟もクイナを奴隷としてではなくきちんと一人の従者として扱ってくれるようになったけど、その分私以外の人とも過ごすのは当たり前になっていた。

 喜ばしいことなのに、独り占めできない淋しさからいじけてしまったのだ。


 私は淋しいんだぞ!と頬を膨らませながらクイナの胸に頭をグリグリと押し付けると私の行動を見たクイナが耐えきれないように笑いだした。



「本当に、リーンお嬢様は……っ……はは」

「な、なによ。文句でもある?」

「いいえ」



 膨らませていた頬に繋がっていなかったクイナの少し冷たい手が触れる。

 クイナのまつ毛って長いなーと思ってしまうほど顔が近付いてきたことに気付いた時はクイナの口は耳元に近付いて、そして囁いた。



「いじけなくても大丈夫ですよ。オレの全てはリーンのものだから。これからもずっと……ね?」



 あ、あ、あまーーい!

 推しからこんなに胸きゅんセリフを耳元で囁かれてドキドキしないなんて無理!

 自分の顔が熱いと感じる程だ、鏡を見なくても顔がゆでダコのように顔が真っ赤になってると理解出来る。



 私の反応を見て満足したのかクイナが私を引っ張っていくように歩き始める。


 ああ、神様。どうか別荘までの道が少しでも遠くなりますように……と、繋ぐ手を握り返しながら私は願ったのだった。




≪7歳編 完≫




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