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(前言撤回。もうこんなひどい言葉聞いてられない!)


「お母様、そろそろお口を閉ざしていただけませんか?」

「なんですって……?」

「……ねえさま?」


 本当のリリアンヌだったら決して母親に対して反抗などしなかっただろう。


 でも、今の私はゲームのように母親に言われるがままだったリリアンヌじゃない。

 大好きな推しキャラの、クイナに対しての悪口を聞いてしまったら黙ってなんていられなくて、その場で反論してしまうくらいには強気になっちゃうんです!



「お母様にクイナの何がわかるのですか? 奴隷だったら命の価値さえも無意味になってしまうのですか? 違いますよね。彼らだって私たちと同じように一生懸命生きてます。暴力を振るわれれば怪我をして血を流すし、酷いことを誰かに言われたら心が傷つくんです。私はクイナを奴隷としてではなく一人の従者として、私達と同じ人間として私の傍で働いて欲しいと心から願ってます。もう、奴隷だった過去から解放してあげたいのです!」



【コイガク】を全ルートクリアした私でさえ知らなかったクイナの一面を共に過ごす時間が増える度に知っていき、気付けばクイナは私にとってゲーム中に存在するキャラクターとしてではなく、一人の大切で愛しい存在になっていた。


 私にとって、この世界で誰よりも大切で、そして命をかけてでも助けたいと願う人。

 例え、定められたゲームの通りの未来が私の身に訪れたとしても、絶対に彼だけは守ってみせる……!




「たとえ誰であろうと私の家族を、大切な彼を傷つけることはこの私が許しません!」




 庭園に静かな沈黙が広がっていく。


 自分の中で溢れ出て爆発した気持ちをぶつけるように言葉にして吐き出し尽くすと、思わず大きな深呼吸をする。

 伝えたいことを言えてスッキリしたはずなのに、私の心は落ち着くことが出来ないでいた。



(火に油を注いじゃったかなぁ……)



 何故なら、目の前の母親の顔がまるで般若のように怒りに満ちた表情をしていたから。

 

 生まれてから今まで一切口答えをしたことがなかった娘が自分に対して反抗をしたためだろう。

 腕の中にいるルーカスも今まで見たことの無い母親の形相にひどく怯えていた。




「貴方、誰にそんな口を聞いてるの。母親に反抗するなんてどうかしてるわ!……きっと育て方を間違えたのね。今度からは甘やかすことなど許さずきつく躾けて、再教育をしていかなくては」

「お母様」

「黙りなさい、もう何も聞きたくないわ。ルーカスにその口の悪さが移ったらどうしてくれるの! ――ルーカス、もうお姉様とは一緒にいてはいけません。あんな悪い子になってはいけませんからね。さあ、部屋に戻りましょう」


 どうやら私は相当母の怒りを買ったようだ。母娘の会話とは思えないほどに酷い言われようである。

 既に私の方を視界に入れることさえも嫌なのかこちらを一切見ることなく、腕の中にいる愛息子に優しく言い聞かせてこの場から離れようとしている。


 血の繋がる実の母親から冷たい態度に、私の心臓は傷を負ったようにズキズキと痛みを訴え始める。



(元々期待なんてしてなかった。ゲームの中でもリリアンヌに対して親からの愛情なんてなくて、最後に至っては娘であることさえも拒絶されたんだから。そんなに簡単にゲームの流れが変わるわけない)



 これが当たり前の光景なんだと何度も自分へ、リリアンヌへと言い聞かせる。



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