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 現在、私は一室の部屋の前に居る。

 着替えを手伝っていたセレナにはクイナの部屋に行ってもらった。

 クイナのボロボロになった制服の代わりを持っていくついでにクイナの様子を見てきてほしいとお願いしたのだ。

 

 自分で手当をするとは言ってももしかしたら自分ではできない場所があるかもしれない。

 子供の私には言えなくても、私に仕える同じ立場で年上のセレナには何か言えるかもと思ったからだ。



(早く大人になりたい……。子供のクイナを見れるのは嬉しいけど大人になりたい。大人だったらもっとクイナを甘やかしたりも出来るし、お金も自由に使えるから制服以外の衣装だってプレゼントできる。つまりお着替えが出来る! 今度一緒に街に出かけて色々と着せてみようかな……)


「お嬢様、どうなさいましたか」



 いけないいけない、クイナの事を考えていたら理性が飛びそうになってしまった。気を引き締めないと。


 私の隣には、執事長のロベルトが傍に居てくれていた。


 少し白髪交じりのオールバックの黒髪にインテリ眼鏡。まさに見ただけで執事だと分かるような姿の人だ。

 普段私の傍にはセレナ、そして新しくクイナが付いてるのでこうして共にいることはあまりない。


 今回彼は責任者としてここにいてもらっている。



「なんでもないわ。この部屋にいるのよね」

「はい、ご命令通り逃走できないように捕縛し、こちらの部屋に閉じ込めておきました」



 ここに私が居る理由。それはクイナを虐めた加害者に尋問すること。

 彼らを一方的に処罰することも簡単だ、でも私としては彼らの言い分も一応聞いておかなければいけないと思った。



(あくまで一応、だけどね。クイナを奴隷だからって虐めるなんて……許さないんだから)



 既に私の怒りゲージは最高潮に達している。

 きっと乙女ゲームではなく他のジャンルのゲームに転生していたらこの怒りで必殺技が出せたに違いない。



 ノックをすることなく扉を開ける。

 先程庭園であった二人はロベルトの言う通り、縄で縛られていて床に座っていた。

 

 二人とも顔色は悪く、部屋から入ってきた私を見ると深々と地面に額を擦りつけて謝罪の言葉を口にする。



「お、お嬢様! 本当にもうしわけございません!」

「ど、どうか……どうかお許しを!」


(こんなに謝るくらいなら最初からしなければよかったのに)



 まるで今度は自分が虐める側に回ってるようで気分が悪くなってきた。

 このまま謝罪を聞き続けるのも辛くなってきたので、一つ溜息をつき彼らに問う。



「謝罪は結構です。今貴方たちに聞きたいのは、何故クイナに対して暴力をふるったか、です」

「それ、は……」

「…………奴隷だから何してもいいと思ったのですか? 彼は私が自ら選んで購入し、傍に置いた存在です。それだけ私が大切にしている存在です。今はまだ奴隷とみられていますが、いつかはきちんとした従者としてどこにでも出せるように教育をしようと私は先輩と言う立場である貴方達に指導を頼んだのです。……このように返されるとは思いませんでしたわ」

「リリアンヌ様、大変申し訳ございません。私の監督不十分でございました。私にも責任がございます……どうか御処分を」

「ろ、ロベルト様!」

「違います! 俺たちはただ言われただけで……っ」


 自分たちの長である執事長の謝罪を見て二人は狼狽える。

 自分たちがどれだけの過ちを行ったか認識したのだろう。

 

 ふと、私は一人の加害者の言葉が気になった。



「ねぇ、貴方。今『言われた』って言った?」



 私のその言葉を聞いて、言葉を放った張本人は真っ青な顔が更に血の気のない白色へと変わった。


 いい大人の男性なのに、その瞳からは大粒の涙を流して再び謝罪を繰り返し始めた。

 

 ――第三者の存在。

 実は彼ら以外にもクイナを虐めていた存在が居るのかもしれない。もしそうだとしたら必ず見つけ出さなければ。



「貴方たち以外にも、クイナを虐めた人間がいるならこの場で言いなさい」

「…………」

「どうしたの、言えないの?」



 なかなか話してくれない彼らに段々と苛立ちが膨れ上がっていく。

 

 いっそゲーム内では悪役令嬢なんだから暴力で口を割らそうかしら、と悪い考えに思考が向かい始める。

 いけないいけない、私は絶対に悪役令嬢になんてならないんだから。

 

 頭の中で必死に今までの情報を思い出して推測を立ててみる。

 従者間の仲間意識が強いわけではなさそう。

 あと思いつくとしたら……


「誰かに命令されたのかしら」


 脅されてやっていたか、あるいは命令されてやってたか。

 


 人は観察するほど面白い。


 どうやら加害者の一人は口が素直じゃなくても目が素直だったようだ。

 私の呟きに反応して面白いほどに目線が泳いでいる。



「じゃあ、私も命令しましょうか。すべて吐きなさい。今なら貴方たちの反省を受け入れて罰は謹慎で許します」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。でも、ここでも話してくれなかったらどうしようかしら……。私、悲しくて何をしでかすか、わからないわね」



 わざとらしくウソ泣きする演技をしてみながら、脅すかのように言ってみる。

 ちなみにここで言わなかったらクビです。決して処刑とか鞭打ちとかはしないから安心して。

 

 ようやく堪忍したのか一人の従者が口を開き、命令されてクイナに暴力をふるったと供述した。



「誰に命令されたの?」



 勇気を振り絞ったように震えながら彼は一人の名前をあげる。

 その名前を聞いて今度は私が言葉を失った。

 だってその人は私もよく知っていて、毎日会っているほどに面識のある人だったから。




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