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 ある日、私は夢を見た。

 

 今よりも小さな私が自分の部屋の中で窓を見つめている光景。

 外を見ると、庭では二人の人物が楽しげに過ごしていた。一人は年上の女性、そしてもう一人は小さな男の子だった。

 二人とも同じ茶色の髪と緑の瞳をしていて、誰が見てもすぐに親子だと気付くだろう。

 

 その二人が知らない他人ではなく、実際に血の繋がっている母と弟であることに私は気付いた。

 


 ずっと遠くから見つめるだけ。

 楽しげに過ごしているあの輪の中に入ることは出来ず、音を立てる事もなく静かに、心の中に寂しさを抱えながら二人を遠くから見つめているだけの夢。

 

 

 

 ――その夢が本当のリリアンヌが実際に見て感じていた光景だとしたらどれだけ寂しい思いをしてきたのだろうか。




 眩しい光がカーテンの隙間から視界に当たる。

 ゆっくりと瞳を開きながら、かすかに記憶に残る夢を私は思い出していた。



(…………あれは、ゲームの、本当のリリアンヌの過去のワンシーンになるのかしら)



 毎日のように見ている家族が夢に出てきていたけど、私にとってはいまだに馴染めない家族だ。




 リリアンヌ・グラシアの家族は冷め切った家族だ。父、母、私、そして一つ年下の弟がいる。

 

 そして、この弟こそ実は【コイガク】の攻略対象者の一人だ。


 


 ルーカス・グラシア。

 

 ヒロインであるモニカ・ユニオンと同級生となる存在だ。

 そんな乙女ゲームでの彼の性格は女の子にモテる軟派系男子。甘い言葉でヒロインを誘惑して、蕩けるような甘い恋愛を楽しむルートだ。

 

 しかし、そんな彼にも苦悩する事があった。

 それが姉であり悪役令嬢であるリリアンヌ・グラシアの存在。

 


 家族間に愛情はなく、母親からは侯爵家の嫡男であることを幼いころから言われ続けてきた彼にとって姉とは他人のような存在だった。

 自分と血の繋がった姉が自分の思いを寄せる少女を苦しめる。

 

 ルーカスにとって姉が憎しみの対象となるのはそう長くはなかった。

 

 このルーカスルートのハッピーエンドで悪役令嬢のリリアンヌが迎える未来は処刑だ。

 一寸の情もなく、ルーカスは他の攻略対象者と共に冷酷に処罰する。

 

 彼の幸せな未来に、姉と言う存在は不必要だった。

 


(いやいやいやいや! 絶対そんなことにならないように阻止しないと!)

 


 と怯えながらも現時点でのルーカスと私の接点はほぼ無いに等しい。

 それは夢の中でも感じたとおり、リリアンヌと家族の仲が冷め切っているところが原因だった。

 


(でも、それはリリアンヌが望んだことじゃない。彼女だって本当はあの輪の中に入りたかったんだから)


 輪に入れなかったのは、それを望んでいない存在が居たからだ。

 

 

 小さい頃からルーカスは病弱だった。

 すぐに熱を出し、元気になってもいつまた体調を崩すか分からなかったルーカスを母はずっと心配し続けた。

 

 まだ幼いリリアンヌももちろん大切な弟が体調を崩していることが心配で部屋へ見舞いにいった事もある。

 しかし、彼に会うことは出来なかった。



「入ってこないで! ルーカスの病状が悪化したらどうするの!」


扉を開き、入ろうとするリリアンヌに冷たく投げかけられた言葉。

 傍で看病をしていた母からの叱責だった。

 


 母にとって一番大事なのは、嫡男であるルーカスだ。

 見た目も自分にそっくりで、侯爵家の跡取りである大事な息子。

 いつも病弱で体調を崩すルーカスに付きっきりになり、母からの愛情は全てルーカスだけに捧げられていた。


 ただ元気になってほしくて会いに行っただけだったのに。

 母親から冷たく放たれた言葉はリリアンヌの心へ深く突き刺さり、その傷は弟が元気になっても、消えることなく残り続けた。



 元々家族よりも権力を重視していた父。

 弟を何よりも大事にしていた母。

 一緒に居る事があまりなかった弟。

 

 リリアンヌにとって、家族とは同じ場所に住む他人のような存在となっていた。


 

 だからこそ、ゲームの中のリリアンヌは自分の傍に居てくれた大切な従者に、愛情を注いでいたのかもしれない。


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