16
一緒に来てくれたセレナから注意されたのでおとなしくベッドから降りて傍に置いてあった椅子に座る。
「お疲れさまです、セレナさん」
「今日は調子よさそうね、クイナ。さて、傷を見ましょうか」
セレナが私と一緒にクイナの所に来るのは傷の確認のため。私が手当しようと思ってましたが小さな手ではうまく包帯が巻けなかったのでセレナにお願いしたのです。
ああ、子供の身体が憎い!
器用に巻いていた包帯を取っていくと傷が露わになってきた。
奴隷商から連れてきた当初は化膿が酷くて見ているだけでも心臓が痛くなったけど、今は侍医の先生からもらった薬を塗っているし、衛生に気を付けて傷口を綺麗にしてるから段々とよくなってきたようだ。
痛みも少なくなってきたのでゆっくりだけど歩けるようにもなってきたらしい。
「だいぶ綺麗になってきたわね。これならもうそろそろ包帯を巻かなくてもいいかもしれないわね」
「本当にありがとうございます。私としてはもう元気になってきたのでいつでも働けるんですけど……」
「だ、だめ! まだクイナ歩くの大変そうだもの! もう少し休んでないとだめよ!」
怪我が良くなったら働きたい彼と、もう少し健康になってからでも構わない私との攻防がそこにはあった。
甘やかしすぎ、と思われそうだけど現代社会を生きていた私としては彼の成長は著しく低い。
リリアンヌと五歳も違うのに、体型は似通っている。
ゲーム内のクイナは鍛えられていて、素敵な筋肉を持っていたけど今のクイナはとても折れそうなほど細い。だから私の従者の仕事はもう少し元気になってからでもいいと思っている。
「でもお嬢様、私は従者です。ここまで甘やかされてしまったら面目ないのです」
「うっ……。そうだけどぉ……」
「それに、私は……一日でも早くお嬢様のお役に立ちたいのです」
(もう立ってるよ! 十分すぎる位に立ってます!)
彼が来てくれてからの一週間。どれくらい私が癒されてきたか!
毎日大変な勉強も終わった後のクイナからもらえる笑顔と「おかえりなさい」の言葉でどんなに救われたか!
彼は納得してないかもしれないけど、私はこの一週間の彼のお仕事は立派にお給料をもらっていい仕事内容だと思うんです。
だって主である私を癒すという大事な仕事を彼はしていたのだから。これはクイナ専用の大事なお仕事なんです。
何度もまだだめとお嬢様の我儘を行使してきたけど、どうやら一週間と言う時間は短いようでしっかりと私達の絆を強くできたようで……。
「リーンお嬢様、だめですか?」
顔を近づけてじっと私を見つめながらクイナが再度問いかけてくる。
私がいくらクイナの事が大好きだからって、そんなに甘くはない。甘くないはず。甘くないんだってば!
しょぼんと垂れる犬耳と私を見つめる大きな瞳がまるで可愛い子犬のように見えて、とどめの一言と言わんばかりにもう一度「リーンお嬢様?」と私を呼ぶから……!
「わ、わかった。わかったから! 無理しない程度だったら働き始めてもいいから!」
「ふふ、ありがとうございますお嬢様。一生懸命働かせていただきますね」
うう、きっとチョロいなと思われてる。私がクイナにとことん弱い事を彼自身に知られてしまってるに違いない。