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名前をつけてもらった彼は小さく自分の新しい名前を呟くと、私に対して微笑みを向けてくれた。
(天使が、天使が微笑んでいる……っ!)
ただ微笑んでるだけなのに、後光がさしているように見える! なんて尊い光景なんでしょう……!
思わず拝んでしまいそうになる自分を我慢して、私も彼に微笑み返した。
「素敵な名前をありがとうございます、リリアンヌお嬢様。これから、このクイナ。誠心誠意お仕えいたします」
これで今日からクイナは私の従者として仕えることになる。
ゲームと同じように、どんな時でも私の傍で命を懸けて守ることになる。
脳内に、前世最後の日に見た彼の最後のシーンが頭を過ぎる。
ヒロインが誰かと結ばれると、クイナは死を迎える。
ゲームと同じだと、彼もまた運命のように命を落とすかもしれないと考えて私は少しだけ考えて行動した。
――ゲームにはなかった、小さな変化を生み出すために。
ベッドに座っている彼と距離を縮める為に私もベッドの空いている端に座って、彼を見つめる。
「……ねぇ、クー。さっそくお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
「そう。命令じゃなくてお願い」
このお願いを口にするのは実はとても恥ずかしい。
ずうずうしいお願いをすると思うとゲームの一ファンとしてはおこがましい行動なのではと緊張もしていた。
でも、この願いがこれからの自分達の未来を切り開く小さな一歩になると信じて、私は勇気を出して願いを口にした。
「私、家族や仲のいい侍女には『リリィ』って呼ばれてるの。でも……クーは、クーにだけは私の大切な従者になるから呼んでほしい呼び方があるの」
「私だけの、呼び方ですか……? ええ、お嬢様が望まれるなら構いませんよ。何とお呼びすればいいですか?」
「…………『リーン』って、呼んでくれる?」
――リーン。私の前世の名前である『鈴』によく似た響きの愛称だ。
クイナが本来リリアンヌを呼ぶときは皆と同じ愛称のリリィだった。
少しでも物語の道筋から変化が欲しくて。何より推しに自分の名前を呼ばれたいと昨日の深夜ベッドの上でひそかに考えていた呼び方だ。
やはり大胆なお願いだっただろうか。
返事が返ってこなくて変な子だと思われたのでは、と不安になっているとそっと手を取られてそのまま私の手は彼の口元へと運ばれた。
「わかりました、リーンお嬢様。どうぞこれからよろしくお願いします」
「こ、こ、こ、こちらこそぉ! は、はわわわわ……!」
「リーンお嬢様!?」
(推しが尊すぎる……っ! クー様、最高!)
まるで王子様がお姫様にするような口付けを贈られ、更に望んでた呼び方で名前を呼ばれた。
彼からされた甘ーい行動はクイナファンとしてはあまりに衝撃的すぎて、私は顔を真っ赤にしながらそのままベッドに倒れ伏してしまい逆にクイナに心配をかけてしまったのだった。