12
私がゆっくりとクイナに逢えたのは、夕食が済んだ後だった。
部屋で待っている間もずっとクイナの事が心配で、大きな部屋の中を忙しなく歩き回ったりベッドでゴロゴロと転がったりと暇をもて遊んでいた。
セレナに何度もお願いしても、もう少しお待ちくださいの一言しか言われなくて不貞腐れながら夕食を取っていると、ようやく部屋への入室を許可されたのだった。
自分の家なのに何故か緊張してしまい、なかなか扉をノック出来ない。
この扉の向こうに、推しが……クイナがいる。
気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。ひっ、ひっ、ふー……って違う。これはラマーズ法だ。
ええい、女は度胸だ!と勇気を振り絞り三回ノックした。
「――――はい」
部屋の中から返事が聞こえる。
やばいやばい、心臓が張り裂けそうになっていてこのまま口から出ちゃいそう。
ゆっくりと扉を開き中に入るとそこは私の部屋に比べれば小さいけど、一人で使う分では大きめの部屋であった。
内装はとてもシンプルで、前世ワンルームの部屋に住んでいた私としてはこっちの部屋の方が居心地よさそうに感じる。
クイナはベッドに座っていた。
顔色は初めて会ったときに比べれば大分よくなっているし、風呂に入って着替えたから見た目も綺麗に見える。
「お、お邪魔するわね。…………さっきはドタバタして声もかけにくい状態だったから改めて挨拶しに来たの」
警戒されているかなと思って恐る恐る、一歩ずつ距離を縮めていたけどクイナは最初に見た時のように威嚇もしていない。
むしろ、ベッドから降りようとしているのを見て私は傍に駆け寄り彼を小さな体で支えた。
購入されたら言わなきゃいけないと教えられたのだろう。クイナはそのまま奴隷の礼儀として挨拶をし始めた。
「ご挨拶もせず失礼しました……。ご主人様、あの……私を、お買い上げくださいましてありがとうございます。ご主人様の奴隷として精一杯働きますので何でもご命令して……むぐっ!?」
「ち、違うの! 私はそういうつもりで貴方を買ったんじゃないの!」
推しの口からそんな心を抉られるような切ない挨拶を聞いてしまったら私の涙腺は一気に崩壊してしまう、絶対これ以上言わせちゃいけないと思いクイナの口を急いで両手で塞ぐ。
突然の私の行動に大きな目を見開くクイナに、私は主として最初の命令をすることにした。