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クイナを購入する書類を奴隷商が準備している間に、私とセレナは急いで近くの商店へ向かった。
何せ我が家にはクイナに着せてあげられる服がない。
弟のルーカスの服はあるけれど、従者に着せることは決して許されないだろう。
幸い、近くの商店には男の子用の子供服が売っていた。
店の中で彼のサイズに合いそうな普段着と寝間着を適当に購入する。
あくまでこれは一時的に着てもらう服であって、私としては今度クイナが元気になって時間があればゆっくりと彼を連れてショッピングに来ようと考えている。
推しに着せる服だもの、どれだけお金をかけてもいい。
これは推しに貢ぐお布施だと思えば私の財布はいとも簡単に紐を緩めてしまうのだ。
それからもクイナのこれからの生活ですぐに必要になりそうなものを手早く購入して店に戻ると、既に奴隷購入に必要な書類の準備は出来ていた。
お金を渡し、必要な書類にサインをする。
クイナの金額は金貨三十枚だった。
セレナに聞いてみると、一般の奴隷の値段が金貨三枚から五枚程度らしい。
明らかに値段を跳ね上げられたけど、推しの値段が他の奴隷と同じなわけないと思っていた私はこの金貨三十枚は妥当の値段だと一人で納得していた。
――これでクイナは無事に私のものになった。
長い時間檻の中に閉じ込められて、足も怪我をしているためか彼は歩くことさえ難しく、私とセレナの二人では動かすことも出来ないので奴隷商の店員が彼を抱き上げて乗ってきた馬車へ運ぶ。
身体中汚れていて侯爵家の馬車に最初は入ることさえも拒絶していたクイナだったけど、私がフードを持ってきて彼に着せた理由に気付くと大人しく馬車の中に入った。
本当は座っていたかったのだろうけど私が半ば強引に横にさせると、疲れ切った身体は限界を迎えていたのかそのまま瞳を閉じ、数分もすれば静かな寝息が聞こえ始める。
「探していた人が見つかってよかったですね、お嬢様」
「うん……」
隣に座るセレナが私に微笑む。
無事に彼を奴隷商から救い出すことが出来たと目の前の推しの寝顔を見て実感した。
私が知っているクイナはとてもかっこよくてリリアンヌのためなら何事もスマートにこなす、従者の鑑のような人。
大人になったクイナと比べると、今の彼は本当に小さくて生きているだけでも奇跡に近いくらい、ボロボロだ。
きっとこれからたくさん努力をして、私の知ってる彼になっていくのだろう。
何より、そんな推しの成長をこれからずっと見ることが出来る。そう思うと嬉しくて嬉しくて、クイナ観察日記を付けたくなる気分だ。
はぁ、しかし本当に少年時代のクイナは可愛い。
これからイケメンになるとわかっているけど、天使のように愛らしく感じる。
このまま何時間でも見続けていられるくらいに可愛い。というか見ていたい。
「お嬢様、口元から涎が出ておりますよ」
「あ、あら……いけないいけない」
駄目よ、リリアンヌ。本能のままに行動しちゃうとお嬢様とは程遠くなってしまうわ。
優雅にしていなくては。今はガマンガマン。
「――おほん。セレナ、館に帰ったらまずはクイナを入浴させるわ。その時に他にも怪我がないかの確認をして……終わったら買ってきた服を着替えさせて怪我の手当てをしてもいましょう。料理長にはおなかに優しい食事を用意してもらってちょうだい。あとは部屋は私の専属になんだから隣の部屋にしてちょうだい。当分は怪我を治してもらうためにいっぱい休んでもらって……」
「お、お嬢様! さすがに隣の部屋はまずいと思います!」
「え、だめなの? 私だけの従者なのに?」
「だめです!」
そんな……夜に忍び込んで寝顔を見るのは……まぁさすがに犯罪か。主でもそれは事案と言われてしまう。
妥協して一番近くの使用人部屋を使ってもらうしかないか。
さて、家に帰ったら忙しいわ!
クイナをお風呂にいれて綺麗にするんだから――
と、気合十分で屋敷に帰ってきた私だったが「世話をお嬢様にさせるわけにはいきません!」とセレナから断固反対され、私は部屋の中でおとなしく待機を命じられたのだった。
(推しの、入浴シーン……この目で見たかった。がっくり)




