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10


 そこは今いる檻とは少し離れて、少し大きめの檻となっていた。

 

 薄暗い店内の中でもここはさらに暗く、どうやら一時的に売り物から外している奴隷の檻をこの部屋に置いてるらしい。



「こちらがその奴隷です。足を怪我しちまってから客の前でも威嚇をするようになったからお客さんの身の安全を考えて少し離してたんですよ」



 近付くにつれて大きくなるうなり声、部屋の中に入ってきた私たちを警戒しているのだろう。

 檻の前に立ち、私の視界に入ったのは……暗い室内でも光る射貫くような鋭い視線の赤い瞳だった。


 暗闇に目が慣れてくると辺りも見やすくなって、瞳以外も見えるようになる。



 怪我した足を隠すように身体を強張らせて小さくなり、ボロボロの白い髪の上にある髪と同じ色の犬耳は前側に伏せていた。

 小さな尻尾も微かに何かを探るように揺れている。


 そこにいたのは紛れもない、私が探していたクイナだった。



(クー様だ……。間違いない、本物のクイナだ!)

「お嬢様……?!」



 戸惑うセレナの声が聞こえた気がしたけど私はその見つめる視線に引き寄せられるように、檻へ向かう。

 一歩距離が近付くたびに彼の警戒が強まっていくのを肌で感じる。



「あ、あの……」

「この檻を開けなさい、今すぐに!」

「はひっ!!」



 私の怒鳴るような命令を聞いて奴隷商は急いで鍵を用意し開けると、私は勢いよく檻の扉を開けて一目散に彼の元に向かい、そのボロボロで小さな身体を強く抱きしめた。



「――――――っ!」



 突然の行動にクイナの身体は固まる。

 自分より小さな幼女が檻の中に入ってきて、自分を抱きしめてきたのだから驚くだろう。

 抱きしめる腕の中で彼は身体を強張らせていた。


 令嬢らしくない行動と思われるけれど、もう我慢できなかった。



 「よかった……っ、本当に見つかって……よかったぁ……」



 クイナが生きてる。

 推しキャラが私の腕の中にいる。息をしてる、温もりがある。

 

 

 あまりにも今まで彼が過ごしてきた環境が自分の想像をはるかに超えて、ひどくて……心が張り裂けそうだった。

 


 もっと眺めていたいのに目から涙があふれて零れる。

 早く止めてクー様を見たいのに、感動と悲しみのあまり止まってくれない。

 

 

 私の五歳年上のはずなのに、クイナの身体の大きさは私と同じくらいだった。

 

 綺麗な白い毛並みも汚れてボロボロになり……身体も手足も折れそうなほど細い。

 身体の至る所に傷があって、太陽の下には出ていなかったのか肌も毛並のような白を通り越して青白かった。

 


 大好きな推しがこんな過酷な環境に何年もいたと考えただけで悲しくて苦しくて、一分一秒でも早くここから助けたかった。

 

 硬直は解けたものの警戒は解いていないのか私の腕から離れようと、か弱い力で抵抗している。

 そんなクイナを抱きしめたまま振り返ると、睨むように奴隷商を見つめて告げた。



「彼を購入します。いくらですか」

「はっ、えっと……怪我してますが……よろしいので?」

「かまいません。すぐに支払いをして連れていくわ。急いでくれる?」

「しょ、少々お待ちを……!」



 部屋を飛び出した奴隷商は放っておいて、私は檻の外で待機しているセレナに声をかける。



「セレナ……持ってきたフードと、お水出してくれる?」

「は、はい!」



 様子をうかがっていたセレナが慌てて檻の中に来てくれて持ってきていたフードとレモンを入れておいた果実水の入った水筒を手渡してくれた。


 警戒するように睨みつけるクイナに、私は必死に笑顔を作り手渡されたフードを着せ水筒を渡す。

 喉が渇いていたのだろう。

 渡された水筒を奪うように取り、軽く匂いを嗅いで問題ないと察したのか勢いよく喉を潤していった。


 きっと満足に食事も与えられていなかったのか、この場に何か口に入れれるものを持ってこなかったことを後悔する。



(クー様、もう大丈夫だよ)



 そう、彼に伝わるようにフードを着せる時にさりげなく小さな手でそっと何度も彼の頭撫でた。



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