アルデバランを継ぐもの
「姉上、無事に帰還されてよかった。」
「……陛下」
「そのように、他人行儀に言わないでください。たった二人の姉弟ではないですか。オレールと呼んでください。」
ジゼルは少し惑って、視線をさまよわせた。
オレールの隣には、宰相が立っていたが、どことなく二人は信頼関係にないのだろうと思った。
ジゼルとオレールは、家族というだけあって、よく似ていた。少し淡い栗色の髪も、ヘーゼルの瞳も同じだった。
12歳という幼さで、転がり落ちてきた玉座に、しがみついている弟に同情する。
信頼できる「人間」が少ないのだろう。宰相とは反対側に立っているエマニュエルを見て、そう思った。
「姉上、長い間、あなたに辛い思いをさせてきました。こんなことでは、代償にはならないとは思います。ですが、もし、何か願いがあれば、私の力で叶えて差し上げたいのです。」
ジゼルとオレールはよく似ている。だから、家族と言われても、あまり疑問を持たない。でも、一度も会ったことのない人を、よく姉と躊躇なく呼ぶことができる。ジゼルが同じ立場だったら、そんな風に呼びかけることはできない。
血のつながりは、その人の人となりを表すものではないからだ。
さまよわせていた視線は、ふとエマニュエルの銀色の耳に向かった。そしてすとんと落ちて、ゆるく揺れる尾に向かう。
「……姉上?」
「……私は、」
――――――自由に、空を、
そう呟いてから、我に返った。尾を追いかけていた視線も、オレールに戻す。自分と同じ、ヘーゼルの瞳に、しっかりと意識を向けた。
悟られてはいけない。
ジゼルは反射的に思った。
「今は、思いつきません。思いついたときに、願い出てもよろしいですか。」
「……守り人の多くは、無欲だと聞きましたが、姉上もそうですか。」
ジゼルはあいまいに微笑んだ。
ジゼルは、多くの守り人たちが無欲だったとは思わない。無欲にさせられていただけで、守り人に何かを望む自由などなかっただけだ。
残酷だなと思った。
神殿の中も、外も、同じくらい残酷だと思ったが、ジゼルには興味がなかった。