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揺れるリブラ




ベルラインのシルクで出来たウェディングドレスは、想像していたよりも重かった。ビロードの絨毯の上を歩くと、引きずったベールが鉛のように重く感じる。

本当は祭壇まで続く道を親族と歩くものだそうだが、それは許されなかった。弟は国王だから、参列者よりも祭壇に近い位置にいる必要があったし、外戚だが反オレール派の宰相に王女の手を引かせることはできなかった。何より、守り人が、神の御許まで歩くのに、誰の手を必要とするのだという神殿の言葉で、その慣習は却下された。

ジゼルは誰の手も借りることを許されず、重くてたまらない衣装を着せられて、祭壇まで歩かされているのだ。


政も、神の言葉も、ジゼルにとって嫌なことしかしない。


祭壇の前で待つ夫となる人は、その尾を揺らすことなく、ただ立っていた。こちらを見ることもなく、神の炎の前で、ただ立っている。

顧みられることがないのも、ジゼルには、もはや慣れたことだった。

無理やりに結婚を早めたにもかかわらず、二人は結局、距離を縮めることも、心を通わせることもなかった。

増えたのは、ジゼルの首筋の噛み傷だけで、半年前から何も変わってはいない。姫という呼び方も、親切なふるまいも、あの表情も、揺れない尾も、なにもかも。


大きな背中、揺れない尾


占いはよく当たるものだ。朝が弱くて、風呂ギライで、いつもぐずぐず言っていて、アンヌ=マリーに怒られている魔女を想像して笑ってしまう。

また一歩、重い足を前に出しながら、姿勢のいい背中を見つめた。その先にあるのは、消えない炎からうつされた小さな火で、どこの神殿もその火が消えないように守っている。

その火に照らされた銀の毛並みは、いつにもまして美しく見えた。

祭壇の前で、祈りの姿勢を取った後、神官に促されて、炎の前で指輪を交換する。たったそれだけなのに、どうして、こんな気持ちになるのだろう。


左手を取られた。


大きな手に包まれて、左手の人差し指に、銀色の指輪をはめられた。あの日、店の娘が言っていた約束の指とは違う。約束の指輪は、今、ジゼルの左手にはない。

約束の指輪は、箱に入れて、鏡台の中にしまい込んでいる。もう二度と、つけてはいけないと戒めるために、箱はリボンでとめてしまった。

この結婚で夫は、リシュリュー公爵という名前を手に入れ、それにふさわしい領地と富を約束される。だが、それが、夫の望んでいるものだとは、思えなかった。

今度は、ジゼルが銀の狼の左手に指輪をはめる。


このまま、この指輪を投げ捨てたら、どうなるのだろうか。


ほんの一瞬、そんな想像をしてから、ゆっくりと大きくて硬い手に触れる。この手は、きっと、これからもずっと、ジゼルの手を握り返すことはないのだろう。それが、どれほど、ジゼルを傷つけることになるだろうか。どこか他人事のように、そう思った。







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