シリウスの翼
「ジゼル様、」
王都に戻る間、ジゼルは馬車でゆっくりと旅をすることになった。豪華すぎず、でも内装はしっかりとした馬車の周りには、何人か騎士がついている。それ以外に、空を舞う竜が見えた。竜騎士が2人、ジゼルの護衛をしてくれている。1人でも、一個師団の力を持つという竜騎士が2人も護衛についている。
そのうちの1人が、銀色の狼の獣人であるエマニュエル・バイエだった。伯爵位を持つというエマニュエルは、新しく王になったという弟の信頼を得ているらしい。
知らない間に、生まれていた弟は、12になったばかりだと侍女たちから伝え聞いた。
ジゼルを除いて仲が良かった王家も、今は弟と自分が残っているだけだと知ったが、会ったことのないものに情を抱けるような人間ではジゼルはなかった。
馬車を止めている間、自由に空を飛ぶ竜を見上げる。硬そうな鱗、広げた大きな翼が、自由に舞う様子を見ていると、羨ましく思えた。
次に生まれるならば、竜のように自由でありたい。
「ジゼル様……守り人様」
ジゼルは、呼ばれていたことに気づいて、見上げていた空から視線を戻した。
「気づかなかったわ、ごめんなさい。」
「いいえ。お茶の準備ができました。こちらへ、どうぞ。」
ジゼルの身の回りの世話をしてくれているのは、アンヌ=マリー・ダリエだ。ジゼルよりも若くて、まぶしくなるような笑顔を振りまいている。
侍女は多くはないが、アンヌ=マリーだけが、ジゼルに触れるので、それなりの身分なのだろう。他にも侍従や荷物を運んでくれる下男もいるが、誰もかれもジゼルには近づこうとはしない。その多くが、獣の耳を持っている。
ジゼルに近づくのはアンヌ=マリーを筆頭に、耳を持たないものだけだった。
お茶を口にしながら、空を見上げる。くるくると飛ぶ竜が二頭、見える。黒と銀の竜だったが、どうしてか黒い竜ばかり目で追ってしまった。
銀色の竜は、太陽の光を反射してまぶしすぎるせいだと思った。