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冷たい色のカフ




ジゼルは、初めて着せられたワンピースの丈の短さに、戸惑いながら椅子に浅く腰を掛けていた。

エマニュエルが来るまでの、ほんのわずかな時間を、ジゼルは高揚とも不安とも違うざわざわとした感覚の中、過ごしていた。

クリーム色のワンピースは商家の娘が着るようなもので、お忍びにはぴったりだった。胸には紺色のリボンがあしらわれていて、真ん中を赤いガラス玉で留めている。ジゼルも気に入っていたその装飾は、エマニュエルの瞳の色だ。

浅く座ったまま、扉をじっとジゼルは見つめていた。この扉が開いたとき、エマニュエルがどんな顔をしているか想像していた。

困ったような、惑ったような、そんな表情を想像する。




「ララ、残念だったわね?」




傍らに立っているララは、これまた商家の娘に仕える使用人にふさわしい姿をしていた。




「何がですか。」

「私が、ラサルに乗って、死んでいたら、あなたの目的は達せられていたのに。」




ジゼルは静かにつぶやいた。カーテンが窓の隙間から入ってきた風にあおられていた。




「……目的?何を仰っているのだか。」

「誰も咎められない死だもの。私が死んだら、あなたは嬉しいでしょう?それとも、あなたの主が嬉しいのかしら。」




ジゼルはそっと目を閉じた。エマニュエルの困った顔が、嬉しそうに変わっていくのを想像する。唇が弧を描いたところを見たことがないなと、自分の唇にそっと触れた。




「私は、あなたの護衛です。あなたを何があっても守ることが仕事だ。」

「そう。不本意な仕事なのね。」




ジゼルがそう答えた瞬間に、ノックと共に扉が開いた。ジゼルは触れていた唇から手を離して、練習したとおりに唇を持ち上げた。




「エマニュエル」

「姫、お迎えに上がりました。」




エマニュエルも、また、商家の息子らしい服装だった。そして、表情は、ジゼルが想像したとおりだった。ジゼルは、エマニュエルのエスコートのために伸ばした手に手を重ねて、立ち上がり、自分の唇にほんの一瞬触れる。




「姫?」

「いいえ、今日は、そんな風に呼んではだめよ。お忍びなのでしょう?ジゼルと呼んで。」

「……そうですね。」

「様もだめよ?私は、エルって呼ぶわね。」




ジゼルは、重ねていた手をぎゅっと握った。エマニュエルは、それに驚いたように震えて、そして握りこまれることなく開かれたままだった。

ジゼルは、このまま、きっとエマニュエルと結婚することになる。結婚した後も、きっと、ジゼルはこの手を握る。握り返されないその手を、それでも握りしめるだろう。

握り返されないことを、何度も何度も確かめるように、自分はこの手をきっと握り続けることになるだろう。そう思った。







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